最終話
パンダ対日工作局からラオチュウたちに帰国命令が下った。二頭は店を片付け、荷造りを終え、最後の食事をしていた。
「この竹、最高です! ラオチュウ料理長、いえ、シンシン大佐、もう少し日本にいたかったですね?」
「そうだな? 日本は自由ないい国だからな?」
「帰国したら三ヶ月はパンダ保護研究センターで休暇だそうですが、私は日本に残ってバカンスを楽しみたいですよ」
「フォンフォン軍曹はすっかり日本が気に入ったようだな?」
「もちろんですよ。ご飯は美味しいし美人もたくさんいる、電気水道ガスも整備され、蛇口から直接お水も飲めるんですよ? 医療も充実して保険や年金制度も整っている。夜中に女の子が酔っ払って独りで路上で寝ていても襲われることも少ないほど治安がいい。
だって自動販売機どころか、無人販売所もそこら辺にあるんですから。
そして何よりパンダは人気者ですからね? どこに行ってもパンダはモテモテの大歓迎です!」
「だから俺達の任務も遂行し易いとも言える」
「いずれ日本と台湾、朝鮮半島は我が国の領土になりますからね?」
「アジア、アフリカは我々中華人民共和国になるのだからな?」
「わが中国は偉大です」
「日本はもう終わりだ。だから俺達の任務も終わった。角栄さんやハマコーさん、大平さんの頃の日本は良かった。カネよりも政治家としての使命を忘れなかった。日本の繁栄のために命を賭けていた。
警察に圧力は掛けても検察にまで手を出すことはなかった。
それが安倍晋三になって何でもありの政治家天国になってしまった。
森友、加計学園、桜を見る会、そして何よりも韓国統一教会を利用し利用され、その事実を長年に渡って隠蔽して来た自民党。裏金もそうだ、もし安倍晋三が暗殺され、菅が短命内閣になっていなければ、すべて闇に葬られていたことだろう。
岸田さんは増税メガネと批判も多いが、安倍派の一掃を図った功績はあるよ」
「どうして政治家は総理になりたいんですかね?」
「政治家の夢なんだろうな? 日本の総理大臣になることが」
「夢? 冗談じゃないですよ! 夢なら寝て見ろって!」
「会津出身の伊東正義という政治家を知っているっか? 会津藩士の末裔でな? 東大法学部を出ている政治家だ。自民党内で唯一金権政治に反対した男だった。
大平内閣の時に大平が倒れ、臨時総理代理になった。自民党内では伊東待望論があったが、伊東は「表紙だけ変えても中身が変わらなければ駄目だ」と言って総理の椅子を固辞した。
総理になって欲しい政治家はそれを望まず、なって欲しくない連中が総理に固執する。皮肉なものだ。
伊東正義が臨時総理代理になった時、周囲は総理の席に座るように勧めたらしいが伊東は自分の官房長室で指示を出したそうだ」
「知ってますよ伊東正義さん。研修でレクチャーされましたから。
雨漏りのするような、小さな古い自宅に住んで、とても日本の大物政治家の住まいとは思えませんでした」
「事務所はもっとボロかったけどな? そこで会津の人たちとお茶を飲んでいたそうだ。今はそんな政治家は日本にはいない」
「どうしてなんでしょうね?」
「それは人生の価値がカネになってしまったからだ。カネがすべての世の中になってしまったのさ。
相手の立場で考える、そして幸福とは人を笑顔にすることだということをみんなが忘れてしまっている。
カネがすべてだから平気で嘘も吐くし、人を陥れる。他人のことなどどうでもいいのだ」
「日本の武士道の精神は消えたのですかねえ?」
「昔の日本のサムライは、忠義を重んじ恥る生き方を嫌った」
「切腹ですね?」
「そうだ、命を賭けて生きていたのだ日本のサムライは」
シンシン大佐は冷蔵庫から新しいビールを持って来て、軍曹のグラスにビールを注いだ。
「フォンフォン軍曹、今までご苦労であった。ありがとう。
「シンシン大佐、また新たな任務に就くことがあれば私を呼んで下さい。よろしくお願いします!」
「そうだな? その時はまたよろしく頼む」
その夜、二頭のパンダは泣きながらビールを飲み、竹を齧った。
『街中華ちゃらんぽらん』完
【完結】街中華『ちゃらんぽらん』(作品241015) 菊池昭仁 @landfall0810
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