砂漠にペンギン

砂漠にペンギン

作者 末人

https://kakuyomu.jp/works/16818093081825835528


 南極ペンギン連邦議会の大統領選に出馬した甘党党首のペンギンが、対立候補の辛党党首ペンの助との討論の末、砂糖水と韓国キムチを持ってサハラ砂漠でサバイバルゲームを行うことに。砂漠での過酷な環境に苦しむ中、遊牧民と出会い、彼らの助けを借りながら生き延びようとするが、サソリに噛まれた尻の治療を求めて砂漠を旅し、病院にたどり着く。治療や人間とのやり取りを経て、最終的に南極に戻るが、彼らの大統領の座はブドウ党党首のマイケル・ペンギンに奪われてしまう。彼らは再び大統領の座を取り戻すことを誓う話。


 疑問符感嘆符のあとはひとマス開ける等は気にしない。

 現代ファンタジー。

 南極ペンギン連邦議会の大統領選挙に出馬したペンギンと、対立候補ペンの助との、サハラ砂漠を舞台にしたユーモラスな冒険譚。

 ペンギンの視点から描かれるユーモアと風刺が効いており、ユーモラスな語り口調が魅力的で、読者を楽しませてくれる。

 

 主人公は、南極ペンギン連邦議会の大統領選に出馬した野党・甘党党首のペンギン。一人称、我で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。


 才能のある人物の挫折と成長の物語と、メロドラマと同じ中心軌道に沿って描かれている。

 主人公、甘党党首・ペンギンは、南極ペンギン連邦議会の討論会で、対立候補辛党党首・ペンの助と口論になる。

 ペンの助は「辛党が政権を担うことができた暁には、皆様に毎月一キログラムの韓国キムチを配給する」と主張。主人公は「辛党は、昨年のオキアミ賄賂問題に関し国民に何の説明責任も果たさず、おまけにイカ税の増税をした大悪党」だといい、砂糖水を配給すると応じる。討論の結果、二人はサハラ砂漠で、砂糖水と韓国をそれぞれ携えてキムチサバイバルゲームを行うことになる。

 砂漠で脱水症状に陥った主人公は、遊牧民の「おじさんエンペラー」と「ラクダエンペラー」に助けられる。主人公は砂糖水を差し出して宿を借りようとしますが、ペンギン語が理解されなかったが、ラクダに乗せられて移動する。

 主人公は遊牧民のテントでペンの助と再会。エンペラーの民屋衣装から韓国キムチを出てきたことで、主人公は自分の砂糖水が劣勢であることにショックを受ける。さらに、ペンの助はヤギに恋をしてしまう。

 夜になると、遊牧民はヤギの肉を提供する。ヤギに恋していたペンの助は、ヤギの肉を食べることにためらいを見せますが、結局食べる。主人公は自分たちペンギンも食べられるのではないかと恐怖を感じ、自分が助かるためにペンの助を出しだそうと、尻尾を綺麗に撫でる。

 その晩。ペンの助の寝相が悪く、いびきもうるさい。今夜食したヤギをナンパしている夢を見ていた。主人公は眠れす、エンペラーと般若皇后は閑静地に避難するために外で寝ることにした。翌朝、バッタの大群が襲来し、ペンの助はバッタに恋をしようとしますが、失敗。全身に無数のたんこぶができていた。

 遊牧民がどこかに出かける準備を始め、主人公は説得を試みるも失敗。ペンの助と一緒にラクダに乗せられる。休憩途中、主人公はサソリに刺され、痛みで走り出す。

 主人公のペンギンがサソリにお尻を噛まれ、痛みを訴える。おじさんエンペラーが呪文を唱えて治療しようとするが、効果がなく、ペンギンは痛みを訴え続ける。エンペラーはペンギンをラクダに乗せて病院に連れて行く。

 病院に到着し、ペンギンは診察を受けるが、医師たちに拘束され、注射を打たれる。ペンギンは新しい感覚を味わい、治療が進む。ペンの助は包帯でぐるぐる巻きにされ、ミイラのような姿になる。

 ペンの助が看護師に恋をし、主人公に看護師のタイプを聞いてくるよう頼む。主人公が看護師に近づくと、エンペラーと医師たちがペンギンたちを南極に返す計画を話しているが、ペンギンにはわからなかった。

 オキアミに釣られて檻に入ってしまうペンギンたち。二日ほど、動物園のバックヤードで過ごし、オキアミを追いかけているうちに檻に入れられ、南極に向かう船に乗せられ到着する。

