海月

視線を合わせた先に彼女のいたずらげな笑顔があった。

「ベタな告白だね。」といつも通り僕をからかったあと

「伝えてくれてありがとう。私も好きです。」僕はこのとき初めて恋人に向けられる視線の甘さを感じた。絶対にからかわれるので言うつもりはないが海月さんが初めての彼女なのだ。これからどんなことが待っているのだろう。たとえ喧嘩したりしても話し合って受け入れよう。感謝を忘れずに頑張ろうと自分の胸に誓った。

「どうする?一緒に飲んどく?記念だし。」彼女はなんの躊躇もなくストローを2本ともグラスに刺した。今さっき恋人になったばかりだぞ。展開が早くて追いつかないよ。なんとかまた状況整理を済ませ彼女に返事をする。

「恥ずかしいから、やだ。展開が早すぎてさっきから脳が破裂しそうだよ。」そう言うと彼女は大笑いした。

「ほんと初だね。可愛くてどっちが彼氏かわかんないや。」100%彼女のほうが可愛いくて彼氏は僕なのにそんな例えを思いつく彼女の幼さに口元が緩んでいく。ああ、本当に幸せだな。心の奥で噛みしめるようにつぶやいた。


「ほんと懐かしいね。あのあと結局飲んでたよね。顔真っ赤だったけど」僕たちが出会ったカフェの前で彼女は僕に笑いかけている。相変わらずからかうのが大好きなままだ。あれから2年ほど経ち僕らは明後日から同棲する。それでまでに思い出の場所を巡ろうとこのカフェにきたのだ。芯の強い彼女と臆病な僕。正反対と言ってもいい性質を持ち合わせた僕らはこれまで数え切れないほどぶつかり合ってきた。だが今、こうして2人で笑っている。この事実がただただ幸せで守りたいという。

「海月、いつも僕を支えてくれてありがとう。」

「こちらこそいつもわがまま聞いてくれてありがとう。」2種類目の笑顔で彼女が言う。これが僕たちの愛言葉。辛いときも、喧嘩したときもこの言葉があれば乗り越えられる。好きという気持ちが溢れたときもこの言葉を伝え合いキスをする。

最大限の感謝とそれ以上の愛を伝えられる最強の言葉。

「ありがとう」

あと何回この言葉を君に贈れるだろうか。たった1回しかないこの人生で後悔なんて毛頭したくない。地球という星が人間にとって唯一無二であるように僕の唯一無二は海月なんだ。こんな事考えていることが海月にバレたら笑われちゃうな。なんて思いながら2人手を繋いで歩いていく。

「いつもありがとう。だいすきだよ。あと無限回こうやって手繋いで歩こうね。」なんて彼女が言うから

「いいタイミングでいいこと言うね。」と僕がほほえみながら返すと

「なにそれーてか好きって言ってもらってなーい。」なんて彼女かふざけ調子で言うから僕はほんのちょっとの意地悪と大きな愛を持って

「いつもありがとう。海月。」

「今は好きって言ってほしかったんだけどな。でも伝わったから許す。やっぱりありがとうって最強だよね。いつもありがとう。」

そんな彼女を僕は今日も

これからもずっと

「愛してる。」

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