鍵の綻び
春嵐
鍵の綻び
封印している。何か、街を脅かすものだとは聞かされていた。それ以外の情報はない。ただただ、封印を見守っている。
封印と鍵をわたしに押しつけた前任者は、そこ。そこに転がっている。もう生きてはいない。
不思議だった。倒れているのに、誰もそれに気付いていない。わたしにしか見えていない。認識されていないから、そこに存在しないということなのか。とにかく、生きていないけど、それを知られてもいない。
封印と。鍵。たぶん、鍵を使うと封印が解かれて。街が脅かされる。そんなものを、わたしに。
街のことは、そんなに好きではなかった。学校に友達はいない。遊んでくれるおじさんたちはわたしの心に興味がない。おばさんにはなりたくない。だから、好きじゃない。こんな街、どうなってもいい。
夕暮れの少し前。学校をさぼって、景色のいい橋の、その手すりのところに座り込んで。景色を眺めている。景色は好き。この景色も、街の一部。好きだけど。好きじゃない。街に対する、絶妙な距離感。顔はいいけど性格サイアクなやつみたいな。そんな感じ。
橋の下で、おじさんたちが女と遊んでいる。たのしそうなおじさんの声と、それに付き合う女の声。
なにも、外でやらなくてもいいのに。解放感が欲しいんだろうか。
「ゴォォォォシュゥゥゥゥ!!!!!」
なんか、コマを回して、相手のコマをぶっ壊せば勝ちらしい。女のほうが繊細にコマを動かせるらしく、おじさんたちが一方的に女にぼこぼこにされていた。多分わたしがやっても、おじさんには勝てそう。
平和か。
この平和を、一瞬で破壊できる。何もかもを壊せる。この鍵で、封印を解けば。
そんなことを考えながら。ただ景色を眺めていた。
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