第5話 エピローグ

 俺たち横浜桜美中の女子バレーボールチームは全中三連覇を達成した。


 横浜に帰った俺たちを、駅前でチームのみんなが出迎えてくれた。

 その中にアキラの姿はなかった。あいつは額に入った写真でそこにいたんだ。

 

「!……サナちゃん」


 写真のあいつは何を考えてるのか分からないようなふざけた顔をしてやがる。

 俺、「ふざけんな!」って叫んだよ。

 アキラをぶん殴りたかった。

 胸倉をつかんで吊るし上げたかった。

 でもいないんだ……

 

「サナちゃん、もういいよ……」

 ノリが俺をそっと抱きしめて、小さな子供にするみたいに髪をやさしくなでてくれた。

 

「俺が『アキラ』だって言うのは俺のなかにずっとあいつがいるってことなんだ。あいつの期待には応えてやれなかった罪滅ぼしって気持ちもある。俺はずっとアキラのことを心に抱いて生きていく。これまでも、これからも」


「アキラの期待に応えてやれなかったこととか、自分がトランスジェンダーだってこともやっぱり負い目に感じちゃって、もう横浜にはいられないって思った。一回全部切り捨てたかったんだ。長崎に来たのは心愛女子がバレーボールの強豪だったからで、それにまあ女子高だったってこともあるけど」


「サナちゃん……私にも『アキラ』って呼んで欲しい?」

「いや……ノリには本名で呼んで欲しい。ノリに『アキラ』って呼ばれたら、何か三角関係みたいでややこしいからな」

「分かった」

「さて、俺の昔話も終わりだ」


「あのさ、もう一個だけ聞いていい?」

「何だ?」

「そのアキラ君のお墓は横浜にあるの?お墓参りには行ったりするの?」


「え?お墓?」

 サナちゃんがきょとんとした顔をする。私、変なこと言ったかな。


「アキラ、死んでないよ。縁起悪いこと言うなよ!」


「ええ!?だって額に入ってたって、ぶん殴りたかったけどどこにもいなかったって、言ったじゃん!」


「うん。あいつ脳に腫瘍があって、それが視神経を圧迫して目が見えにくくなってたらしいんだ。俺が全中で横浜を離れている間に手術したんだけど、俺たちが優勝して帰って来た時はまだ入院してて、迎えに行けないから代わりに写真を持っていってくれって言ったらしいんだけど。その写真がほんっとにふざけた写真でさ、めっちゃムカついてぶん殴りたくなったんだ」


「俺、全中に出発する前、どうしてもアキラの目の原因が気になって、お姉さんに電話したんだ。そしたら教えてくれたよ」


「手術するのが怖くて、いっとき気弱になって、結婚してくれとか、生きていけないとかってほざいてやがったらしいんだ」


「あいつが退院したのは俺がこっち来た後だから、あれ以来全然会ってないんだよ」


「じゃ、生きてるんだね?なーんだあ、ちょっと泣きそうになって損しちゃった」


「知らないか?向井昭(むかいあきら)って」


「向井昭!今年のインターハイ優勝校、横浜青葉高校のエースでキャプテンじゃん。めっちゃ女子に人気あって私も優勝インタビュー見た!」


「そういうことだ」

 なあんだ、拍子抜けしちゃった。でもハッピーエンドでよかった!


「まだ夜明けまでには時間あるね」

「そうだな」

「もう一回抱いて、サナちゃん」

「ノリ……好きだよ」

「私も、大好き」

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トランスジェンダー アキラ ~「陸女」スピンオフ~ @nakamayu7 @nakamayu7

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