7.ラブレター
今日はまだ平日だけれどハルトさんのバイト先に行く。
コハクのことを報告、相談するためだ。
メッセージで報告は、やめといたほうがいいと思った。
証拠の文章が残ると、何かあった時に秘密にしないといけない夢魔の存在が表に出て困る。
送信して確認した後に消せばいいんだけど、なんかユーザーが知らない方法でメッセージアプリの大本が消去したメッセも手元に残せるとかなんとか、ウワサもあるし。
それも大事だし、こういうのは直接話したいって思う。
お父さんお母さんがわりとそういう考え強いから、影響受けてるんだろうな。
「いらっしゃいませ」
ハルトさんが「あれ?」って顔をした。平日にわたしが来るとは思ってなかったっぽいね。
あんまり表情をはっきり替えない人だけど、ちょっとした違いが判るようになってきたぐらい、ハルトさんとは親しんだって思うと嬉しさが湧いてくる。
「何かあった?」
「後で話すよ」
注文を取りに来た時にハルトさんが小声で尋ねてきた。
わたしの返事に気になるふうな様子だったけど、ここで夢魔の話をするのはメッセージ残すよりまずい。
あと三十分ぐらいでハルトさんのお仕事が終わるから、家に行って作り置きを増やしつつ、コハクのことを話そう。
どう切り出そう。やっぱズバっと「侵食しない夢魔にあったんだよ」かな。
そんなふうに考えてたんだけど。
「あの、よかったらこれ……」
若い女の人の声で、はっとなった。
わたしに話しかけられたんじゃない。
でもピンときた。これが女の勘ってヤツ?
ハルトさんの方を見ると、やっぱり、高校生かな、制服姿の女の子がハルトさんに何かを差し出してる。
ラブレター? ううん、自分の連絡先を書いた紙かな?
何にしても「自分の好意を相手に伝えるもの」に違いない。
ハルトさんどうするんだろう。
あんまりじっと見てたくなくて、でもどうするのか気になって、ちらちらっと見てしまう。
「すみません。そういうのは受け取らないことにしていますので」
ハルトさんは丁寧に頭を下げて断った。
「どうして、ですか?」
ショックを受けているのが判る女の子の声に、ハルトさんは。
「今のところ、あれこれと忙しいので恋愛関係とかそういうのは考えられないので」
断ったのにほっとした気持ちと、――それでも胸にぎゅっとくる、寂しさがある。
そこで「カノジョいるんで」とか、決定的に断ってくれたらいいのに、って。
そしてその相手がわたしならいいのに、って。
……なにを考えてんだろわたし。
わたしなんか不釣り合いって自分で判ってんじゃん。だからはっきり告白するの、延ばしてんのに。
ハルトさん、こっちを気にする様子もなかったし、全然相手にされてないし。
ああぁ、自己嫌悪。
女の子が帰ってから、わたしも「お父さんが帰って来いって。ごめん、また今度」って逃げるように店を出てしまった。
自転車こいでこいで、さっこちゃんの家に直行した。
さすがに二十分近く自転車乗ってたら、ちょっとは落ち着いてきた。
けどさっこちゃんに喫茶店でのことと自分の気持ちを話したら、また自己嫌悪だ。
「かわいいねぇ愛良ちゃん」
さっこちゃんがよしよししてくれた。
「どんな形でも断ったことに違いないんだから。愛良ちゃんは連絡先知ってるし、メッセやりとりしてるんでしょ? それって特別なんじゃない?」
「特別、なのかなぁ」
「特別だよ。――ほら、なにか着信した。ハルトさんじゃない?」
頭ぽんぽんされて、スマホを見たら、うん、ハルトさんだった。
『今度またゆっくり話そう』
それだけだったけど、すごくうれしかった。
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