11.錬金術

 ハルトさんと連絡が取れてない。

 毎日やりとりしてたメッセージも途絶えたままだ。

 なんて言葉をかけたらいいか判らない。

 ごめんね、って出せばいいのかな。

 でもそれだけじゃ、なんだかな。

 次に会ったら謝ろうって決めたけど、どう謝るの? 何について?

 ちゃんと気持ちと言葉を整理できずにいる。


「ハルト君、週末の家庭教師、……来てくれそう?」


 お母さんがちょっと遠慮した感じで聞いてきた。


「わかんない」

「そっか。けど何も言わずに来ない子でもないでしょう。何も言ってきてないってことは、来るつもりかもしれないね」


 確かに、連絡もなしに約束を破るような人じゃない。

 それじゃ、遅くても三日後には話せるきっかけがあるってことかな。


「連絡取ってないのね?」

「うん。なんていえばいいか判らない」


 お母さんは、わたしの頭にぽんと手を置いて、ゆるゆる撫でてくれた。

 あったかいな。


「難しいよね、こういうのって。魔法の言葉も錬金術もないからねぇ」


 錬金術って、卑金属から貴金属を作ろうとしてたって実験だよね。

 そんなのが完成してたら今の文明と違ったものになってたんだろうな。

 なんて、ぼんやり考えた。


「でも錬金術は今の科学の基礎になってるのよね。目的は達成してないけれど、生み出したものはたくさんあるのよ。長年積み上げてきたものは、何かしらの形を残すってことね」


 お母さんはにっこり笑った。


「愛良とハルト君も、一年間で積み上げたものがあるでしょ。多分、他の人の一年より濃密なものが。感情がかぁっとなっただけで壊れてしまわないものがあると思うよ」


 ぶわぁっと涙があふれてきた。


「ハルト君も、あなたになんて言っていいのか判らないから、何も言ってこないんじゃないかな。あっさり切っちゃってもいい関係なら、もう家庭教師やめます、って言って来るはずだし」


 そう、なのかな。

 涙に詰まって声だけが漏れてるわたしが落ち着くまで、お母さんはずっと優しく頭を撫でてくれた。




 落ち着いてから、さっこちゃんに電話してみた。

 今まであったこと、ハルトさんともめて別れてそれっきりなことも全部話しちゃった。


 さっこちゃんは「愛良ちゃんがそこまで落ち込む原因はハルトさんしかないって思ってた」って、ちょっと笑った。


 バレてる。

 さっこちゃんの言葉にわたしもちょっと笑った。


『夢見の集会所からは、ハルトさんと連絡取れたって話、来た?』

「ううん、まだ」

『そっか、だったらもうちょっと愛良ちゃんからも連絡するのはやめておいた方がいいかもね』


 それは、確かに。

 マダムさんもこちらから話をするまでコハクの話はしないでって言ってた。

 今ハルトさんに会ったらコハクの話は避けて通れない。連絡取らない方がいいか。


『夢見の集会所はそのコハクちゃんの存在を認めてるんだからハルトさんも認めるしかないんだし、愛良ちゃんは、コハクちゃんのことを話すチャンスがあったのに後回しにしちゃって驚かせてしまったことを謝ったらいいと思う』


 冷静な親友の意見が聞けてよかった。

 週末、ハルトさんが来てくれたら、そうするよ。

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