 南極に戻ったペンギンたちは、感謝の気持ちを伝えるために一発芸を披露するが、係員は真っ青な顔をして逃げられる。

 南極の町に向かうが、道に迷い、翌朝ようやく首都「ビッグペンギンシティ」に到着する。

 ビッグペンギンシティで新大統領のパレードが行われていることを知る。新大統領は「ブドウ党」のマイケル・ペンギンであり、主人公たちは驚く。甘党と辛党の大統領候補は支持率がゼロになり、除籍されたことが判明。主人公たちはいつか返り咲くと、南極の氷を溶かすほどの炎を心の奥底で燃やすのだった。


 三幕八場の構成になっている。

 一幕一場 状況の説明、はじまり

 南極ペンギン連邦議会の討論会で、甘党党首・ペンギンと辛党党首・ペンの助が口論になる。ペンの助は「辛党が政権を担うことができた暁には、皆様に毎月一キログラムの韓国キムチを配給する」と主張。主人公は「辛党は、昨年のオキアミ賄賂問題に関し国民に何の説明責任も果たさず、おまけにイカ税の増税をした大悪党」だ  二場 目的の説明

 討論の結果、二人はサハラ砂漠で、砂糖水と韓国キムチをそれぞれ携えてキムチサバイバルゲームを行うことになる。

 二幕三場 最初の課題

 砂漠で脱水症状に陥った主人公は、遊牧民の「おじさんエンペラー」と「ラクダエンペラー」に助けられる。主人公は砂糖水を差し出して宿を借りようとするが、ペンギン語が理解されず、ラクダに乗せられて移動する。

 四場 重い課題

 遊牧民のテントでペンの助と再会。エンペラーの民屋衣装から韓国キムチが出てきたことで、主人公は自分の砂糖水が劣勢であることにショックを受ける。さらに、ペンの助はヤギに恋をしてしまう。

 五場 状況の再整備、転換点

 夜になると、遊牧民はヤギの肉を提供する。ヤギに恋していたペンの助は、ヤギの肉を食べることにためらいを見せるが、結局食べる。主人公は自分たちペンギンも食べられるのではないかと恐怖を感じ、自分が助かるためにペンの助を出しだそうとする。

 六場 最大の課題

 翌朝、バッタの大群が襲来し、ペンの助はバッタに恋をしようとするが失敗。全身に無数のたんこぶができる。遊牧民がどこかに出かける準備を始め、主人公は説得を試みるも失敗。ペンの助と一緒にラクダに乗せられる。休憩途中、主人公はサソリに刺され、痛みで走り出す。

 三幕七場 最後の課題、ドンデン返し

 病院に到着し、ペンギンは診察を受けるが、医師たちに拘束され、注射を打たれる。ペンの助は包帯でぐるぐる巻きにされ、ミイラのような姿になる。ペンの助が看護師に恋をし、主人公に看護師のタイプを聞いてくるよう頼む。主人公が看護師に近づくと、エンペラーと医師たちがペンギンたちを南極に返す計画を話しているが、ペンギンにはわからなかった。

 八場 結末、エピローグ

 オキアミに釣られて檻に入ってしまうペンギンたち。動物園のバックヤードで過ごし、南極に向かう船に乗せられ到着する。南極に戻ったペンギンたちは、感謝の気持ちを伝えるために一発芸を披露するが、係員は真っ青な顔をして逃げられる。ビッグペンギンシティで新大統領のパレードが行われていることを知る。新大統領は「ブドウ党」のマイケル・ペンギンであり、主人公たちは驚く。甘党と辛党の大統領候補は支持率がゼロになり、除籍されたことが判明。主人公たちはいつか返り咲くと、南極の氷を溶かすほどの炎を心の奥底で燃やすのだった。


 砂漠の謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どのような結末に至るのか気になる。

 ペンギンたちのユーモラスな冒険と、彼らが直面する困難を描きながら進行する書き出しがいい。

 遠景で「今、我は砂漠にいる」と示し、近景で「文字通り砂漠にいる」とさらに説明。心情で「そして我はペンギンである」と主人公が誰かを語る。砂漠にペンギンがいる、という不思議な状況が伝わり、読者になんだろうと思わせる。

