3.迷宮制覇

 僕たちは二階層を終え、三階層へと進んだ。

 三階層を順調に進んでいき、途中でセーフエリアをみつけた。

 セーフエリアは迷宮ダンジョンの休憩所と呼ばれ、魔物が寄り付かない安全な場所だ。


「ここで暫く休憩しよう」

「はい!」


 セーフエリアは休憩所というのもあり、他の冒険者たちも多数いる。


「さて、一旦寝るか」


 僕も休もう。

 

 みんなが寝静まろうとしているときだった。


「すみません」

「わっ!?」


 突然エリカさんが抱きついてきた。……泣いている?


「怖かったんです」

「エリカさん……」

「何も聞かないで抱きつかれてください」


 良い匂いがした。僕はそう言われなくても、何も言えなかっただろう。

 一分ほど経っただろうか、僕は顔が真っ赤になり限界を迎えていた。女性にこういうことをされたのは初めてだ、さっきから何も考えられない、頭がクラクラする。


「あ、あの」

「あ、すみません ありがとうございまし」

「なにしてるの~? 私もまぜて~!」

「たっ!?」


 マイカさんがこちらへ近づいてきた。


「面白そうなことしてるね、俺もまぜてよ」

「マ、マイカさん!? コウタさんまで!」

「あ、それとも邪魔しちゃ悪かったかな?」

「い、いえ」

「それ私もやる~!」

「俺も」

「ぎゃっ! みなさん!? ぐわっ」


 僕にエリカさん、マイカさん、コウタさんが抱きつく。もしかするとこれが伝説の青春ってやつなのだろうか。


「チャージかんりょ~!」

「俺もシュン成分ありがとう」

「わ、わたくしも その……」

「ど~したのかな~?」

「え、えと 少し落ち着きました」


 唐突に始まった僕を真ん中に3人が抱きつくという謎現象が起こったのであった。

 その後エリカさんのほうを見たら、あちらも気づいたのか頬を膨らませていた。


 休憩も終わり、僕たちは迷宮ダンジョン攻略の続きを始める。

 休憩のお陰もあってか順調に三階層を終え、四階層へと進む。

 四階層は明らかに空気が違う視力強化と暗闇耐性を使っても薄暗い、魔物も強そうだ。今までの層も大変だったが、四階層は気を抜くと全部持っていかれそうだ。

 さらに気を引き締めて臨もう。


「くらいね~!」

「俺の輝きの前では無力だけどね」

わたくしの光魔法効果ありそうですか」


 うん、みんないつも通りだ。

 さすが勇者たち、僕は戦いが続いたなかで付与が効いているだろうと天狗になっていたんだ。少しでも自分が活躍したなんてありえない、勇者たちのお陰だから僕は少しでも力になれるようもっと頑張らなきゃ! でも、そういうとこすぐ気づいて偉いぞ僕!


 四階層、さすがは勇者パーティーだ苦しい場面もなく最終層へと続く階段がみえてきた。


「ついに来たね」

「つぎもよゆうだよ~」

「あまり気を抜かないでください」

「が、頑張りましょう」


 ――僕たちは最終層に着き、大きな扉の前にいた。


「でっか~!」

「援護は任せてください」

「ぼ、僕も援護頑張りまひゅ」

「はは 俺たちなら大丈夫だ では、開けるぞ!」


「ギギィ」


 大扉が動いた、多分この先はボス戦だ。全力を出し切るぞ。

 扉の先に進んだとき少し視界が歪んだ。なんだ、目のかすみか?

 その時僕たちは気づいていなかったんだ。

 迷宮ダンジョンというものは最終層にただボスが構えているんじゃない、迷宮ダンジョンが冒険者に合わせボスを選んでいるのだと。確かに道中の魔物で迷宮のレベルは変わる、だがボスは関係ないんだ。


「バタンッ」

「よくぞ参られた 勇者たちよ」


 その姿は綺麗で美しい大きなドラゴン

 僕たちはその瞬間明確な文字が頭に浮かんだ『勝てない』と。

 みんなが立ちすくむ中、最初に言葉を発したのはコウタさん。


「みんな怯むな! 俺たちは誰だ?」


 勇者のその一言でみんな我へと返る。


「マイカ、最大魔法を頼む」

「エリカはバリアを シュンはかけられるだけ付与を頼む」

「了解!!!」


 僕たちはありったけをぶつける。


「炎系最大魔法 "太陽サン"」

「我が身を守れ "神盾イージス"」


「シュン、今だ!」

「はい!」


「全てを付与しろ "全部付与オールグラント"」


「いくぞ!」

「聖なる剣よ 今ここに "聖剣エクスカリバー"!!」


「ドカンッッッ」


 それぞれの大技が直撃した。

 大きな爆発とともに舞った煙は徐々に消え、かの者の姿を現していく……。


「ほう 流石は勇者たちだ、少々効いたぞ」

「なにっ!?」

「勇者たちに敬意を表し私の力をお見せしよう」


「すうううううううう」


 龍は息を吸った。


「"究極龍息アルティメットドラゴンブレス"」


 そのブレスは全てを焼き払った――。

 

 

 ああ……生きてはいるが、生かされているんだろう。僕たちは負けたんだ……。

 だけど、そう思っていたのは僕だけだった。


「いってえ! ドラゴンさんよお、俺たちはまだ負けてないぜ?」

「フハハハハ 究極龍息あれを耐えるか、さすが勇者たちだ。 というか先に攻撃してきたのはお主たちだぞ? そりゃあんな凄い技見せられたらこちらも期待に応えなきゃドラゴンが廃るだろう?」

「え?」


「いったいわねえ! あんたちょっとは手加減しなさいよ! てかエリカ、私に対しての盾だけなんか小さくなかった???」

「さあ? まあ、わたくしも痛かったですし気のせいではないですか?」

「ははは いてて、やっぱみんな凄いや」

「そういうシュンもまだ戦えそうじゃないか!」

「はは まあ、そうだけどドラゴンさんの方が強いのは分かったので」

「はあ!? それ言っちゃダメでしょ!!」

「う、すみません」


「……フハハハ まさか究極龍息あれを受けて立ち上がり、さらにまだ戦えると申すか! フハハハ まあ、よい 我の負けだ! 総合的に負けたわ! というか最初から戦う気などなかったんだがなあ」


「えっ!?」


「我はただ、お主たちの仲間に入りたいだけだぞ?」

「どういうことだ?」

「あ、そこの付与術士 名はなんと?」

「俺を無視するな」

「シュンですけど」

「シュンならいいよ」

「では、我に相棒ともの証を付与してもらえるか?」

「付与するのは良いんですけど、良いんですか?」

「頼む」


 相棒ともの証……人以外に付与出来る印、この印を付与されることで付与術士と文字通り相棒ともになる。お互いが了承した場合のみ使用可能。


「これで完了です」

「フハハ では、これから我とシュンは相棒ともだな」

「っ、宜しくお願いします!」


 どうやらドラゴンさんは仲間と共に旅をするのが夢なのだそう。だけど、そもそもドラゴンさんに会える冒険者が少なく、仲間になってくれる冒険者はいなかったらしい。僕は動物好きなので嬉しいな! 動物なのかはわかんないけど。メンバーのみんなもドラゴンさんと相棒ともになることを快く了承してくれた。

 のだけど……。


「シュン、その相棒ともの証とやらぜひ俺にも使ってくれ!」

「はっ!? じゃあ私にも頂戴!」

「わ、わたくしもその……。」

相棒の証これは人には使えないんですってば!!」


「だ、だから 無理です~!!」


 こうして、迷宮の最終層で出会った青い龍が仲間に加わった。

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