金魚鉢
金魚鉢
作者 @red_apple
https://kakuyomu.jp/works/16818093083337341016
金魚鉢は亡くなった母親の形見であり、水牧琉璃にとって大切なものだが、城野に金魚鉢を壊されたことで、自分の過去と向き合い、友達の大切さを再認識する話。
現代ドラマ。
友達との友情と、過去のトラウマ乗り越えていく姿がよかった。
主人公は水牧琉璃。一人称、私で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。
女性神話の中心軌道に沿って書かれている。
火事で母は亡くなり、父に捨てられた水牧琉璃は、言葉を話すことが怖くなり、単語でしか話せなくなってしまった。彼女にとって金魚鉢は亡き母の形見であり、大切なものだった。
琉璃は自習室で金魚鉢を見つめている。クラスメイトの城野乙葉に話しかけられるが、琉璃は単語でしか話せない。サッカーボールが窓から飛んできて、琉璃は外に出てボールを返す。外に出ることが苦手な琉璃は息苦しさを感じる。
放課後、乙葉が自習室に来て琉璃に文句を言う。乙葉は金魚鉢を床に叩きつけて壊してしまう。琉璃は金魚鉢が亡き母の形見であることを告白する。
琉璃は母親が亡くなった時のことを語る。母親の形見である金魚鉢を大切にしていたが、父親に叱られ、学園に送られた過去が明かされる。
琉璃は乙葉と槙野に自分の気持ちを打ち明ける。乙葉は琉璃に謝り、友達になることを提案する。
琉璃と乙葉は美術室で琉璃の作品を貼る。琉璃の作品は金魚鉢と虹色の魚、そして黒い魚の絵で、乙葉はその絵を見て感動する。
琉璃、乙葉、槙野の三人は友達として一緒に帰る。琉璃は金魚鉢がなくても大丈夫だと感じるようになる。
三幕八場の構成で書かれている。
一幕一場、状況の説明、はじまり
主人公が金魚鉢を見つめている場面から始まる。クラスメイトの城野乙葉が話しかけてくるが、主人公は単語でしか話せない。金魚鉢に魚がいないと言われるが、主人公は「いる」と主張する。
二場、目的の説明
主人公が自習室にいる理由が明らかになる。城野乙葉が教室に来るように促すが、主人公は拒否する。窓からサッカーボールが飛んできて、主人公は外に出ることを余儀なくされる。
二幕三場、最初の課題
主人公がサッカーボールを持って外に出るが、外が苦手で苦しむ。サッカーボールの持ち主である槙野とわと会話するが、うまく話せない。城野乙葉が再び登場し、主人公を変人扱いする。
四場、重い課題
放課後、城野乙葉が自習室に来て、主人公に文句を言う。槙野とわも登場し、金魚鉢に魚がいないことを証明しようとする。金魚鉢が割られ、主人公はショックを受ける。
五場、状況の再整備、転換点
主人公が金魚鉢が母親の形見であることを明かす。城野乙葉と槙野とわが主人公の話を聞き、理解を示す。主人公がなぜうまく話せないのかを説明する。
六場、最大の課題
主人公が母親の死と父親との関係について語る。金魚鉢に魚がいるという話が、主人公の心の支えであることが明らかになる。城野乙葉と槙野とわが主人公を支えることを決意する。
三幕七場、最後の課題、ドンデン返し
主人公が美術室で自分の作品を見せる。城野乙葉が主人公の友達になることを宣言する。主人公が自分の過去を乗り越え、新しい友達を得る。
八場、結末、エピローグ
主人公が城野乙葉と槙野とわと一緒に帰る。主人公が大きな声で返事をし、苦しさがなくなったことを感じる。新しい友達と共に、前向きな未来を歩み始める。
金魚鉢の謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どのような結末に至るのか気になる。
主人公が見つめるものからの書き出し。「それ」が気になる。
遠景で「光輝くそれを私はじっと見つめていた」と描き、近景で「声をかけられるまで」と示し、心情でクラスメイトの会話が語られる。
見ているのが金魚鉢であり、主人公が単語でしか話せないこと、クラスメイトの女子の性格などが徐々に明らかになっていく。
主人公は自習室にいて、クラスメイトの女子、城野乙葉に声をかけられているところに、窓からサッカーボールが飛び込んでくる。自習室は二階。金魚鉢は割れていない。ボールを投げるのが苦手だからと、一階まで降りてボールを届けに行くも、暑さが苦手。
主人公には苦手なものが多く、なんだか大変そうだなという印象。
放課後、城野乙葉から八つ当たりされた挙げ句、金魚鉢を壊されてしまう。
器物破損である。
