幻界侵々

@waokitunezaru

第1話 開始

 福井県北部の海岸で奴らは現れた。奴らは異様な見た目をしたものから人型と合わせて10体程度ではあったがその力は強く多くの人が命を落とし、付近の集落は壊滅した。同時期、特殊な能力を持った者たちが各地で現れた。その者達が集結して奴らは退治された。

 ーー以上が奴らに関する最古の記録である。これは500年前に記録された、とある武士の手記に残されたものであった。その後の我々は奴らのことを「幻獣げんじゅう」と名付けた。そして現在に至るまでに、幻獣の出現は収まることがなく日本は国土面積の約2分の1を失っている。この事態を重く見た政府は対幻獣の軍組織、「滅幻めつげん」を30年前に組織した。組織は日本を東西南北に分けた4つの各場所、仙台・東京・大阪・福岡、に大規模な軍基地を造り全国から人材を能力の有無に問わず大勢集め、軍の組織や科学技術の発明を行い今まさに幻獣によって奪われた土地を取り返そうとしているのであった。



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「玲!早く行くよ!遅刻したらどうするの?」

「まだ大丈夫だ。慌てるような時間じゃないだろ。」

「私が早く行きたいの!!遂にこの日が来たんだよ!!」

「落ち着くんだ、優愛。」

「そうよ。全くあなたって子は。もう今年で16になるのよ。いつまでも子供じゃないんだから。」

「パパとママだって私がどれだけ楽しみにしてたか知ってるくせに。」

「何度も言っているが無理していく必要は無いんだぞ。」

「大丈夫ですよ、お義父さん。俺がちゃんと面倒見ますから。」

「そうか、頼むよ。玲も自分の身を大切にするんだぞ。」

「わかってます。」

「よし、じゃあ行ってきま〜す!!」


黒髪を腰まで伸ばした小柄な少女ーー小倉優愛こくら ゆあが隣を歩く髪を薄い金色に染めた高身長の青年ーー九十九玲つくも れいに話しかける。

「やっと滅幻に入隊できるんだ。玲も嬉しいでしょ?」

「ああ。」

「麗奈お姉ちゃんにも会えるかな?」

「姉さんのことだから直ぐに会いに来てくれるだろ。」

「そうなるとお姉ちゃんにお願いすればの元に行けるよね?」

「入隊するまではわからない。姉さんはそんなに融通が利く人じゃない。期待はできないし、そもそも姉さんは俺が軍に入るのを嫌がると思う。」

「確かに。昔、玲がちょっと怪我しただけですごくパニックになってたもんね。」

「あれは極端だけど母さんと父さんが死んでからはすごく過保護になった気がする。」

「まあ、あんな事があったら当然だよ。玲が死んだらそのままお姉ちゃんも死んじゃいそうだもん。」

「そうだな。死なないように気をつけるよ。」



2人が向かった先は滅幻東京大軍基地であった。滅幻は毎年4月に15歳以上の軍または兵器開発に所属を希望する者を召集する。そして、軍所属希望者に対しては入隊試験が行われる。

「すごい人の数だよ!少し前は全然人気がないって聞いてたのに。」

「待遇が良くなったからだ。あとは幻獣の被害は年々増えてるし俺みたいな奴が多いんだろ。」

「「軍所属希望の者は演習場に速やかに集まれ!!繰り返す、軍所ーーー」」

基地内にアナウンスが響き渡る。

「行こう、優愛。」



演習場には既に多くの人が整列して並んでいた。暫くすると全員が集まったのか壇上に高身長な長髪の男が立つ。

「私は今回の入隊試験を担当する東部第3軍長の巴根城海羅はねしろ かいらだ。無駄話は嫌いなので早速説明をするが、試験は単純だ。君達には今から幻獣防衛ラインの一つ栃木基地へ向かってもらう。知っている者もいると思うが、現在栃木基地は周囲の街に幻獣が進行しほぼ孤立状態にある。そこで君達にはまず基地へ行って貰い、そこで武器と戦闘服を受け取り次第、幻獣を殲滅し基地を救ってもらう。以上が試験内容だ。勿論、近くまでは軍が君達を連れて行く。そこからは各々が自由に動いてもらって構わない。質問や反論は受け付けない。では解散だ。」

