第6話 試験通過

 備えると考えたものの、特に何かできることはなかった。


 私が辺境の平民ということもあり、周りの人間が本当に話してくれなかった。

 噂では試験の傾向等は決まっているらしく、対策の積み方は楽らしいのだが、私にその情報が渡ることはなかった。


 芋臭い田舎者にはかかわりたくないということだ。


 そんなこんなで迎えた今日は、問題の試験当日。説明から、試験科目は算術、魔力測定、魔術技能測定の三つらしい。

 試験とは言うものの、金を払っているので、落ちるということはない。いわば実力を基準にクラス分けをするためのものだ。


 だからそんなに気負わなくていいのだが、上位クラスにいるのは、それだけで特権が発生する。

 まあ、優先的に物事を得ることができるくらいだが。これはあるに越したことはない。つまり、目指すは上位クラス―――Aクラスだろう。まあ、最悪Bだな。


 算術は余裕だろう。これでも私は研究職だったからな。

 正直に言わせてもらえれば、この世界程度の文明レベルならさほど問題にはならない。


 となれば、あとは私の魔術のレベルだろう。

 まあ、低い。言葉を濁せないレベルには低い。算術で頑張るしかないか。


 いろいろと思案するが、ここで思っても仕方がない。

 諦めて、私は試験会場の受付へと向かっていった。


 ――――――


 試験科目一つ目は、魔力測定だ。

 個人の中に内包されている魔力の総量を測定するもの。これが多ければ多いほど、大量に魔術を放てるし、強大な魔術も一人での行使が可能となる。魔術を扱ううえでの大事な示準となる。


 「では、アシュレイさん―――この水晶に手をかざしてください」


 係の人に促されて水晶に手をかざす。

 しばらくしたのち、係の人は少しだけ驚いたような表情を見せた。


 「これは―――すごいですね。同年代の魔力総量より約5倍ほど多いですね。まあ、宮廷魔導士の士隊長クラスですが、才能があるのか知れませんね。頑張ってください」

 「あ、ありがとうございます……」


 まさか、応援されるとは思っていなかった。

 ただ、私の魔力総量がそんなに多いとは思っていなかった。これはもしや、Aクラス余裕だったりするか?


 と、思ったさっきの私をぶん殴ってやりたい気分になった。


 「魔術技能は一般レベルより低いですね。まったく扱えないというわけではありませんが、魔力測定の結果を見ると、残念ですね」

 「あ、はい……すいません……」

 「謝る必要はありませんよ。私たちの仕事は技術を教えることです。魔力総量は難しいかもしれませんが、技術はどうとでもなりますよ」


 ここで気づいたのだが、教員は基本的にやさしい。どんな相手でもだ。

 王立の学園ということで、王家によって立場と給料が確約されているゆえの心の余裕なのだろうか?それとも、王立だから買収される理由もないほど給料をもらっているのか。


 わからないが、ほかの生徒たちのように私を平民だからとぞんざいに扱ってこない。

 とにかく、私にとってそれは都合がいい。


 その後の算術に関しては問題なく終わった。

 私が解けないはずがない。


 あと結果を待つのみとなる。


―――数日後


 結果の通知は本校舎の前に掲示されるという形ではなく、登録された寮の所定位置に投函されるというものだった。

 私の前の学校では、合否の結果が掲示板に張り出されるいかにもオーソドックスというものだったが、この学校は違うらしい。


 いろいろなことを考えながら封を開けると、中には『あなたの配属クラスはAクラスとなりました』との文が見える。

 とりあえず第一目標はクリアと言ったところか。


 第二もクソもないんだが。

 私はここで自立できるだけの力をつける。例えるなら、魔物が巣食っている森の中に家を作られても、サバイバルできるレベルにだ。


 それくらいできれば、どんな職についても、最悪つけなくても無理矢理今日を生きることくらいはできるはずだ。


 私の生きていた世界より法整備がザラなこの国ならそれでいけるはず。


 とにかく、次の目標の設定だ。

 そうだな―――とにかく、今は金がないから学園の実習部門の習得は必須か。


 なぜかといえば、この学園での実習活動は正式な騎士の任務に同行するものが多い。盗賊などの危険な任務はないが、王都周辺の魔物討伐などは、生徒が同行して、実践という形にしているらしい。

 無論、命が危険があるため、選択ではあるのだが、私のような貧乏学生はとるしかない授業だ。なんせ、討伐した魔物や入手した薬草などとにかく金になる。生活費を稼ぐことができる。


 とにかく、入学は3日後。クラス分けからは早いが、代わりにその間誰がAクラスで共に過ごすのかはわからない。

 できることなら、争いごとを好まない人たちとともに学びを得たいが、この国の国民性上、それは無理なのだろう。そう諦めてしまう私だった。


 まさか、このAクラスが私の大事なものを持っているクラスだとは思いもしなかった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 一方、学園側ではある生徒の話題で持ちきりだった。


 なんでもその生徒は、魔力総量に対して魔術の精度が似合っていないということだった。


 「にしても今年の生徒は豊作かもしれませんね。第8王女様に魔術の名家の御令嬢―――ほかにも名門貴族の御令嬢たちが一気に入学してきますから」

 「そうですね。ですが、その全員がたった一人の男子に執心中だとは誰も想像できませんよ」

 「その男子もすごいですよね」

 「はい―――魔力総量はほかの生徒よりも大幅に少ないのに、魔術の発生精度何もかもが一線級ですね。正直、あそこまで精錬された魔術を見るのも中々珍しい」


 話題にあげている生徒は、テストにて大きく話題になった生徒についてだ。決してアッシュではない。まあ、多少の話題には上がっているが、やはり前述の人物のインパクトが強い。なんせ、魔術の精度に加えて、4人もの女性に好意を向けられているのだ。


 「そういえば、算術のテスト6年ぶりに満点が出たみたいですね」

 「ああ、あの人ですか。平民出身の方ですね。しかし、惜しいものです―――貴族から出ていたか、貴族からの後ろ盾をもらっていれば、才能を無駄にすることもなかったでしょうに……」

 「そうですね。我々教師は、そう言った場から隔離されていますが、世間は中々そうはいきませんからね」

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私を愛したのはあなただけでした 波多見錘 @hatamisui

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