第2話


 私の名前は一色いっしきあまね。15歳。

 前世の記憶を持つこと以外は普通の高校生。


 普通の高校生になるつもりだったのだけれどな。

 幸か不幸か、私は今年から国立魔法学舎の生徒になった。なってしまった。


 日本国唯一の国立の魔法系高等学校、国立魔法学舎。

 そんなところに凡骨たる私が入学出来るはずもない。そしてその願書を出していなかったのが幼馴染に露見したのが半年前。そこからあれよあれよと入学するまでになってしまった。どうしてこうなった。


 しかも聞くところによると事の発端である美形幼馴染が襲ってきたのが願書の必着日。

 書類すら準備されていない中美形幼馴染の暴挙に駆り出された教員たちは他の仕事を差し置いて願書作成を行った。そして一人の教員が車を飛ばして教会に直接届けに行くことで期限に無理やり間に合わせた。

 幼馴染の暴挙で大人の仕事を乱したことに申し訳なさを感じそうになったのだが、聞けば教員連中もノリノリだったので色々と諦めることにした。


 私の通っていた中学校は地方ではそれなりに有名校ではあるが所詮それなり。

 魔法学舎に進学した生徒はいない。

 そこに全国的に名が知られており合格間違いないと目されている天塚玲音美形幼馴染。彼を気持ちよく送り出せば教師陣の評価は上がる。それも当人からの無茶なお願いを受け入れ叶えたとなればその後の見返りが期待できる。となれば多少の無茶もするというもの。というよりは普段無茶を言わない美形幼馴染の唯一とも言っていい要望に大人共がはっちゃけた様に思う。

 そんなわけで駄目な大人どもに乗せられこんなところに来てしまった。


 ぼんやりと過去を振り返っていると諸悪の根源の声がした。



「やあ、おはようアマネ。随分と寝ていたようだけれどすっきりしたかな」

「おはようレオン。すまないね私だけ寝てしまって。ただ、これは君のせいでもあるのだよ。君の運転が実に安全で丁寧だからつい寝てしまうんだ」

「そうか、それは良かったよ」



 サイドカー付きのバイクを運転しながらカラッとした笑い声で良い笑顔の美形幼馴染。

 その幸せそうな笑みに不満のひとつでも言ってやりたいところだけれど色々と地雷なので飲み込む。

 この爽やか王子様と持て囃される美形幼馴染は未だに私が願書を出してなかったことを根に持っている。勘違いをしていたのも確認しなかった落ち度もあちらにあるというのに下手に突っ込むと湿度が高くなり面倒なのよなこの坊ちゃんは。

 それでも私が受験し合格したことで向こうからジメッとすることは無くなった。

 凡骨である私が魔法学舎に合格できたのは不思議でしかないのだけれどそこを追及すると色々と藪蛇そうなので気にしないことにした。流石に法令違反は犯してないだろうしね。


 さて、本日は国立魔法学舎の入学式。

 魔法学舎は北陸州にある旧岐阜県のタカヤマ地区にある。魔法系機関という事もあり少し隔離された山奥にあるものの陸の孤島というほどでもない。校舎のある街には列車も通っているし道路も繋がっているので街の出入りは可能。

 勉学に集中するために全寮制にはなっているが外界と遮断されているわけではない。

 国立の魔法系機関となれば国の重要機密で秘匿されるものだと思うのだけれどこの世界ではそうでもないらしい。もちろん機密情報などに疎いわけでも国民の意識が低いわけでもない。

 単純にそうした争いが少なく平和な世界なのだ。

 それはそれとして。


 魔法学舎のある街には一般道でも行けるという事なのでバイクで行くことに。といっても運転はレオンで私はサイドカーに乗っているだけ。私は免許を持っていないので本当に運ばれるだけ。二泊三日の長旅の運転お疲れ様である。

 といってもこの世界のバイク、というより自走車の運転は簡単で安全だという。殆どの自走車には魔法の術式が組み込まれていて操縦者を補助している。周囲を感知して自走する技術も組み込まれているのでバイクでも常に気を貼る必要はない。

 だからと言って労わなくても良いわけではないけれど。

 ちなみに技術が進んでいるため自走車の運転免許は13歳から取得できる。その代わりという訳ではないのだろうけれど法令違反の刑事罰も13歳から。



「さて、そろそろ見えてくるはずだよ。僕らがこれから3年間暮らす街が」

「3年間ね。私は途中で退学になってしまうかもしれないねぇ。ほら、私って凡骨だしね」

「またそんなこと言って。大丈夫だよ君は」

「何が大丈夫なのかねぇ」



 北陸州、旧岐阜県のタカヤマ地区御母衣みぼろ町。

 凡骨たる私は日本屈指の魔窟にやって来てしまった。


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2024年9月25日 18:00
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巡り巡って己が為 珠洲気流 @cruelty

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