赤を入れる
赤を入れる
作者 天井 萌花
https://kakuyomu.jp/works/16818093078628268817
メイクが大好きな高校一年生の夢愛は、小学生のとき幼馴染の咲良の可愛さに憧れ嫉妬し軽率なことを言って傷つけてしまい、悔やんでいた。過去の発言を謝り、咲良を一番可愛いお姫様にすることを誓い、メイクを完成させる話。
誤字脱字は気にしない。
現代ドラマ。
メイクを通した仲直りする話は素敵。
主人公は女子高校一年生の夢愛。一人称、あたしで書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。現在、過去、未来の順に書かれている。
女性神話と、メロドラマと同じ中心軌道に沿って書かれている。
主人公の夢愛は小学校に入学してすぐ、大人しくて可愛い桜庭咲良に話しかけ、友達になった。小学四年生のとき、誕生日、ママにキッズコスメのセットを買ってもらった。メイクしてお姫様になれたのが嬉しくて、すぐに咲良の家に行った。咲良に抱きしめられて、褒めてくれた。以来、メイクが好きになり、みんなにもメイクしてあげていた。ある日、友達にマニュキュアをしてあげていると、みんなが選んで塗ってくれた咲良に対し、似合ってない、全然可愛くないといってしまった。以来、咲良はコスメやメイクの話には乗って来なくなり、夢愛は謝れず避けるようになり、高校生になった居間でもほとんど口をきけていなかった。
高校一年生の夢愛は、朝の教室でメイクを仕上げる。友達の早紀と雛乃にリップの塗り方を褒められ、メイクの話で盛り上がる。夢愛はメイクが好きで、高校を選んだ理由もメイクが許されるからだった。幼なじみの咲良はメイクをしていないが、その美しさに夢愛は嫉妬と憧れを抱いていた。
夢愛はドラッグストアで咲良を見かける。咲良がメイクに興味を持っていると知り、驚く。翌日、夢愛は新しいマスカラを試し、友達にリップの塗り方を教える。咲良にメイクを勧めるが、咲良は「メイクが似合わない」と断る。
夢愛は咲良との過去を思い出す。小学校時代、夢愛は初めてのコスメを使って咲良に見せたが、咲良は自分に自信がなく、メイクをしたがらなかった。夢愛はあの時の軽率な発言が咲良を傷つけたのではないかと悔やんでいた。
夢愛は帰り道に咲良に会うのを避けるため、教室に残っていた。雛乃が心配して声をかけ、夢愛は咲良との過去を話す。雛乃はメイクの楽しさを語り、夢愛もメイクが好きな理由を再確認する。夢愛は咲良に謝る決意をし、教室を飛び出す。
夢愛はドラッグストアで咲良を見つけ、メイクを勧める。咲良は過去の言葉を気にしてメイクを避けていたが、夢愛の熱意に心を動かされる。夢愛は咲良にメイクを施し、二人の関係が修復される兆しが見える。
夢愛は咲良にリップを買わせ、自宅でメイクを施す。メイクの過程で咲良の不安を感じ取り、夢愛は過去の発言を謝罪。夢愛は嫉妬から嘘をついたことを告白し、咲良はその理由を理解する。
夢愛の謝罪を受け入れた咲良は、夢愛のメイクで自信を取り戻す。咲良は夢愛に対する感謝と信頼を表し、二人の絆が深まる。
夢愛は咲良を一番可愛いお姫様にすることを誓い、メイクを完成させるのだった。
朝、クラスメイトが集まってきた教室で四角い鏡と向き合う謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どんな問題があり、どう解決していくのかに興味を抱く。
書き出しは、テンポよく進んでいく。
遠景で、「朝、少しずつクラスメイトの集まってきた教室の中」と時間と場所を示し、近景で「あたしは自分の席に座って、いつもポーチに入れてる四角い鏡と向き合ってた」主人公がどこにいて、どんな状態にあるのかを示している。その後も、どんなことをしているのかを具体的に示し、心情で「――よし、盛れてる。今日のあたしも、最高に可愛い!」と自分に魔法をかけてポーチを鞄にしまう。
読者には、主人公が行っている朝の儀式、こういうことをしているから女子は毎日可愛く元気に過ごせるんだ、ということがより深く伝わってくる。
