第2話 おっさんと賊に襲われている馬車





「股間の違和感が半端ない……」


『ふた◯り美少女で中身はおっさんって、冷静に考えたら終わってんな』



 俺は無言で聖剣グランティリカを地面に放り捨て、全力でゲシゲシ踏みつける。


 念入りに土埃をかけるのも忘れない。


 身体は少女になってしまったが、俺は無事にダンジョンを出ることができた。


 何日もダンジョンに潜っていたから時間の感覚がおかしくなってると、日の光は気持ちのいいものだった。


 これが男の身体だったらどれほど良かったか。


 俺は今、ある一部分を除いて完全に少女になってしまっている。

 胸には確かな柔らかさがあるし、華奢で小柄な女性らしい丸みを帯びた身体だ。


 問題はその一部分。


 普段は気にしたこともなかったが、身体が少女になってしまったせいか、股間に尋常ではない違和感があるのだ。



「くっ、さっさと教会で呪いを解いてもらおう」


『何度も言っているが、我が汝に施したものは祝福だ。教会の神官では解けぬぞ?』


「やってみなきゃ分からんでしょうが!!」



 俺は認めない。


 こんな聖剣を名乗る邪剣の言葉は信じず、しっかりとした診察を受ける。


 それでも駄目なら、その時に考える。


 ダンジョン攻略に当たって高い金を払った装備はサイズが合わなくなったし、今はインナーのみ。


 装備はダンジョン最奥に置いてきた。


 重い装備を抱えながらのダンジョン脱出はリスクがあるため、装備を捨てて最短距離を最速で走ってきたのだ。


 自称聖剣の呪いを解いたらダンジョンまで迎えに行くからな、俺の装備たち!!