 そこに「読者用に三段論法を使って要約しよう」と、読者に

訴えかけるような視点が入り、「砂漠に一匹のペンギンがいる」と教えてくれる。

 十分にわかったのだけれども、さらに「まだ少々我の言っている意味が分からない者の為に倒置法を用い、もう一度言おう」と言い方を変えて教えてくれる。

「砂漠にいる。ペンギンが」

 砂漠のいるのあとは読点でもいいのでは、と思いたくなるが、おそらくツッコんだら負けな気がしてくる。

 ペンギンの種類がわかれば、どうしてペンギンが砂漠にいるのだろうと、いま以上に驚けるかもしれない。そんなことも思っていけないような雰囲気が、この冒頭にはある。

 主人公であるペンギンは、叫び訴えているのだ。

 南極にいるペンギンが、どうして氷も海もない砂漠にいるのかと。

 自身の状況に嘆いているかのようだ。

 可愛そうかなと思っていると、理由が語られる。


 南極ペンギン連邦議会討論会にて。野党・甘党から大統領選に出馬し、対立候補のペンの助氏(与党・辛党)との口論で、選挙公約で辛党が政権を担ったら毎月一キログラムの韓国キムチを配給を約束し、主人公ペンギンは「昨年のオキアミ賄賂問題に関し国民に何の説明責任も果たさず、おまけにイカ税の増税をした大悪党です! 第一、キムチで腹いっぱいになるわけない! お腹を壊すだけだ! ありえない!」と語り、砂糖水を配給で指示を訴えた。

 ペンの助は笑い、砂糖水で腹が満たされるわけがない、サハラ砂漠にいったら三日で死ぬぞといわれ、「三日どころか永住できるわ! お前こそキムチじゃ二日で餓死だ!」と口論となり、お互い一歩も引かなかったため、それぞれがサハラ砂漠の別の場所で砂糖水と韓国キムチをもってサバイバルゲームがはじまった。

 国民は討論をみて政治に絶望し、ぐったり。

 わたしたちの国の、政治と金の問題と国民生活を苦しめる増税政策が想起されて、そんな愚かな討論を見せられたら失望し、絶望もするだろうと呆れてくる。

 ちなみに「また、先ほどのペンギンの声のイメージがつかなかった人間諸君! 『ペンギン 声』と検索してみよう」とあるので検索し、ペンギンの声を聞いてみると、激しい鳴き声に出会える。


 本作はお笑いのコントのような作品だということが冒頭のやり取りからわかるため、ペンギンとペンの助のやり取りを眺めるように楽しんで読んでいけばいい。

「ただただ砂しかない。いやあ、いとをかしである。仮に清少納言がここにいれば春は砂。夏は砂。秋は砂。冬も砂であろう」意外に博識である。

「持参の南極産砂糖水を飲んでみることにした」

 大部分を氷に覆われた世界で、どのように砂糖をつくっているのだろう。そう思ってはいけない。温かい目でみていく。

 

「説明しよう! 糖分を過剰に摂取すると体が薄めようとして水分をより欲すようになるのだ!」

 某タイムボカンシリーズのナレーションが想起されるけれど気にしない。それより、このペンギンは賢い。賢いのになぜ、「三日どころか永住できるわ!」と豪語したのかしらん。場の勢いだったのだろう。


「またグモオオオと音がする。仮にこの音がASMRとしてYouTubeにあげられれば再生回数は百回いかないだろうという絶妙な音だ」

 ペンギンもネットを楽しんでいるのかもしれない。

 博識の由来は、ネットにあるのだろう。


 ペンギンの骨格を見るとわかるように、膝を曲げた体育座りの状態で直立歩行している。だからペンギンが両膝をつくには腹ばい姿勢になると推測されるが、そんな細かいことは本作にはどうでもいい。作品を楽しむ、ということが何より大切である。

 

 長い文は、五行以上、長いものだと二十行続いて改行するところある。途中で改行できそうなところもあるので、読みやすくできると思うけれども、句読点を用いた一文は短いので、改行されずにつづいていても、比較的読みやすい。また、書かれている内容が、読み手を楽しませようと書かれているので、荒唐無稽な話ながらも読んでいける。

 ペンギンのユーモラスで軽快な語り口調。ペンギンの視点から描かれており、読者に親しみやすい。登場人物の性格がわかる会話文や行動がコミカルで、ペンの助とのやり取りは漫才そのもの。読者を笑わせてくれる。ペンギンたちの会話が物語の中心で、キャラクターの個性が際立つのも魅力の一つ。

