2.喫茶店
テストの次の日は土曜日だ。
家のお手伝いを済ませて、てきとーにダラダラして、夕方になってからおでかけする。
今日は、さっこちゃんじゃない。
自転車で二十分ぐらい、ちょっと遠出だ。
夕方なのに、暑いなぁ。
けど、この暑さもハルトさんに会うためなら耐えられる。
商店街の一角の、こじゃれた喫茶店の駐車場に自転車を停める。そんなに大きくない喫茶店だから駐車場もそんなに広くない。駐輪スペースも作られてないから邪魔にならないように端っこに置く。
「いらっしゃいませ」
店のドアを開けると、聞きたかった低音ボイスに迎えられる。
途中から「あぁ、おまえか」みたいな響きになってるのを感じ取って、にやけてしまう。
「こんにちはー。ジャスミンティおねがいしまーす」
カウンターの奥の、いつの間にかわたしの定位置になった椅子に座りながら注文する。
短い返事をして、ハルトさんがカウンターの奥に行ってお茶を淹れ始める。
最初に会ったのは一年前の夢の中。ハルトさんも狩人だ。わたしより二年近く先輩。
最初の印象は、何この人、だったなぁ。
ちょっと強い夢魔に苦戦していたのを助けてくれたんだけど、その後に駄目だしされちゃって、パートナーのお父さんまで悪く言われたし。
けれど、何度か会ってるうちにハルトさんのぶっきらぼうな優しさに気づいて、好きになってた。
わたしの気持ちはまだ伝えてない。
だってあれこれ不釣り合いすぎるんだもん。
ハルトさんは身長高い。多分百八十は超えてる。わたしはやっと百五十に届くかどうかだし。
ハルトさんは頭がいい。成績は難関校のトップクラスだった。わたしは、さっこちゃんの助けを借りて何とか「いい成績」って言えるくらいをひぃひぃ言いながらキープしてるだけだ。
ハルトさんは強い。わたしが苦戦してた夢魔もさくっと倒しちゃう。
ハルトさんはクールでかっこいいのにわたしはめちゃ美人でも可愛いわけでもない。
五つの年の差も大きい。高三から見たら中一なんてガキだよね。
そして一番の理由は、ハルトさんがわたしを妹さんの代わりと思ってるんじゃないか、ってこと。
ハルトさんにはわたしと同い年の妹さんがいたんだけど、夢魔に贄にされて亡くなってしまった。
それ以来ハルトさんは狩人になってひたすら夢魔を退治してる。
わたしは、その妹さんにちょっと雰囲気が似てるらしい。
いつまでも妹ポジじゃダメだから、距離を詰めるべくあれこれ頑張ってるんだけど……。
悪くは思われてないはず。けど、やっぱ恋愛感情じゃないよね。
大学生になって交友関係も増えただろうし、こうやってバイトもはじめて、ますます手の届かないところに離れてってるって感じることもある。
「いらっしゃい。いつもありがとうね」
ハルトさんがジャスミンティを淹れてくれているのをひたすら見続けてたら、マスターのおばちゃんに声をかけられた。
気のいいおばちゃんだけど、わたしがここに来ている理由も察してるみたいで意味深ににこにこしてる。
「高峰くんがバイトに来てくれてお客さんが増えて嬉しいわぁ」
「それは、よかったですねー」
マスターさんとしたら、そりゃなによりだろうな。
「そうですか? だったらなによりですけど。はい、おまたせしました」
ハルトさんが前半はマスターさんに、後半はわたしに声をかけて、ジャスミンティを目の前に置いてくれた。
「ハルトさん、六時あがりだよね?」
「うん、っと、そうですよ」
店員さんとしての態度を取り続けるの失敗してちょっとまずったって顔するハルトさんも、いい。
マスターさんもくすくすって笑った。
三十分近く、ジャスミンティを味わいながらマスターさんとドラマやアニメの話をして、ハルトさんが仕事を終わるのを待った。
……うん、確かに、今来た女性客はハルトさんが目当てかなって判る顔してた。
気にしない、気にしない。
わたしは連絡先知ってるし、毎日ちょっとしたメッセージのやり取りもする仲なんだから。
妹ポジなのが悲しいけど。
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