アンイマジナリーフレンド

アンイマジナリーフレンド

作者 天井 萌花

https://kakuyomu.jp/works/16818093083977267631


 現実主義の主人公には夢見がちな大切な友達いた。彼は魔法使いになるといって突然消え、見習いとして再び現れる。記憶から忘れられなければ大魔法使いにはなれないので、主人公を魔法で幸せにし、代償として記憶を消しに来た。魔道具のメガネを借りて気持ちを確かめた主人公は、忘れる前に「あなたが好きだった」と紅白し、「あなたの夢を応援している」と嘘を付く。「僕も君が好きだよ、ずっと」という彼を忘れられないまま別れる話。


 現代ファンタジー。

 感動的で心に響く物語。

 主人公と彼の関係性が複雑で、読んでいて引き込まれる。

 現実においても、同じような別れがあることに気づかせてくれる。


 主人公は現実主義者の少女。一人称、私で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。


 それぞれの人物の想いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプの中心軌道に沿って書かれている。

 幼い頃、現実主義の主人公には夢見がちな大切な友達がいた。

 彼は魔法使いになることを夢見ていましたが、現実主義の主人公はその夢を否定していました。ある日、彼は「明日魔法使いになる」と言い、翌日から彼の存在が消えてしまう。

 年月が経つも、主人公は彼のことを忘れられずにいた。

 ある日、放課後の教室に突然現れた不審な男が、彼に似ていることに気づく。男は自分が魔法使い見習いで、大魔法使いになるために主人公の願いを叶えに来たと言う。代償に、男の願いを叶えてもらうという。

 主人公は断るが、魔法の代わりに魔道具を使うことを提案。真実が見える、代わりに目が痛くなるという。

 主人公は彼の正体を確かめるために、男の魔道具である眼鏡を借りる。眼鏡をかけた主人公は、男がかつての友達であることを確認。

 男は「君が僕を忘れてくれること」が自分の願いだと言うが、主人公は彼を忘れることができない。

 主人公は忘れなくてはいけないが、彼は主人公を忘れなくてもいいのだから、忘れる前に主人公は彼に「私、あなたが好きだった」と口にし、「あなたの夢を応援している」と伝える。

「僕は魔法で幸せにしたかったのは、君だった。どうすれば、君を幸せにできるかな」

 叶うはずないと思っていた夢を応援し、彼のためなら嘘だって吐く。「あなたが大魔法使いになったら、私も幸せよ」

 彼も「――ありがとう。僕も君が好きだよ、ずっと」と告白。

 未練を断ち切るために、主人公は教室のトアを閉めるのだった。


 三幕八場の構成で書かれている。

 一幕一場の状況の説明、はじまり

 幼少期の回想

 二場の目的の説明

 彼の消失。

 二幕三場の最初の課題

 歳月が過ぎたのち、学校で主人公と彼の再会。

 四場の重い課題

 堅苦しいから敬語をやめるよういわれる。

 五場の状況の再整備、転換点

 魔法使いは魔法で願いを叶えるのが仕事。いっぱい願いを叶えて大魔法使いになりたい彼。条件は、みんなの記憶から彼が消えたときになれる。いまも覚えている主人公から記憶を消すために、主人公お願いを叶えにきた。

 六場の最大の課題

 魔法を信用していない主人公に魔道具を勧める。魔道具のメガネを借りることにする。

 三幕七場の最後の課題、ドンデン返し

「本当の願いはあなたには叶えられれない」といった主人公の言葉に、「……眼鏡なんてかけなくても、見たいものは見えてるんじゃないか」と笑う彼。魔道具で彼を見、彼の正体を確かめる。自分の知っているばかり見えてきて、飽きて返してしまう。

