10 エピローグ


 それから6年後の、ある晴れた昼の日の事。オニキス家の屋敷で、慌ただしい足音が響き渡る。


 ニルナさんは部屋に入るなり開口一番、どこか怒りをはらんだ声で私を呼ぶ。


「奥様! キヌヨ様! またうちの馬鹿旦那様がやりやがりました!」


 名を呼ばれたオニキス辺境伯夫人である私は、一人息子のコウに絵本を読み聞かせていた。


「どうしたんですかニルナさん。まぁ薄々察していますけれど」

「空中都市運営の権利をまた他の領地から買い取りました! しかも今度は坊ちゃまのための遊園地都市を作るとかで!」

「やったぁ! お父様大好き!」

「お母様のことは?」

「お母様も! ニルナも! シャインも! みーんな大好き!」

「ぼ、坊ちゃま……! 本当にお可愛い人だ……! どこぞの腹黒馬鹿お父上とは違う____ってとにかく!」

「わかっています。全く困ったお人ですね」


 まぁきっと、他に何か考えているのだろうけれど。そんな信頼に似た思いを抱えたまま、夫の執務室へ向かう。


「シロール!」


 部屋に入り名を呼ぶと、彼は瞳を輝かせた。


「キヌヨ! コウも! 聞いてください、わたくしはまた土地を買いまして___」

「はいはい。とりあえずそこに正座してください」

「えぇ。だってぇ」

「お父様、可愛い子ぶっちゃ、め!」

「お前はキヌヨに似てきたなぁ」


 弾むような家族のやり取りを交わしながら、シロールがコウを抱える。あまりに二人がはしゃぐものだから、私はなんだか楽しくなってしまう。お説教は短めにしてあげようと考えてしまう甘い自分に喝を入れるため、頬をぱん! と手のひらで打つ。コウが「お母様変なの!」と笑っている。シロールも楽しそうに笑うから、私もつられて、微笑んでしまった。

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流星様と踊る日に  区院ろずれ @rukar

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