ベテランおっさん冒険者、聖剣を引っこ抜いたら美少女になってしまった!?
ナガワ ヒイロ
第1話 おっさんと聖剣グランティリカ
「はあ、はあ、はあ、はは、はははは!!」
俺は思わず笑ってしまう。
高い金を払ってドワーフに作ってもらった魔法の鎧はすでにボロボロ。
その他にも大量の魔法のアイテムやポーションを使い、ようやくダンジョンの最奥に待ち構えているガーディアンを倒すことができた。
笑いたくもなる。
才能が無いから冒険者は辞めろと憧れの人に言われたのが十五歳の時だったか。
ここまで至るのに二十年もの月日がかかってしまった。
「俺だって、やりゃあできるじゃねぇか!!」
この世界には無数のダンジョンがある。
ダンジョンは神の試練だとか言う奴もいるが、正直どうでもいい。
ダンジョンにはロマンが詰まっている。
だから俺は冒険者になったし、一発当てて億万長者を目指した。
でも、三十路を過ぎた辺りから俺は自分の生き方に疑問を抱いてしまった。
このままで良いのか。このまま何となくで冒険者を続けるのか。
俺は何者にもなれないまま、終わるのか。
そう思ったら俺は急に虚しくなって、一つの目標を掲げるようになった。
その目標こそが俺の生まれ育った街、サーレの街の近くにある、若手の頃から挑んできたダンジョンを完全攻略するというもの。
ダンジョンの完全攻略は英雄の所業だ。
その最奥には完全攻略を成し遂げた者に巨万の富を与えると言われている。
「ガーディアンが守ってやがったこの扉の向こう側に、お宝がある!!」
俺は意気揚々とダンジョンガーディアンが守っていた鉄の扉を開いた。
この先は宝物庫。ダンジョンのお宝がある。
ガーディアンが生きている状態では硬く閉ざされていた扉だったが、少し押しただけであっさりと開いた。
その扉の向こう側には噂通り、巨万の富が――
「無い!?」
ダンジョンの最奥、宝物庫には何もなかった。
巨万の富どころか黄金の一欠片も無い。ただ埃っぽいだけの真っ白な空間。
「ま、まじかあ……」
俺は膝から崩れ落ちる。
ダンジョンを制覇して億万長者になったら、色街一番の美女を身請けでもして嫁にして引退しようと思ってたのに。
……ぷっ。
「はははははははっ!!!! ま、こういうのも面白いわな!!」
命懸けでガーディアンを倒したのに、宝物庫に何もなかったのは正直ショックだ。
でも人生なんてそんなもんだろう。
「さて、と。長居してたらガーディアンが復活するかも知れんし、早々に帰るか」
ダンジョン攻略したら宝物庫は空だった。
これは一生の笑い話にしようと思い、俺は宝物庫から出ようとした、その時。
何者かの気配を感じた。
それもさっきまで何もなかった宝物庫の中に気配を感じたので、俺は咄嗟に振り向いた。
「……剣?」
たしかにさっきまで何も無かった。
しかし、今は部屋の中心に台座があり、その台座に一振の古びた長剣が刺さっている。
「さっきは無かったはず……。流石に罠ってこたあ無いよな。……よし、自分へのご褒美にするか」
せっかくなので俺は台座に刺さった剣を持ち帰ることにした。
剣に触れると、あっさりと台座から抜ける。
すると、俺の脳内に直接知らない何者かの声が響いてきた。
『なんでおっさんなんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!』
「!?」
中性的な、男性とも女性とも取れる声だった。
俺は辺りを見回して警戒するが、人影らしいものは無い。
すると、その『声』はまたしても絶叫する。
『我は、我はこんなくたびれたおっさんに使われたくないのに!! おっぱいの大きな美少女やお姉さんに使われたかったのに!! わざわざ見つからないように苦手な魔法で姿を隠したのに!! 見つからなかったと安堵してうっかり魔法を解いた瞬間にどうしてこっちに振り向くんだよおおおおおおおおおおッ!!!!』
それは悲痛な叫びだった。
そして、俺は瞬時にその『声』の主が誰なのか察して困惑する。
「剣が、喋ってんのか!?」
『そうだよ!! 我、聖剣グランティリカ!! 女神の造り完璧で究極な聖剣!! このダンジョンをクリアした者にのみ台座から抜くことができる、超凄い剣なの!!』
「お、おう、そうなのかい?」
女神。
一般的にダンジョンを造った存在と言われているが、迷信だと思っていた。
いや、それよりも剣が喋るとは……。
今年で三十五歳になるが、流石に初めての体験で動揺を隠せない。
『うぅ、美少女と一緒に世界を巡る我の夢が、こんな、こんな中年のおっさん……』
「あー、なんか期待外れですまんな。お前さんは台座に戻しとくから――んん? 台座が消えてる?」
『はあー。汝が我を引き抜いたせいで、我は汝の所有物となった。すでに我は汝の一部。もう台座に戻すことも、捨てることも叶わぬ』