主人公は、自分のことをあkたる。家が火事になって母が亡くなったとき、主人公が唯一家から持って出てきたのは金魚鉢だった。そんな主人公を父親は強く叱りつけ、家から追い出し、学園に連れてこられたという。
「お母さんに言われたの、困った時や苦しい時は、金魚鉢にサカナがいると思ったら、楽になれるよって」
以来、主人公は、苦しいときは金魚鉢をみてサカナを想像してきたという。
長い文のところは五行くらいで改行。句読点を用いていて、一文はあまり長くない。短文と長文を組み合わせてテンポ良く、感情を揺さぶってくる。
主人公は、うまく話せないので読点が多く用いられている。短いと早く、興奮、強い印象を与える。
実際、主人公は家事で母を亡くしてから、父に楽しいことや嬉しいことを話すと怒られてきたため、誰かと話すことが怖くなり、 「頭の中に文が出てきても、その文を人と顔を合わせて言えなくなるの。だから、もうどうでもよくなって」単語で話すようになったとある。
二人に自分の話を語ったときは、随分と饒舌に語っている。
相手に後ろをむいてもらって、顔を合わさないようにしてもらったからだろう。
口語的で、シンプルで読みやすい。主人公の内面描写が多く、感情の変化が丁寧に描かれている。主人公の視点から物語が進行し、彼女の内面世界と外界との対比が鮮明に描かれているのが特徴。
主人公の感情の変化が丁寧に描かれており、共感しやすいのがいい。とくにクラスメイトである城野と槙野のキャラクターが立っており、物語に動きを与えているところがよかった。
友達の大切さや自己受容がテーマとして、しっかりと描かれているのも本作の良いところだろう。
五感の描写として、視覚は金魚鉢の描写や、虹色の魚のイメージが鮮明に描かれている。
聴覚は琉璃の心の声や、周囲の音が描かれている。
触覚は金魚鉢を持つ感触や、涙の感触が描かれている。
主人公の弱みはコミュニケーション。人と話すのが苦手で、単語でしか話せないこと。原因は、母親の死と父親との関係がトラウマとなっていること。
母親に金魚鉢を貰う前から、主人公は人と接すること、話すことが苦手だったのかもしれない。
単に、サカナはいつか死んでしまうから嫌だから「困った時や苦しい時は、想像力に任せて、新しいサカナを作れば、いいのよ」といったのではなく、自分の娘のためになる方法を話したのだと思う。
「うん、よくこの教室の外や人と話している時に、苦しくなる。言いにくいんだけど、息が出来ないの、金魚鉢から出たサカナみたいに」
金魚鉢を見ることで、水の中で泳ぐサカナは苦しくないから、自分も苦しくないと思える。そうすることで、人と話せるようになると、母は思ったのだろう。
火事のとき「お母さんが私に言ったの「逃げて、金魚鉢を持って」って」とは、娘は金魚鉢がなければ人と話せないからで、助けを呼んできてほしかったのだと思う。
だから、「私を見て消防士さんに、『中に他に誰かいましたか?』って、聞かれたの。だから、私が『うん、お母さんがいるよ』」と応えることができた。持っていなければ、きっとなにもいえなかったのだろう。
父親は、娘のそうした性格を把握していなかったのかしらん。
のちに、家か娘を追い出して他の女と一緒になるべく引っ越しているので、把握していなかったに違いない。
学園とは、児童養護施設のことかもしれない。それとも、主人公たちが通っている学校のことかしらん。
そもそもなぜ城野は、自習室にいる水牧琉璃のとこに来たのだろう。
水牧の独特な話し方や行動が気になり、話しかけたのかもしれない。また、城野自身も何かしらの悩みや不安を抱えている可能性もある。
最初は誤解や偏見から始まった関係が、物語が進むにつれて城野は主人公の背景や苦しみを理解し、次第に共感を持つようになり互いの理解と共感を通じて変わっていく。
ひょっとしたら、はじめから友達になりたかったのかもしれない。
ちなみに、主人公たちのいる学校(?)は小学校、中学校、高校、どれなのかしらん。背景がもう少し詳しく描かれると、物語に深みが増すと考える。
城野と槙野以外のキャラクターも、もう少し描かれていれば物語に広がりが出る気がする。
読後。タイトルの金魚鉢とはなんだろうと、不思議だった。読み終わったあとは、実にいい話だった。主人公の琉璃に共感しやすく、彼女の成長を応援したくなる。城野と槙野との交流も温かく描かれていて、心が温まる読後感だった。
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