17.半年
買い物から帰って、服を着替えてみた。
さっこちゃんお墨付きの、可愛いスカートだ。
お母さんもお父さんも、それいいね、って褒めてくれた。
……よし、気合入った。
時間になって、ハルトさんが来た。
ハルトさん、緊張してるのかな。いつもより少しだけ表情が硬い。いつもは柔らかいのかというと、あまりそうでもないけれど。
勉強終わったら、どう切り出そうかな。
数学の問題を解きながら、こういう「問題」もさくっと解ければいいのにな、って思う。
「愛良、符号間違えてる」
ハルトさんの声に「あっ」と声が漏れる。
今は勉強に集中しないと、だね。ハルトさんの母校に行くために。
気が付けば勉強の時間は終わってた。
いつもなら和やか雑談タイム、なんだけど。
……沈黙が気まずい。
「服、新しいな」
きっかけは、ハルトさんだった。
「うん。今日さっこちゃんと買い物してきたんだ」
「青井の妹さんか。仲いいよな」
偶然にも、さっこちゃんのお兄さんはハルトさんの後輩で、今まさにわたしの志望校の現役生だ。
「まぁねー、生まれる前からのお友達みたいな感じだから」
うちの母とさっこ母が元々お友達だったという話をするとハルトさん、納得してちょっと笑った。
あ、久しぶりだハルトさんの笑ったとこ見るの。
……そして、また、沈黙。
今度はわたしが。
「あの時は――」
ハルトさんと、かぶった。
二人、顔を見合わせて、笑った。
「ハルトさんとも気が合うよね」
「そうだな」
よかったここで否定されなくて。
「ごめんね、夢魔に妹さんを殺されたのがどんだけ悲しくて苦しいことだって、聞いてたのに」
「いや、俺こそ、おまえの話を頭から否定した」
お互いに頭を下げ合って、ほっと息をつく。
ハルトさんと話さなかったの、一週間もなかったけど、もっと長く感じてた。
「西脇さんや遠野先生からも話を聞いた。コハクだっけ? おまえのいうように、すごい可能性があるかもしれないんだな。それを見つけられたおまえは、すごいよ」
俺はまだまだだ、ってハルトさんは言うけど、妹さんがなくなってまだ三年だし、大きな一区切りの戦いからまだ半年も経ってない。そんな簡単に吹っ切れるもんじゃないと思う。
「コハクがね、心配してたよ。自分のせいでわたし達が喧嘩した、って。だから次にコハクに会ったら、もう大丈夫って言わなきゃ」
「そうか……。ちょっとあわない間に、仲良くなったんだな」
「うん」
コハクのちょこちょこ、ぴょいぴょいしている姿を思い出して、思わずにやけちゃう。
「けれど、もし、もしも、コハクが他の夢魔と同じようになってしまったら、その時は――」
「判ってるよ。わたしだって狩人だもん。その覚悟はあるよ」
わたしの答えにハルトさんはほっとした顔になった。
「ご飯できたよ。ハルトくんも食べてくでしょ?」
お母さんが呼びに来た。
「いつもありがとうございます」
「いえいえこちらこそいつも愛良がお世話になって」
いつも通りのやりとりに、ハルトさんと仲直りできてよかった、って実感した。
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