23.ストロー

 ハルトさんと仲直りできてから、夢魔退治の後にコハクとハルトさんが揃うことが増えた。


 やっぱりコハクは楽しい「気」が好きみたいで、わたしとハルトさんがちょっとした雑談をして和んでると嬉しそうにぴょいぴょいしてる。


 ハルトさんもコハクのこと、かわいいな、って顔で見てることが増えた。

 打ち解けた、ってわけじゃないだろうけど、これで一安心って感じかな。




 で、わたしのハルトさんのバイト先訪問も復活した。

 届け物とかある時は直接ハルトさんの部屋に行けるけど、やっぱりまだなんにも用事がないのに「行っていい?」とは聞けない。


「おや愛良ちゃん。しばらく来なかったから心配してたのよぉ」


 喫茶店のマスターさんが手をひらひら振ってお迎えしてくれた。


「夏休みの宿題が忙しくてー」


 実際夏休みの宿題はたくさんあったからね。


「あらあら大変ねぇ。終わったの?」

「はい。あとは自由研究と読書感想文だけです」

「あれはねぇ。てこずるわよね」


 マスターさんは愉快そうに、ちょっと懐かしそうに笑った。


「いらっしゃい。ご注文は?」


 ハルトさんが話しかけてきた。


「んーっと、アイスティで」

「かしこまりました」

「なんだか、前より仲良くなったのねぇ?」


 ハルトさんを目で追ってるとマスターさんが声を潜めて聞いてきた。


「そうですか?」

「えぇ。なんとなくそんな気がするけれど」


 そっかぁ。そうだといいな。


 それからは前みたいに、マスターさんとアニメやドラマの話をしてたんだけど。

 ふと、気になった。

 イチゴシェイクのグラスに、ストローが2本ささってるのが。


 お客様は女の子の二人組で、片方の人が頼んだシェイクにストローが二本ささってる。

 どうして二本なのかな?

 カップルだったりしたら二人で飲んだり、とかだろうけど……。


 二人で……。


 思わずハルトさんと一つのシェイクを二人で飲むのを想像してしまった。


 いや、これ、ないわ。恥ずかしすぎるっ。


「あれはねぇ、シェイクの果肉がストローに詰まった時の予備なのよ」

「そ、そうなんですか……」


 わたしが何も聞かなくてもマスターさんが教えてくれたってことは、わたしの考えが顔に出過ぎてるってことだよね。

 ああぁ、二重で恥ずかしい。




 さらにハルトさんの部屋で「さっきマスターと何話してたんだ?」なんてハルトさんに聞かれて追い打ちを受けるとは思わなかった。

 しばらくストローは直視できないよ。

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