 八場の結末、エピローグ 

  あなたが好きだった、あなたの夢を応援していると告げる。

 別れ際、「僕は魔法で幸せにしたかったのは、君だった」という彼。「どうすれば、君を幸せにできるかな!」

 一緒にいてくれたら幸せだろう。でも「……あなたが大魔法使いになったら、私も幸せよ」と嘘を吐く。

 彼の「――ありがとう。僕も君が好きだよ、ずっと」を聞き、未練を断ち切るようにドアを締めた。


 誰より大切な友達の謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どのような結末に至るのか気になる。

 主人公の独白からの書き出し。

 遠景で「幼い頃、私には誰より大切な友達がいた」と語り、近景で、どういう子だったか説明し、心情で綺麗な目をした夢見がちな、人を喜ばせるのが好きな優しい子だと語る。

 なんだかとっても素敵である。

 そして、主人公は現実主義者の冷めた子で、彼の夢をしょっちゅう否定していたという。


「私にとって彼が一番大切な子で、彼にとっての私も、一番大切な子であったと思う」

 その子が、魔法使いになると言って、みんなの記憶からも存在も消えてしまう。

 主人公はショックだっただろうし、寂しくも悲しく、可愛そうである。主人公だけが知っているのだから、まさに孤独。共感してしまう。


「魔法で人を幸せにしたいと言われれば、他の方法を探せと言う。新しいものを作るの! と言われれば、発明家にでもなれと言う。魔法は絶対にあると主張する彼と、よく口論のようになっていたっけ」

 のちに彼は魔道具のメガネを作る。

「僕が勝手にやってるだけ。昔“大切な人”が、魔法と発明は似てるって教えてくれてね。じゃあ魔法で発明したら最高じゃん! って」 と語っており、主人公の言葉がきっかけになっているのがわかる。

 この眼鏡では「――真実が見える。これで周りを見れば、気が付いていなかったことや色んな道理を明らかにできるんだ」とあり、現実主義の考えをしていた主人公の性格を彷彿させられる。

 ここから、彼が主人公のことが好きだったのがわかる。

 好きだったから、主人公を幸せにしたいと思い、たとえ自分の存在が忘れ去られても願いを叶えようと魔法使いを目指したのかしらん。


 彼が教室に現れたとき、どのように現れたのかしらん。

 主人公がどこにいるのかは、あとから少しわかってくる。でも、情景や背景の描写が少ないのでわかりにくい。

「そもそも普通の人なら四階建ての建物の三階に落ちてきたりしないし、何もない所から落ちてきたりもしない」

「ふわりと舞ったカーテンが鬱陶しいのは、窓際の席唯一のデメリットだと思う」

 心情描写で状況描写することは可能だけれども、読み手としては想像しにくいので、補足して欲しい。

 たとえば主人公は高校生で放課後、校舎の三階にある教室で一人、窓辺の自席にいる。すると、黒いローブを羽織った男が、天井から現れる。主人公の机の上に腰掛けズレた眼鏡を直し、観察するように主人公の顔を覗き込んでくる。

 

 ちなみに、彼は机の上に座り続け(机の上に寝転がったまま、視線だけで主人公を見、それから体を起こして机に座る)彼が机を降りてようやく、主人公は席を立つ。それまでずっと、椅子に座って話をしているのだろうか。

 主人公の机に寝転がり、座っているのではないかもしれない。

 主人公の前の席の机という可能性も考えられるが、「私の席なんだけど」とあるので、主人公の目の前である。

 かなりの圧迫感がある気がする。


 長い文ではなく、こまめに改行されている。句読点を用いた一文は長くない。短文と長文を組み合わせてテンポよくされていて、感情を揺さぶっているところがある。ときに口語的。登場人物の性格のわかる会話文は読みやすい。繊細で感情豊かな描写が特徴。内面的な葛藤や感情の変化が丁寧に描かれている。

 現実と幻想が交錯する物語で、 夢と現実、記憶と忘却といった普遍的なテーマが深く掘り下げられている。

 主人公と彼の感情の変化が細かく描かれているのがいいところで、共感を呼び起こされやすい。

 主人公と彼の関係性が複雑で興味深く面白い。

 五感の描写において、視覚は黒髪や眼鏡、ローブなどの視覚的な描写が豊富に描かれている。

 聴覚は彼の声や笑い声、教室の音など。触覚では、眼鏡をかける感覚や風の感触などが描かれている。

 

