第4話 先輩とメリクリ

 クリスマスや年末年始に関係なく、先輩にはいつだって感謝を伝えているし、お世話になっているお礼は惜しみなくしているつもり(先輩の好きなブラックコーヒーで)。

 それでもショーウィンドウがプレゼント候補で満たされてくると、特別な贈り物をしたくなる。先輩はそんな存在だ。


 とある昼休み中に、目星をつけるためそれとなく聞いてみた。

「おしゃれな先輩がいま気になるアイテムとかあるんですか?」

「アイテムはないな」

「アイテムは? 欲しいのはモノじゃないってことです? さては自分との思い出とか?」

「出たよ、キングオブポジティブ」

 得意げにふふん、と鼻を高くしちゃったり。口角をにんまりと上げたまま、潔く単刀直入に行くことにした。

「さっきのを言い換えると、プレゼントとして欲しいものあるのかなーって」

 先輩は、頬張ったおにぎりをもぐもぐする間にもわかりやすく「ちょっと待って、答えは出てる」の表情をしている。そしてしばらくして答えが出た。

「時間が欲しい」

「その心は?」

「最近、ヘッドスパに行きたくてさ。あれやると頭の中が浄化される気分になるだろ? まあ、少なくとも俺はなるんだけど」

 彼が最後のひとかけのもぐもぐタイムに入るのを見計らい、自分は席を立ってジリジリ近寄っていく。あえてのジリジリ具合がおちゃめかな、と思いつつ、一方で先輩の「何してるの?」な視線も受け止めながら彼のチェアーの背後に立つ。

「ようこそ、ライ・リゾートへ」

「んん?」

「ハンドクリーム塗りたての、いい香りがするライハンドでしばしリラックスタイムをご堪能くださーい」

「なにそれ」

 フローラルでもなければニベアの香りだけど、無いよりはマシですよね、先輩。そっと頭頂部を両手で包み込み、なんちゃってヘッドスパ開始!

「この辺が万能のツボ百会でーす。ここは、えっと、なんか目に効くツボでーす」

 かなりの適当具合だけれど、彼が「効くー」と言うならそうに違いない。また鼻を高くして、なんとなくツボを押してゆく。途中「んんん」とか「もうちょっと強めに」とリクエストされつつ、満遍なく浄化した。

 貴方の疲れや不安を、少しでも軽減できる相棒になりたい。そんな願いも指圧から伝わるだろうか。

 

 「ありがとう、ライ」

 爽やかな笑顔が自分を見上げている。本当に毒気が抜けたみたいだ。嬉しくなって肩揉みも提案したが、彼はやんわり断った。そして椅子から立ち上がりつつ自分をカフェへ誘った。

「お礼の一杯おごらせて」

「Lサイズでお願いします!」

 楽しげに「喜んで」と微笑む姿を見て、自分が自分に満場一致で感謝を叫んでいる。不思議な話だ。希望のプレゼントを聞き出そうとして失敗し、代わりに自分が笑顔のプレゼントをもらえた気分になるなんて。


「ライ、期間限定でメガサイズもあるけど?」

「えっ! すごくメリークリスマスです!」

「だな。メリクリにするか」

 そんなこんなで、クリスマスは普通にお仕事ですが、先輩と一緒なら、いつでもメリクリ(笑顔)になれる。彼はそんな存在なのです。

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あした天気になあれ 木之下ゆうり @sleeptight_u_u

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