主人公は、メイクが大好きで、メイクやコスメのことを楽しそうに話していて、憧れる存在。可愛くなったみんなが好きで、中学はできなかったけど、オーケーな高校に入って楽しそうなところからも人間味を感じる。幼馴染の咲良とは仲良くない様子から、気になる様子がありところもあって共感する。
一人称視点で、主人公の内面が詳細に描かれている。
文書は友達との会話が自然で、テンポが良い。キャラクター同士の関係性が丁寧に描かれている。感情の起伏が激しく、読者を引き込む力がある。
登場人物の性格がわかるようなセリフの書き方がされているので、個性が際立っており、段落を変えたり一文を短く句読点を入れたり、ときに口語的にしたりして読みやすさを心がけている。
メイクに関する専門用語や具体的な描写が多いのが特徴。なにより、メイクを通じて成長する夢愛の姿が魅力的。咲良との関係の変化もドラマチックで、引き込まれる。
五感の描写については、意識して描かれているところがいい。
やはり、メイクの細かい描写(クリアマスカラ、リップの色、まつげのカールなど)が豊富で、視覚的に鮮やか。他に、咲良の表情や美しさ、メイクの過程やコスメの色や輝き、質感、教室やドラッグストアの風景が詳細に描かれている。
触覚的刺激では、咲良の手を握るシーンや、メイクを施す際の触感マスカラを塗る感覚、リップを塗る際の指の動きなどが具体的に描かれている。
聴覚的刺激では、雛乃の優しい声、夢愛と咲良の会話、咲良の不安な声や驚いた声、夢愛の励ましの声、友達との会話や教室のざわめきがリアルに描かれている。
嗅覚はコスメの香り(石鹸の香りなど)が描かれている。
味覚描写はないが、リップの感触が間接的に伝わる。
主人公の弱みは、咲良に対する嫉妬と劣等感。自分の発言が咲良を傷つけたのではないかという後悔。メイクに対する過度な執着。
これらの弱みか読者は「この主人公にこんな弱みが」「自分とくらべたらマシかも知れない」と思わせられたら、感情移入させることにつながっていく。
なにより本作は、咲良との関係を修復するために努力する過程が描かれている。
仲直りするには勇気が必要であり、読者にも喧嘩して素直になれずに、仲直りできていない人もいるかも知れない。そういう人は二人が仲良くなれることを願ってしまう。
主人公の目標を明確にし、性格や価値観、過去にどのような行動を取ったか、直面している問題や葛藤を描写され、読者は主人公が取る行動を予測しやすい。
どんな仲直りをするのか、「任せて! あたしが咲良を――一番可愛いお姫様にしてあげるから!」という展開は、予想外ではないが、微笑ましく読後感を素敵にさせてくれている。
過去回想の辺りで、時系列がわかりにくいところは読んでいてモヤッとした。
本作のウリはメイクではあるのだけれども、メイク描写が多いので進行が遅く感じる可能性もある。もう少し簡素よくまとめれば、テンポも良くなると考える。
メイクにくわしくない読者には、言葉が大きく感じられるところが、わかりづらさを生んでいるかもしれない。でも、後半ラストにかけての、咲良へのメイクは外せないし大事なところ。
全体的に、夢愛の成長と咲良との関係を取り戻していくところが魅力的。
読後にタイトルを見て、赤を入れる、とある。
「あたしが完璧だと思った物に、一〇〇点の答案に――赤を、入れられた気分になったから」とあるように、文章の添削や校正を意味し、疎遠になっていた二人の関係を直すことを指しているかもしれない。また、メイクの一部として赤色を使用することも指していると考える。
赤メイクは最近のトレンドの一つ。目元やチーク、唇など様々な部分に赤色を取り入れるメイク方法。血色感や生命力を演出できる他、華やかさや女性らしさを醸し出し、トレンド感も出せる。本作では、赤リップが特徴的に登場している。
メイクする咲良が笑顔になり、二人の関係も良くなるラストは、実に良かった。夢愛のメイクアップアーティストになりたい夢が、本当になりますように。
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