21.自由研究

 八月に入る前に、五教科の課題は済ませた。

 で、毎年悩ませてくれるコレが残った。

 そう、児童生徒の永遠の課題、自由研究だ。


 自由ってほんと自由すぎない? せめてもうちょっとテーマをしぼってくれたらいいのに。

 それだとみんな似たり寄ったりになるから?

 特定の科目に偏ったらそもそも自由な研究じゃないし、ってとこか?


「毎年これは悩むよねー」

「読書感想文はまだ『本を読んで感想書く』だから読む本さえ決まればいいしねぇ」


 今日はさっこちゃんの家で、何を「研究」するのか、二人で頭を悩ませている。


 ちなみに、読書感想文にも書き方の定石みたいなのがあって、それに沿って書いてったらわりと楽に書けたりする。


 そういや、最近じゃネットで宿題請け負ったりするサービスがあるんだってね。

 そういうのをサービスっていっていいのか、判んないけど。


 それとはちょっと違うけど、自由研究でこれを作ろう、みたいなグッズも売ってるのも見たことある。

 でもあれも自由研究として通じるのって小学校の半ばぐらいまでだよね。


「せめて方向性だけでも早めに決めないと」

「方向性かぁ。さっこちゃん去年は『紅茶を美味しく淹れるお湯の温度と蒸らす時間の関係』だっけ」

「よく覚えてるね」

「だってそれ聞いてわたしも理科系で行こうって決まったんだし」

「美味しく淹れる、だから家庭科に近い気もするけどね」

「確かに」


 わたしは簡易日時計を作って一か月で太陽の角度が実際どれだけ変わってるか、にした。

 一週間おきぐらいに影の位置をチェックするだけだから楽でいいやって思ってたけど、逆に忘れそうなって慌てた日もあった。

 今回はできれば一日で終わる研究にしよう。


「どうせなら自分の興味のあるものにしたいけどさぁ」


 さっこちゃんが息をつく。

 彼女が一番興味あるのってアクション映画だよね。でもあんまり他の人に言ってないみたいだし、そもそもアクション映画の何を研究すればいいのか、ぱっと思いつかないね。


「わたしは――」


 考えて、すぐに夢のことを思いついたけど、まさか夢の中には夢魔がいますなんて言えるわけもない。

 夢魔は人のマイナスの感情から出るエネルギーを餌にしているから、夢魔の存在はナイショなんだよね。みんなが怖がると夢魔の餌が増えちゃう。

 でも、夢といえば。


「人はどうして夢を見るのか、なんて面白そうかなぁ」

「それは興味深いね」


 早速あれこれ調べてみる。


 あ、ダンディさん、夢に関する本、出してるんだ。

 へぇぇ、読んでみようかな。

 本は後で買うとして、ネットで夢に関して検索してみる。

 夢のことはまだ判ってないから、夢を研究する分野っていうのもあるみたい。


 それはいいんだけど、ちょっと違和感。


「うーん?」

「どした?」

「なんとかオロジーって、確か『なんとか学』『なんとか論』って訳すよね」

「そうだねぇ」

「大体英語の後ろにくっつけてるでしょ?」

「うん。バイオロジーで生物学、とかだね」

「どうして夢学はドリームオロジーじゃなくて、ユメオロジーなのっ?」

「……どうしてだろうね」


 さっこちゃんと顔を見合わせて、なんとなく、笑いが漏れた。

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