 主人公の弱みは現実主義なところ。

 幼い頃から現実主義で、彼の夢を否定してしまう。つまり、昔から理性的で素直ではなかったのだ。男子よりも女子のほうが現実的に物事を捉えるので、性格が良く現れている。

 また、自分の感情を抑え込む傾向があり、素直になれない。


 彼の魔道具、メガネを借りて彼を見る。

「じっと見つめれば見つめるほど――彼のことが頭に入ってくる。夢中で見つめていると、途中で私が知っていることばかりになって。飽きて外した眼鏡を、すぐに彼に返した」

 つまり彼の中には、幼い頃の主人公との思い出が一杯あったということだろう。

 彼と一緒に過ごしてきたことを覚えている主人公にとっては、どの思い出も記憶にあるものばかりで知っている。だから飽きてしまったのだ。

 それだけ、彼は主人公のことを大切に思っているのだ。

 それをしって、「……私、あなたが好きだった」という。

 彼もメガネをかけているから、主人公の気持ちを知っている。

 両思いなのだろう。

 それでも「……僕は魔法で幸せにしたかったのは、君だった。どうすれば、君を幸せにできるかな!」と聞いてくる。


 彼と主人公は対になっている。

 主人公が理性的に嘘をついて「……あなたが大魔法使いになったら、私も幸せよ」といえば、彼は感情的に「――ありがとう。僕も君が好きだよ、ずっと」と返すのだろう。


「みっともなく声をあげて泣いてしまう前に」「彼がまた眼鏡をかけて、私の姿を見てしまう前に」「私は未練を断ち切るように――ピシャッと大きな音を立てて、ドアを閉めた」

 この切なさは、彼が大魔法使いになるための試練なのだ。

 

 彼が大魔法使いになるためには、みんなの記憶から自分が消える必要がある。非常に重要な目標で、夢を叶えるための条件。

 しかし、彼は主人公を大切に思っており、彼女を幸せにしたいと願っている。

 彼が主人公の記憶から消えることは、彼にとっても辛い決断。

 自分を忘れてほしくない気持ちがあるが、夢を追い求めるためにはこの犠牲が必要だと考えている。

 彼もまた、辛い別れをしたのだ。


 読後。タイトルをみる。

「アンイマジナリーフレンド」は造語で、「想像上の友達ではない」という意味になる。主人公が幼い頃に大切にしていた友達が、実は想像上の存在ではなく、現実に存在していたことを示している。

 

 現実においても、同じような場面があることに気付かされる。

 多くの人が子供の頃に夢見た職業と、現実に選んだ職業が異なることがある。

 夢を追い続けることが難しいと感じる一方、現実的な選択をすることが必要になることもある。

 アーティストや作家など、創造的分野で働く人は、自分の夢を追い求めるために現実的な困難に直面することは多い。経済的な安定を犠牲にしてでも、自分の夢を追い求めるか、ジレンマに陥るだろう。

 親が子供のために自分の夢やキャリアを犠牲にすることもある。

 子供の教育や生活のため、自分の欲望を抑えることが求められる場面も起こり得る。

 恋愛関係においても、パートナーのために自分の欲望や夢を犠牲にすることがある。相手の幸せを優先し、自分の夢を諦めることが求められることもある。

 夢を追い求めることと、他者の期待に応えることの間で揺れ動く感情もある。

 夢に向かえば他者からの失望を招くこともあるため、葛藤することもある。

 過去の思い出が現状に影響を与えることだってある。

 物語で描かれている状況は、現実の生活においても誰もが経験するから、多くの人が共感できるだろう。


 魔法で忘れることが出来たとしても、心の奥底では彼の存在が残り続けるかもしれない。忘れることの難しさ、過去の大切な人との絆の強さを描いているかもしれない。

 はたして主人公が彼のことを忘れてしまうのかどうかは、読者の解釈に委ねられているのだろう。

 

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