 ペンギンの擬人化、ユーモア、風刺的な要素が強く、政治風刺や文化的なパロディが随所に見られるのが特徴で面白い。

 砂漠の暑さや病院の冷たさなど、五感に訴える描写が豊富。

 五感の描写として、視覚は、砂漠の風景や遊牧民の生活が詳細に描かれている。

 聴覚は、ペンギンの声やラクダの声がリアルに描写され、嗅覚はオアシスの臭いや食事の匂い、砂糖水とキムチの腐敗臭などが描かれている。

 触覚は砂の感触やペンギンの体温など。

 味覚は砂糖水やキムチの味、ヤギの肉、卵の味。


 主人公の弱みは環境適応力の低さ。砂漠という過酷な環境に適応できず、苦しむ姿が描かれている。ペンギンなので、砂漠地帯に生息するには無理があるのだ。

 コミュニケーションの難しさも弱みである。

 遊牧民との言語の壁や文化の違いに苦しんでいる。ペンギンなので、人間と会話するのは、無理があるのだ。ペンの助も同様だっただろうに。たとえ言葉が通じなくとも、二匹はいがみ合いながらも仲良くしていて、ペンギンたちはタフだなと思わせてくれる。

 どはいえ、自己中心的な点は否めない。

 もともと対立候補であるとはいえ、ペンギンたちは自分のことばかり考え、他者への配慮が欠けている。

 しかも無計画。行き当たりばったりで行動し、計画性がない。これで国民の上に立つリーダー、大統領によくもなろうと思ったものだと、感心を通り越して呆れてしまう。この辺りは政治風刺になっているだろう。

 ペンの助なんて、見かけたヤギを妻だといっては料理に出てきては食べ、最愛の妻をなくしたあとはバッタに振られ、今度は看護師を狙ってみたいといって、ペンギンに好みのタイプを聞いてくれと頼む始末。

 ペンギンは、実に自由。

 冗長的なところはテンポを良くしたり、全体の統一感を整えたり、ペンギンたちの背景や内面をもう少し掘り下げるなど手を加えると、物語に深みが増すかもしれない。けれど、本作はそういう話ではない気もする。


 ペンの助の寝言はラップになっている。

 南極に到着し、係員に披露するのはミルクポットの漫才ネタ。

 どこまでも笑わせてくれる。

 首都「ビッグペンギンシティ」に二匹は帰り着くが、大通りがあったり、屋外スピーカーが鳴り響いていたり、パレードまで。

 南極に都市ができているのかもしれない。

「隣でパレードを見ていた買い物帰りのアフロヘアーのおばさん」とある。ペンギンがアフロヘアーをしているのを浮かべると、それはそれで実に愉快に思えてくる。

 甘党と辛党の対立は、党首討論でゼロパーセントとなり、ブドウ党が政権を取るという展開は、意表をついていて面白かった。

 甘いか辛いかの論争は、結局甘さが勝ったのだ。

 ブドウ党は、ペンギンの党首討論をみて見限った甘党から分裂したペンギンたちが立ち上げたのかもしれない。

 完全敗北したにも関わらず、ペンギンたちは「いつか必ず返り咲いてやると心の奥底の灯は南極の氷を溶かし、今、炎々と燃えている」のである。

 主人公の成長や変化が描かれていないため、再選は駄目だろうなと思えるところでペンギンたちの話は終わる。

 二人が忘れていったキムチと砂糖水の臭さに騒ぐエンペラーたちでオチとなっているのは、良かった。

 ストーリーの一貫性とキャラクターの成長を強めれば、物語全体の完成度が高まる気もするけれど、本作は風刺を聞かせた作品でともいえるので、面白さをとったのだろう。


 読後。タイトルを見直して、あり得ない組み合わせが良かったと思えた。

 作品は非常にユニークで面白い。ペンギンたちの個性的なキャラクターやユーモラスな語り口、風刺やネタも満載、読み手を楽しませようとするサービス精神もあり、ツッコミどころも多かった。読んでいて飽きないけれども、ヤギのエピソードは少し長く感じることがあるため、もう少しテンポが良いとさらに楽しめるのではと考える。

 地球温暖化の影響と、環境破壊で人間だけでなく他の動物も窮地に立っているのは事実だろう。自分のことばかり考え、国民の生活ではなく自身の再選ばかり気にする政治家は、ペンギン以下かもしれない。そんなことを思わせてくれた。


 ところで、南極は世界最大の砂漠として分類されている。

 砂漠の定義は「年間降雨量が250ミリメートル以下の地域」または「降雨量よりも蒸発量の方が多い地域」とされている。南極の年間降水量は平均100ミリメートル未満。ゆえに、巨大な砂漠として認識されているのだ。

 タイトルの『砂漠にペンギン』は、南極のペンギンを指していたのかもしれない。

 ちなみに、南極にも完全に乾燥した地域、万年雪の無い砂漠「マクマードドライバレー」がある。


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