橋の手すりに図々しく座っている、あの女。

 俺たちの同僚の、重要な何かを引き継いだらしい。同僚の行方は不明。

 全ての認識が消し去られているので、おそらくどこかに転がっている。その場所を、あの女はまったく喋ろうとしない。


 仕方がないので、周りから切り崩すことにしたけど。ほとんど意味がなかった。どうしようもないので、橋桁でコマを回して遊んでいる。


 ここにいるのは、全員が同じ組織の人間。女連中も、橋上の女の動向を探るための潜入担当。しかし女は友達を作らないタイプらしいので、やはりやることがなくて俺達とコマを回している。意外に強い。やっぱ、スパイは回転とか回しかたとかに一日の長があるんだろうか。よくわからんけど。


「なぁ。下に来て一緒に遊ばないか?」


 無駄なんだけど、一応声をかけてみる。


「おじさんと遊ぶとか無理」


 おじさんじゃねぇぞしね。3つしか歳違わねぇだろうが。しねよ。


「そっかぁ、おじさん残念だなぁ」


 とはいえ、認識されていて受け答えができるわけだから、とりあえずおじさんでいい。無視されて同僚の行方に関する手がかりが費えるよりは。いや許せねぇおじさんはさすがにねぇだろ。3つしか歳違わねぇんだぞ。


「ねぇ」


 橋の上から、声。


「おっ。遂におじさんと遊んでくれるのかな?」


 ぜってぇ違うんだろうなぁ。


「この街。好き?」


 この街か。


「好きだね」


「なんで?」


「橋の下でコマを回して遊べるから」


 俺達の組織が、文字通り命を懸けて守っているから。この街のありとあらゆるおそろしい脅威を、排除し続けているから。だから、こうやって生きていられる。


「あなたもおじさんと同じで、好きなんでしょ。この街がさぁ」


「うざい」


 肯定のうざいは死語だろ。


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鍵の綻び 春嵐 @aiot3110

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