男は場内がざわついている事を気にも留めず、気づけばどこかへと行ってしまっていた。

「玲、結構過酷な試験じゃない?まだ幻獣に遭ったことすらない人もいるだろうに。」

「選別だろうな。足手まといは必要ないということだろう。」

「何だかひどいね。広告には”熱意あるものは誰でも歓迎”、って書いてあったのに。ま、いっか。早く行こう。」



2人は基地前に停まっている軍用車へと乗り込んだ。

「ん?まだ若えのに軍隊希望か?珍しいな。さては能力持ちか?」

見知らぬ中年男性に2人は声を掛けられる。周囲も声こそ掛けないが、物珍しそうな目で2人を見ている。

「えっと、わた、、」

「優愛、話しすぎるな。」

玲は小声で優愛にそう言う。

「うん。私の能力は魂の色が見えるんです。ただ色の違いが何を表しているかはよくわかって無いです。」

「なんだそりゃ。せっかく能力があってもそれじゃあ役に立たないじゃねえか。兄さんの方は?」

「俺は無能力です。殴る蹴るだけが取り柄なので軍所属を希望しました。」

「はははっ、そうかそうか。俺も無能力だが腕っぷしには自信がある。他の奴らもそんな感じだろう?同志たちよ!」

男は気分が高潮したのかそう騒ぎ始める。

「うるさいなぁ。」

その時、隅に座っていた少年が男に対して怒りを表してそう言う。

「なんだ?さっきは話しかけても無視だったくせに喋れるんじゃねえか。」

「ねえ、おっさん。怖いのを大声出して誤魔化すくらいだったらさっさと降りて帰ったら?その方が身のためだよ。」

「俺がビビってるだとぉ?」

「弱いやつほどよく吠えるって言うでしょ。というかいい加減黙ってくれないかなぁ?」

少年がそう凄むと男は萎縮したかのように静かになり座り込んでしまった。

「すごいね、あの子。というかさ私返答間違えちゃったかな?」

「いや、大丈夫だ。どうせここに居る半数は試験で死ぬ。多少言い過ぎたくらいはなんの問題もない。腕っぷしだけで倒せるほど幻獣は甘くないからな。」

「じゃああの人も?」

「あいつの言う通り、今降りたほうが賢明だろうな。」

「そっか。」

「着くまでまだ時間がかかるだろう。体を休めとけ。」

「うん。」



「玲、起きて!!やっと着いたよ!!」

「ああ。」

車を降りると他の車に乗っていた人たちも到着していた。その数は全部で200人程であった。

「あれが栃木基地か。こっからでもよく見える。」

玲の言う通り到着地点から基地までは車で5分もかからない程度の距離しかなかった。が、基地に至るまでの建物はほとんどが崩壊しており、人の気配は全くしておらず異様な雰囲気を放っているのであった。

「幻獣はまだ見えないね。基地の人達を狙ってるのかな?」

「いずれにしろこの人数だ。直ぐに気づいて襲ってくるだろう。」

「基地に行くまでは別に倒さなくていいんだよね。じゃあちゃちゃっと行っちゃいますか。」

「いや。」

「え?」

「「これより試験を開始とする!!各員突入せよ!!」」

隊員と思われる者がそう宣言し、危険地域へと皆が入り込んでいく。

「何々どうしたの、玲?」

「基地へ着く前に幻獣を皆殺しにする。奴らを狩るのは俺だ。」

「えー.....」




栃木基地内にて、巴根城とラフな格好をした短髪の女性が外を見ながら話し込んでいる。

「さて今年は有望な人材はどれだけ居るだろうか?」

「この試験って毎年思うけどほんと最悪だよねぇ。丸腰でここまで来るとかさぁ、よっぽどいい能力を持ってるか、すごく運が良くないと不可能でしょぅ。」

「私にも司令の考えはよくわからないよ。北部は全員合格にして隊員と共に実戦投入だし、南部は全員合格の上に3年間は訓練だけらしい。西部はこっちと同じらしいが、正直この試験は合格者を出すつもりがあるのだろうか。」

「まあ、毎年少なくとも5人くらいは合格してるしぃ、今回もそんぐらいじゃないかなぁ。」

「だろうな。最初から期待などしていないさ。」

そう行って退屈そうに巴根城は再び外を見る。今回も面白い奴は出てこないのだろうと思いながら。



こうして入隊試験が始まるのであった。




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