12.チョコミント

 夢魔退治の仕事がきた。

 基本的にお母さんの手が空いていたらお母さんが頼まれるんだけど、コハクに会ったのがわたし(とそこへひきよせられたハルトさん)だけってことで、力の弱そうな夢魔の退治はわたしに回ってくるようになった。


 ちょうど期末テストも終わって夏休み間近だし、勉強に大きく影響も出ないだろう、ってことで。


 今日の贄は主婦さんで、家庭菜園もちょっとやってるような人らしい。


 主婦さんかぁ。

 また嫁姑トラブルとが影響したしして。

 前にもそういうのがあって、結構強烈だったな、あの夢魔も。


『げに恐ろしきは女、とはよく言ったものだ』


 それは女性全体を敵に回す発言だよ。

 今の時代で口にしたらセクハラだとかですぐ訴えられちゃう。

 ニュースとかで新しい〇〇ハラを見ると、なんでもハラハラつければいいってもんじゃないよって思う時もあるけどね。


 いつものようにお父さんの夢トンネルをくぐって、夢の中へ。


 家の中、だね。

 夢の主さんらしいおばさんと、小さい女の子がいる。

 まだ夢魔はいないけど、あれ? この気配……。


「こんばんは、愛良」


 壁の隙間からひょこっと現れたのは、コハクだ。


 コハクだってすぐに判ったけど。なんていうか、一言でいうと、成長してる。

 五十センチないかな、ぐらいだったのに、二十センチぐらい伸びてる。その分、体はちょっとスリムになった。

 手足も伸びてる。前は胴体からちょっと生えてますみたいな感じだったけど、今ははっきり手足だなって判るような感じ。

 ぷるぷるな質感は、まんまだ。

 質量変わらないけど縦に伸びました、的な。


「コハク、大きくなったね」


 ぶるんぷるんしてる。これは、嬉しいのかな。


「楽しい夢にたくさん出会えたからかな」

「楽しい夢かぁ。どんな夢?」

「チョコレートをたくさん食べて幸せな気分になっている夢とか……」


 コハクは頭の部分を上にくいっとあげるしぐさをした。思い出してるのかな。

 って思ったら、頭の中にチョコレートのイメージが。

 チョコミントだ。

 なんか、こっちまで幸せな気分になってくるね。


 それにしてもコハク、すごいな。

 しゃべり方もしっかりしてるし、イメージを送るなんてこともできるんだ?

 前のたどたどしいのも可愛かったけど、しっかり話せるのも楽しくていい。


 っと、来た、チリチリだ。

 わたしが夢魔が現れる前兆を感じ取ったのと同時に、コハクがぴくっと震えた。


「これ、怖いの。愛良、またね」


 コハクが言い残してあっという間に消えてしまった。走って、じゃなくて本当にぱっといなくなる感じで。

 コハクは夢魔を怖がってるのか。


『来おったぞ』


 サロメの声で、咄嗟に臨戦態勢だ。

 足元から嫌な気を感じて飛び上がる。

 地面から生えてきたのは、ミント!

 何その狙ったみたいな形態。

 しかもちゃんとミントらしく、めちゃ成長早い。


『ここまでではなかろうがな』


 斬っても斬っても生えてくるミントにうんざりだ。早く核を見つけないと消耗しちゃう。


『それが狙いであろうな。……上か』


 植物系だしてっきり根本か、そうでなくても近くに核があると思ってたけど、離れたところなパターンか。

 わたしを捕まえようとするミントを避けて上空へ。

 ほんとだ。核の気配がする。


「幽霊の正体見たり枯れ尾花! 力を解き放て、サロメ」


 ひょろっとした核を、白く輝く浄化の光で滅する。


『……それはちょっと違うのではないか?』

「気にしないで。丁度今日習ったんだよ」


 さてと。


「コハクー、いるー?」


 元に戻った夢の中でコハクを探すけど、いないね。気配もない。


『怖いというておったからな。逃げたのだろう』


 そうだね。

 それじゃ、帰ろっか。

 サロメを鞘にしまって、お父さんの夢トンネルに向かった。

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