『で、どこに行くのだ?』


「あぁ、こっからそう遠くない場所にサーレって街があんだ」


『発展してんの?』


「……どうだろうな。俺ぁサーレで生まれて冒険者になって、サーレを拠点にずっと活動してる。余所に行ったことがないから、イマイチ発展してんのかは分からん」


『ほーん』



 腹立たしいが、話し相手がいるというのは悪くない。

 ソロで活動していると、移動中とか暇な時間はついつい余計なことを考えてしまうからな。


 装備が壊れたらどうしよう、とか。知らない魔物に遭遇したらどうしよう、とか。


 雑談を交えながらサーレの街を目指すことしばらく。



「む」


『ん? どうした? 美少女の気配か?』


「……風に乗って金属がぶつかり合う音がした。誰かが戦ってやがんな」


『ええ? うっそだあ。我、聞こえなかったもん』


「俺ぁこういうのには慣れてンの。ちと様子を見に行くか」



 音を頼りに駆け出し、俺は膝丈まで草が伸びた草原に出た。


 そこから更に走ることしばらく。


 俺は街道で賊に囲まれ、停車している一台の馬車を発見した。



『おお、こりゃまたテンプレな』


「言ってる場合かい。ありゃあ『黒風盗賊団』だな。一人一人は大したことないが、連携が上手くて逃げ足も早い。連中の被害にゃあほとほと困らされてる」


『うーし、やりますか!! 我の力を汝に見せてやる!!』


「は? 嫌だよ。すぐサーレに向かって衛兵を呼ぶ方が絶対に安全だ」


『えー? んだよ、つまんないな。――んん!?』



 と、そこで聖剣がギョッとしたように叫ぶ。



『おい、見ろ!! あの馬車の窓!! 美少女が乗ってるぞ!! めっちゃかわいい!! お貴族様かな!?』


「ん? あー、そうなのか」



 遠くて俺には見えないが、見たところ馬車は豪華な装飾が施されている代物だ。


 馬車に貴族が乗っていても不思議ではない。


 でも俺、貴族が嫌いなのだ。

 前に善意で賊に襲われてる貴族を助けたら遅いとか罵られてしまった。


 以来、賊に襲われている貴族を見つけても衛兵に任せるようにしている。


 今回もそうしよう。



『ちょ、おい!! あの子、助けようぜ!! 我、聖剣だから分かる!! あの子絶対に良い子だから!!』


「嫌」


『この人でなし!!』


「剣に言われたくないな……。そもそも俺は一人で多人数を相手にするのが苦手でね。夜ならやりようはあるけど、真っ昼間じゃあどうしようもない」



 俺は事前に準備を重ねて対策をする。


 そうやって相手に反撃を許さず、一方的な攻撃で倒すのだ。

 よく他人からは『チキン』だの何だの言われちゃいるが、知ったことか。


 勝てば官軍、負ければ賊軍という言葉が東方にはあるらしい。

 俺はそれを実行しているに過ぎない。



『おいおい、そりゃあ我がいない状態での話だろ?』


「は?」


『我ならあの程度、一瞬で殲滅することが可能!! だって我、聖剣だもん!!』


「……本当か?」


『本当本当。我、嘘吐かない。我の言った通りにすれば大丈夫』



 俺はグランティリカから、聖剣の真の力を解き放つための呪文を教わった。


 けど、言いたくなかった。



「……それ、本当に言わなきゃ駄目なのか?」


『駄目。じゃなきゃ我、本気出せない』


「……一回しかやらないからな」



 俺は辺りに誰もいないことを確認してから、軽く咳払いをする。



「聖剣ちゃん♪ にゃあ困ってるから、にゃあのこと助けて欲しいにゃん♪」


『……可愛いと思ったけど、中身おっさんだと思うとキツイな』



 はああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!


 死にてぇッ!!!!


 俺は心の中で叫びながら聖剣をへし折ろうと地面に叩きつけようとして、勢いよく振り下ろした時。



『うおおおおお、エクステンドバーンッ!!!!』



 聖剣から無数の光の刃が生じ、それらが馬車を襲う賊に向かって行った。

 一切の躊躇をすること無く、死角から賊が串刺しにされる。


 抵抗もできず、賊は真っ赤な血の海に沈んだ。



「……まじか」


『どう? 我、凄くない?』


「……悔しいが、こりゃヤバイな。お前さん一人でドラゴンも倒せそうだぞ」


『そりゃあ我、最強だし?』



 言動や性格はともかく、この聖剣はダンジョンを攻略した報酬に相応しい性能を有しているようだ。


 言動や性格はともかく、な。


 俺と聖剣がそうこう騒いでいると、馬車の護衛をしていたと思わしき騎士たちがこちらに向かってくる様子が見えた。



「おおっと、急いでズラかろう。文句を言われちゃ困る」


『ええ? お礼とかくれそうじゃない?』


「お前さんが貴族様にどんな印象を抱いてるのかは知らんがな。連中は平民から搾れるだけ搾り取る悪魔みたいな奴らさ。いや、悪魔の方が契約を遵守する分、奴らの方がタチが悪い」


『そんなに? 単純に汝が色眼鏡で見ているだけでは?』


「……うるさい」



 若かりし頃、俺がダンジョン探索でポカして金欠に陥った時のことは今でも覚えている。

 よりによってダンジョン税なるものを施行した恨みは絶対に忘れない。


 お陰で塩とお湯で作ったスープを三日三晩飲む羽目になった。


 俺はあの時の恨みを胸に、サーレの街に向かって走り出す。


 ただ、少し身体に異変を感じた。



「ん? なんか、速いな?」


『ははは!! 我の所有者になったからな、汝の身体能力が数段向上しているんだ。ダンジョンから脱出する時も同じような速度だったぞ』 


「……まじですかい」



 素直に驚いたというのが本音だ。


 さっきの光の刃もそうだが、身体能力の強化までできるとは。


 俺を美少女に変えたことは腹立たしいが、やはり聖剣というのは偽りではないのかも知れない。









―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「にゃん♪ ……これは死にたくなる」


聖『皆もやってみてくれよな!!』



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ベテランおっさん冒険者、聖剣を引っこ抜いたら美少女になってしまった!? ナガワ ヒイロ @igana0510

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