【郷倉四季】質問5 「シティーハンター」をどう見たか? また、二十代に書いた作品に四十代で戻ることについて。
結婚して名字が変わってしたいことの一つに「サインを書いてもらう時の名前」がありました。
僕はサイン本集めが趣味になっているところがあって、実際に作家さんに書いてもらう時は本名を入れてもらっていました。今回入籍したことで名字が変わり、サイン本で名前を書いてもらう時は新しい名前になります。
いつか自分が集めたサイン本を振り返る時、名字の変化で感じるものはあるだろうなと思っていました。
そんな折に森見登美彦のトークショーが大阪でおこなわれると知り、参加してきました。
森見登美彦と言えば、僕たちが専門学校に通っていた2010年代前半頃から話題になった作家です。学校の先生も「夜は短し歩けよ乙女」を読んでいたと記憶しています。
クセのある文体と京都を舞台にしたコミカルな内容。
誰でも楽しめる作家というのは大袈裟かも知れませんが、親しみやすい非常に良い作家さんです。
ちなみに、うちの妻も森見登美彦は好きです。
さて、そんな森見登美彦のトークショーは新刊の「シャーロック・ホームズの凱旋」が中心になるだろうと思い、イベントの数日前に新刊を買い求めました。
今回はサインを書いてもらうこと、後に振り返った時に懐かしむことが一つ目的となっています。であるなら、既刊本ではなく、新刊の方がその時期を思い返すフックとして作用すると僕は考えました。
この話を職場の後輩にしたところ「なんか小賢しく計算しているところが嫌っす」と言われました。
僕の下心が反映されたのかトークショーの当日は雨でした。
トークの中心はやはり新刊の「シャーロック・ホームズの凱旋」についてでした。この「シャーロック・ホームズの凱旋」は森見登美彦がスランプに陥ったホームズを描く、という内容です。
森見登美彦らしい謎の理論を振り回して、絶対に謎を解かないぞと躍起になっているホームズは微笑ましく、けれど、どこか痛々しくもあります。
そんな新刊を森見登美彦が書いた理由は「自分もずっとスランプだから」というものでした。驚くことに森見登美彦は2011年以降ずっとスランプだというんです。
「ペンギン・ハイウェイ」がスランプに入らない最後の作品とのことです。
それ以降はずっと書ききれない不完全燃焼感があり、「シャーロック・ホームズの凱旋」は最後まで書いて自分がしたかったことの周囲をなぞって本当に書きたいことがドーナッツの穴のようにぽっかり浮かび上がってきた作品だと言っていました。
森見登美彦いわく、「ペンギン・ハイウェイ」以前には中心に妄想の自分がいて、最後には自分に行き着く物語になっていた。けれど、スランプになってからは自分に行き着けなくなってしまった、とのこと。
記憶の限りで書いていますので、細かい部分は違うかも知れませんが、おおよはそのようなことをおっしゃっていました。
ここで僕が気になったのは森見登美彦の年齢です。調べたところ、現在は45歳。「ペンギン・ハイウェイ」を出版したのは2010年の31歳の時。
森見登美彦はイベント中、繰り返し自分の作品を「妄想の世界」と表現していました。この妄想の世界を森見登美彦は30代から、上手く使うことができずにいます。
20代と30代は同じ時間を生きているようで、やはりまったく違った時間軸にいるような感覚が今の僕にはあります。
それは僕が結婚したことも関係すると思います。ただ、最近考えるんですが、20代の頃に僕が結婚していたとしたら、今のような感覚で日々を過ごせていなかったはずです。
明確に20代と30代で生きる時間軸は異なります。
少なくとも大人になろうと日々過ごす人間にとっては。
村上春樹が「小説家の賞味期限」は十年で、それを過ぎれば「剃刀の切れ味」を「鉈の切れ味」に転換することが求められ、更に「鉈の切れ味」を「斧の切れ味」へと「より大ぶりで永続的な資質」への変換が求められると書いています。
僕はこの賞味期限の例えを、青春の賞味期限や20代の賞味期限と表しても良いと思うんです。20代の若い時の感覚(切れ味)で物事に接していると、切れなくなってくるものが必ずあるんでしょう。だから、大人の切れ味とか、30代の切れ味に変換する必要があるのだと思います。
森見登美彦は自らをスランプだと言うことで、「剃刀の切れ味」を求め続けているようにも見えます。ただ、彼はスランプだと言いつつ、その中で7作の長編小説を書いています。
実際、「シャーロック・ホームズの凱旋」はめちゃくちゃ面白かったです。
スランプだと言うことが森見登美彦にとっての「剃刀の切れ味」を「鉈の切れ味」への転換だったと考えることもできそうです。そういう点で言えば、森見登美彦がスランプを超えたと言う時期が「鉈の切れ味」を「斧の切れ味」へと変換される時なのかも知れません。
さて。
今回、まず僕が言いたかったのは年齢によって書ける物語は異なってくるのだろうということです。その上で、Netflixの「シティーハンター」の話に移りたいと思います。
倉木さんは「シティーハンター」の熱心なファンだと記憶しています。
Netflixの「シティーハンター」は評判が良いですが、倉木さんはどう見られたのか伺ってみたいなと思います。
また、森見登美彦の話と絡めて作者の北条司が「シティーハンター」の連載を始めたのが26歳だとウィキペディアにありました。
「シティーハンター」もまた20代に描かれた作品です。
ただ、僕の記憶が正しければ、シティーハンターはその後にエンジェルハートとして青年誌で再度(続編? パラレルワールド?)連載されています。ウィキペディアで調べると2001年に連載が開始されていますので、北条司が42歳の時です。これは20代に書いた作品世界に40代で戻ったと考えることができます。
森見登美彦が今、20代に書いた作品に挑戦した時、どのような作品が生まれるのかと考えるとワクワクします。
ただ、それは間違いなく今の森見登美彦が失ってしまったものを浮き彫りにさせてしまう挑戦でもあります。新作を生み出し続ける方が良いのか、過去の作品の続編やリメイクをするのが良いのか。
それは作家によって異なると思います。
倉木さんも30代後半です。そろそろ40代を意識しだす頃かと思いますが、倉木さんは40歳になった時、新作を書いていたいですか? それとも過去の作品の続編やリメイクに挑戦してみたいですか?
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