第4話 完結編
私が先に行けば、
きっと健太郎は帰ってこない。
「分かったよ」渋々健太郎は布団に入り、
「さよなら、母さん」布団を被り、消えた。
「ありがとうスズカちゃん、元気でね」
「さよなら、果歩さん」私も布団に入った。
気が付いて布団から顔を出した私を出迎えた士郎さんと、私が発した言葉は奇しくも同じだった。「健太郎は?」
私は、私が経験した事の一部始終を話した。夢か現実か分からない様な私の話を、士郎さんは真剣に聞いてくれた。時折頷き、涙ぐんでいた。
ただ、布団を燃やすことについては「健太郎が戻ってくるかもしれないから」という理由で、もう少し待つ事になった。
【最終話】
健太郎は見つからず、戻ってはこなかった。
私はそれから幾度か士郎さんを訪ねたが、会うたび憔悴しているように見えた。
最後に会った時、リビングで私が淹れたアールグレイを飲みながら、
「時々、こうして座っていると、二人が一緒にいる気がするんだ」
と、寂しそうに、そしてちょっぴり嬉しそうに士郎さんは言った。
それから程なくして、士郎さんは姿を消した。
「士郎さんが健太郎を殺し、自ら命を絶った、心中した」
果歩さんが亡くなり、健太郎が消えて士郎さんがいなくなった事でそんなことを口にする人も出てきた。
無理やりにでもあの布団を処分すべきだったのだろうか。
でも私には家族と一緒にいたいという気持ちが、そんなに悪い事とは思えなかった。
それが生死の境をまたいでしまう事で、現実世界に混乱を来すとしても。
健太郎は、あの時引き返したのかもしれない。
士郎さんはあの布団で健太郎を探しに行って、そのまま向こうで一緒に暮らして居るのかもしれない。
そう考える方が、ずっといい。
【終】
イントゥー・ザ・ベッド 宮藤才 @hattori2525
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