……まじか。
いや、使用者を選ぶ伝説の武具の存在は噂で聞いたことあるが、実物を目の当たりにするとは。
グランティリカには申し訳ないが、思わず感動してしまう。
子供の頃に夢見た冒険。
命懸けの戦いの末に伝説の類いの武器を手に入れるとか最高にカッコイイじゃないか。
『……おい、汝。我が悲しみに暮れていると言うのに随分と嬉しそうではないか』
「え? あ、ああ、悪い。俺ぁガキの頃からこういうのに憧れててね。今ちょいと心ン中で感動してんだ」
『けッ!! おっさんが喜ぶ姿なんて見ても何も嬉しくない!! はあ、今からでもこのおっさんが美少女になったりしないものか……』
どうやらグランティリカは心底ガッカリしているようだ。
と、そこで聖剣は不穏なことを言う。
『ん? 待てよ? そうだ、いっそ汝を美少女にしてしまえばいいのか』
「……え? ん?」
『はははッ!! 我、ちょっと天才過ぎないか!? よーし、そうと決まればくたびれたおっさんを女神の権能をちょいと借りてちょちょいのちょい!!』
「!? な、なん、だ? 身体が、熱い!?」
いや、熱いのではない。
全身の骨が軋む。全身の神経が破壊され、想像を絶する痛みに襲われる。
まるで身体が造り変えられているような、不愉快な感覚だった。
どれくらい時間が経っただろうか。
熱が下がり、さっきまでの苦痛が嘘のように全身から痛みが消えてしまった。
俺は慌てず冷静に身体の状態を確認する。
「……嘘やん」
いつもは他の冒険者に舐められないよう、威厳を出すためにそれっぽい話し方をしているが、思わず素が出てしまった。
その声は普段の渋くて低い声ではなく、まるで少女のように甲高い声だった。
そして、俺の身体は小さくなっていた。
元々恵体ではなかったが、それでも成人している中年だ。
それなりに身体は大きかったし、鍛えていたから筋肉もあった。
しかし、今はそれらが無い。
身体は全体的に丸みを帯びていて、胸の辺りにたしかな膨らみを感じる。
腰もキュッと細くなっており、お尻や太もも周りに肉が多い。
俺は恐る恐る、聖剣グランティリカの刀身に映る自分の姿を見つめた。
艶のある長い黒髪と月のような黄金の瞳。
まるで女神のごとき美しさの顔立ちは見ているだけで溜め息が出そうになる。
「これ、俺か……?」
信じられない。信じられるわけがない。
俺は流石に落ち着いていられず、グランティリカに説明を要求する。
『ふははははッ!! 驚いたか!? 我が女神の権能の一部をこっそり使って汝に祝福を与えてやったのだ!! その祝福の名は〈美少女化〉!! どうだ? 我、天才すぎじゃない? ちな我の所有者となったことで老化は止まった。汝、永遠の美少女である!! わ、ちょ、何をする汝!! 我の切っ先を地面にゴリゴリするな!!』
「元に戻せ今すぐに!!」
『だが断る!! 我は美少女以外に使われる気はない!! それに汝、めちゃくちゃ可愛いぞ。我が人間だったら放っておかないくらいには!!』
「え、そ、そうかなあ? なんて言うわけないだろうが!! 早く元に戻してくれ!!」
『ぎゃあ!? ちょ、地面に刺すな、刃こぼれしたらどうする!?』
このままへし折ってやっても良いのだが。
『残念ながら、もう元には戻せぬ。女神に気付かれて権能を奪い返されてしまった。腐っても女神、仕事が早いな』
「はあ!? ちょ、じゃあどうするってんだい!? 聖剣の旦那!!」
『うーむ。一応、手元に残っている女神の力の残滓を使えば一部を戻すことはできるが……』
「い、一部を?」
『うむ。では汝に問おう』
聖剣グランティリカが真面目な声音で言う。
そして、その問いは今までに俺が経験したことのないほど悩ましいものだった。
『チ◯コを元に戻すか、チ◯コ以外を元に戻すか。三分間待ってやる。その間に決めないとどちらもナシだ』
チ◯コか、チ◯コ以外か。
男の尊厳を捨ててでも、男としての姿に拘るべきなのか。
それとも男の姿を捨て、尊厳を守るのか。
俺はどうすればいい!? 俺はどちらを選ぶのが正解なんだ!?
『さあ、汝。チ◯コか、チ◯コ以外か。どちらを選ぶ?』
「俺は、俺は――ッ!!!!」
俺は尊厳を選ぶことにした。
―――――――――――――――――――――
あとがき
どうでもいい小話
作者「ふ◯なりTS美少女おっさん? 属性盛り過ぎやろ」
聖『美少女ならオッケーです』
「こいつ本当に聖剣か?」「尊厳を取ったのか」「ふた◯りTS美少女おっさん……」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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