戦士の詞(ことば)

深雪 了

歌うように、笑うように

躰が反転して、天を向いていた頭は地面の上にあった

立ち上がろうにも、鉛のようなこの身は命令を聞かない。

仕方なく四肢を投げ出し上方を見やると、青い空と目が合った。


俺達人間が醜く争っていても、空は明るく美しい。

ああ、でも時折無骨な戦闘機が飛んで美しい青を台無しにする。


―彼女も、この空を見ているのだろうか?


願わくば、彼女の見ている空には、無骨な鉄の塊などは存在しないことを祈る。

ただただ、白い雲が綿のように浮かぶ綺麗な青い空を見ていてほしい。

その上で、俺のことを思い出してくれたなら、それに勝る幸せはない。


いったん目を細め、短く息を吐く。

頭を少し持ち上げ視線を落とすと、躰中のいたる所が赤く染まっていた。


―だめか。


浮かせていた頭を再び地面に投げ出し、今度は微笑みながら長い溜め息をつく。


片腕をゆっくり上げ空に手をかざすと、手の隙間から陽光が差し込んできた。


―叶うならば、また次の生で彼女と。

そして、自分が居なくなった今の人生でも、笑って暮らしてくれたら。


願うことは、それだけだった。


青かったはずの視界が、灰色がかってくる。映像が乱れるかのように灰色の中に時折黒いノイズが紛れ込む。


「〇〇〇——」


呟くようなその声を聞いている者は誰もいない。けれど何故だか、彼女に届いているような気がした。


再び彼はふっと笑った。その顔を太陽が上から照らす。兵士でありながら最期の時を静かに、最愛の人のことを考えながら迎えられたのは幸せなことかもしれなかった。


黒いノイズが荒れるかのように視界を塗りつぶしてゆく。男は口元に僅かな笑みをたたえ、薄く開けられた瞳は虚ろになっていった。


「〇〇〇——」


かすれた声で再び呟くと、兵士は天に向かって上げていた腕を、はたと落とした。




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戦士の詞(ことば) 深雪 了 @ryo_naoi

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