24.朝凪
楽しい時って、あっという間だよね。
あぁ、行かないで夏休み……。
小学校の時に国語の教科書に「夏休み帰っておいで」みたいな詩があったっけなぁ。
そう、夏休みはあと一週間しかない。
小学校の頃って始業式は九月だったよね? 他のところで休みが増えたとか、授業時間確保とか、理由はあるんだろうけど夏休み短くなったのってすごく、すっごーく損した気分になる。
ぶーたれても休みは延びないよ、ってお父さんに笑われたけど、そういうことじゃないんだよっ。
まぁでも、さっこちゃんやお友達と遊びに行ったりとか、ハルトさんと一緒にいる時間が増えたりとか、いい思い出はたくさんあった。
夜、夢魔退治に出て、夢の中でハルトさんと会った。
『飽きずによく来るな、お主も』
『おまえさんに会いたいわけじゃないぞ』
サロメとサロモばあちゃんは相変わらず会うと軽くジャブの応酬から口喧嘩に発展するよね。
二人の仲いいケンカをBGMにハルトさんとお話しする。
「そうそう、さっき俺のところにコハクがきたよ」
えっ? コハクが?
「ちょっと話したけど、……なかなか可愛いよな」
「うんっ」
思わず超即答。
ハルトさんがコハクの可愛さに気づいてくれてよかった!
「初めてコハクを見た時は、ただ夢魔ってだけで嫌悪感があったけれど、そういうのも感じなくて、なんていうか、それまで吹いてた風がふっと止まったというか、そんな感じ、かな」
心が凪ぐというのはこんな感じなのかなってハルトさんが笑った。
「俺じゃ絶対気づかなかった。遠野先生が言ってたように、きっとコハクみたいなのがいたとしても、他の狩人も気づけなかったんじゃないかな。愛良は、すごいな」
褒められた。嬉しくて胸がじぃんとする。
「でもわたしも、わたしだけじゃ夢魔かどうか判断できない相手は、斬ってたかもしれない。サロメも他の夢魔と違うって言ってくれたから、確信できたんだよ。サロメのおかげでもあるね」
『なんだ? 急にワシを褒めおって。熱でもあるのか愛良』
ちょ、ひどっ。
『嬉しい癖にそうやって悪態ついておったら愛良に愛想つかされるじゃろが。素直に喜ばんかい偏屈じいさん』
サロモばあちゃんがツッコミを入れた。
『ふん、小童に褒められたとて嬉しいとかはない』
サロメ、そういうけどちょっと嬉しそうな気配は伝わってきてるから。
感情はこっちからの一方通行じゃないんだからね。
『むぅ……』
『まったく、可愛げのない』
『やかましい。魔器に可愛げなどいらぬ』
また始まった。
ハルトさんと顔を見合わせて笑う。
サロメとサロモばあちゃんには、朝凪はやってこない感じだねぇ。
「それじゃ、そろそろ」
ハルトさんがそういった、その時。
――すごく、嫌な気を感じた。
これは、間違いなく夢魔だ。
ハルトさんと顔を見合わせる。
「夢魔が、来るのか」
ハルトさんがつぶやいた時、周りの空気がぐにゃっと歪んで、どす黒いマーブル模様に変わった。
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