琥珀色の夢の欠片
御剣ひかる
1.夕涼み
終わったー!
中二になって初めての期末テストが終わったっ。これで夏休みを待つだけだ。
テストの結果は……、まぁなんとかなったと思いたい。
家に帰って部屋に直行して、普段着に替えて。
「お母さーん。手伝うよ」
「あら
台所で夕食の準備をしているお母さんに声をかけると優しい声と笑顔が帰って来た。
「夕食の支度が済んだら、さっこちゃんの家に行ってくるよ。夜ご飯までには帰るから」
「あら、だったらあちらにお土産持って行って」
お母さんが箱を出してきた。甘い、いいにおい。
「クッキー? 作った?」
「あたりー。いつもあなたがお世話になってるからね」
さすが母。わたしのテストの点数の半分は、さっこちゃんの教えによるものだからね。
「おっけー。さっこちゃんも
で、今日の晩御飯はなんだ?
お母さん後ろからひょいとまな板を覗くと、これは、鶏肉か。
「今日はホワイトシチューよ。たくさん作っておこうね」
やった! お母さんのシチュー大好き。
あぁ、お母さんが家にいる幸せよ……。
実は三か月前まで、お母さん行方不明だったんだ。夢の中で。
なんて話は周りの一部の人しか知らない。
夢の中の世界。精神世界って呼ばれてるんだけど、そこには
そいつらは生物のマイナスな感情から生まれて、マイナスな感情を食べている。
暗い感情だけ食べてるなら問題ないけど、それと一緒に夢の主の生命エネルギーを奪ってるんだ。むしろそっちがメインディッシュらしい。
夢魔のターゲットになった生物――夢を見る生き物だから人間だけじゃない――は
だから人の中で、夢に入ることができる人達が夢魔と戦ってる。
お母さんは、その夢魔を悪用する人達のうちの一人に夢の中で捕まえられちゃって、帰ってこられなくなってた。今から二年くらい前だ。
だからわたしも夢魔と戦う
三か月前にお母さんを見つけ出して、あれこれあったけど帰ってくることができたんだ。
夕食の下ごしらえができて、あとはホワイトシチューのルーをいれるだけになったから、わたしの手伝いはもういいってお母さんがいう。
それなら遠慮なく、大親友の家に遊びに行きますかー。
部屋のエアコンは自動運転を三時間後ぐらいにセットしておけばいいかな。
さっこちゃん
小学校どころかもっと小さい頃から仲良くしてる。
お母さん同士が元々仲良かったみたい。
クッキーをさっこ母に渡したらめちゃ喜ばれた。
お母さんが行方不明の間は、さっこ母にもすごくお世話になったなー。
行方不明だなんて当然言えないから、アメリカの親戚のところに行っていることになってたんだけど、その間に時々うちの分の夕食とか作ってくれてた。
お父さんが開業医で昼過ぎまでと夜が仕事だから、お母さんがいない間、家事はわたしがメインでやってた。さっこ母はそれを知ってるから。
さっこちゃんの部屋で一通りテストの感想と、お勉強教えてもらった感謝を伝える。
「それよか、愛良ちゃんのお母さん、大丈夫?」
さっこちゃんが声を小さくして聞いてくる。
本当は夢の中の活動とかは他の人に話しちゃいけないんだけど、さっこちゃんは巻き込まれちゃったから、夢の世界のこととかわたし達の活動とか、そういうの全部話して、受け入れてくれてる。
「大丈夫だよ。めちゃ元気」
「誘拐犯のグループから変なちょっかい出されてない?」
あぁ、『
グループってよりか組織って呼ぶ方が近い規模らしい。
幹部の一人がうちの母を夢の中で監禁してたんだけど、ぶっ倒してきたから、そこからは組織もおとなしいもんだよ。
そう答えると、大親友はほっとした顔になってテレビのリモコンに手を伸ばす。
「それじゃ何の心配もなく封印解除ね」
さっこちゃんはポニーテールをひょこっと揺らしながら笑った。地は美人さんだけど、こういう顔は可愛いよ。
どうして中学受験しなかったんだろうってぐらい成績優秀な我が親友の趣味は、アクション映画の鑑賞だ。テスト期間は趣味を「封印」して勉強してたから、今日が解禁日だ。
「今どきのCG使ったのもいいけど、昔の生身アクションもいいよね」
「うん、けど、日常パートとか結構時代を感じるよね。なんだそれってのあるよね」
「最近じゃ田舎でも夕方に縁側に座って夕涼みなんてしないよね」
「熱中症で死ぬわな」
そういえばお母さんは小さい頃、自分の家の神社の木陰は夏でも涼しかったって言ってたっけ。
でも虫も多くてちょっと嫌だったらしい。
虫も、わたしらが小さかった頃よりも減ったんじゃないかな。暑すぎるから活動期が短いらしい。
わたしらが大人になる頃、どうなってるんだろうな。
インドとかみたいに、外に出ると死ぬ、ぐらいの気温になってたら嫌だな。
「愛良ちゃん、今日は何時まで?」
「んー、病院終わってから晩御飯だから、それまでに帰れば大丈夫。さっこちゃんは?」
「うちも晩御飯遅いから大丈夫。ゲームでもする?」
「するする」
テスト期間中の封印解除第二弾だ。
テレビ横のカーテンの向こうは、五時を過ぎたのにまだまだ明るかった。
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