夕陽が紡ぐ物語
夕陽が紡ぐ物語
作者 三門兵装
https://kakuyomu.jp/works/16818093080260360971
小学生のとき事故で歩けなくなった美紗は、転校した友達の心端とは疎遠となったが六年後、病室で彼女と再会、ともに中央高に合格していることを知り、希望を見出す話。
三点リーダーはふたマス云々は気にしない。
現代ドラマ。
離れ離れになっていた二人が、再会し、再び縁が結ばれていく展開がいい作品。
一話は事故で足が動かなくなった美紗。二話は心端。一人称、私で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。現在、過去、未来の順に書かれている。
絡め取り話法、女性神話の中心軌道に沿って書かれている。
第一話は、美紗視点で書かれている。
六年前の主人公が小学三年生のとき。母と喧嘩した日、友達の心端と遊んで五時になるも、すぐに帰りたくなかった。友達が先に帰り、母親に謝ろうと思って急いで帰宅する途中でなにかしらの事故に遭い、足が動かなくなった。心端はよくお見舞いに来てくれていたが、転校してからは連絡も取れていない。
半月以上が過ぎて小学四年生になっても足が動かない。彼女は本に逃げ、知識と頭の世界だけが大きく増えていった。
現在、中学卒業式のあった翌日。
病室にいる主人公は、少しずつ足が動くようになったとはいえ、筋肉が固まっているらしい。窓から見える、かつて心端と遊んだ小さな公園は、もうすぐなくなるとり、もう一度遊びたかったと、敵わない願いから思いが込み上がる。
主人公は心端と病室で再会。明後日、公園の着工式があると知って家を訪ねたら留守で、お隣さんに聞いて戻っていないと聞いて病室へ来たと答える心端。
二人共、中央高に合格して入学することを知る。
しかし、主人公は自分が以前のようには動けないことを心端に告げ、リハビリをしても以前のようにスポーツが得意で一緒に公園で遊んでいられたときみたいには動けない、彼女の期待に応えられないと感じる。
そんなとき、心端の手が右手に触れ、「貴方はこれから頑張るの、いい?」「その、ファイト、だよ」と励まされる。昔も、いじけたときに何度も励ましてくれたことを思い出す。
心端は主人公に、「見てて、よね」といい、「まだ親友でいたい」と告げる。
彼女が病室を出ていった後、心端の言葉をくり返し、自分にもまだ明日があるような気がして、夕日の輝きが祝福しているかのように感じられた。
第二話は、心端視点で書かれている。
学業に厳しい心端の親は、事故にあった美紗との付き合いをやめさせたくて、引っ越した。でも心端は美紗に会いたいと思っている。
中央高には、他県の受験生にも受験資格が与えられている。それを聞いた心端は運命だと思い、受験した。負けん気の強い美紗なら受験するはずだと思って。
中学校卒業式の五日前、中央高に合格していたなら、学校視察に行ける。それは建前で、美紗に会えると浮かれていた。
卒業式後、受験発表を確認。合格したことがわかると、「お母さん、明日ちょっと下見に行って来ていいよね?」以前から約束をしていたので、母親は認めてくれた。合格後、もし美紗が受験していなかったら、他に友だちができていたら、拒絶されたら、といった妄想が浮かぶ。
翌日、昔よく遊んだ公園を訪ねると、明後日に取り壊しがはじまることが書かれていた。悲しむだろうなと思いつつ、美紗の家を訪ねたが留守だった。隣の家のおばさんと会い、美紗のことを訪ねると、「あぁ、みさちゃんね。まだ足が治ってなくてお母さんの所にいるんじゃなかったかな」と教えられて病院へ向かう。面会時間は過ぎていたが、事務の人に「美紗に面会できますよね」とお願いする。部屋に案内してもらい、美紗と再会。会話の糸口を探しながらあれこれ話し、中央高校に行くことを聞いて、自分も行くことを伝える。しかし、美沙は以前のような関係には戻れないと思っている。それでも心端は美紗に希望を持ち続け、彼女の手を包み、彼女が再び歩けるようになることを信じていることを伝える。美紗は 「見てて、よね」あの時の私たちに逆戻りしたいわけじゃない。 いい?私は貴方とまた、貴方とまだ、親友でいたい」と伝える。無言の美紗だったが、別れ際に「……楽しみにしてる」と聞こえた。
聞き返そうとしたが、部屋の扉はオートロックだったため、もう一度開けることができなかった。公園の前を通るときみえた夕日の輝きに、二人を引き裂いたけれど再び引き合わせてくれたのも夕日だと思い、どうかこの縁が紡ぎ続けられますようにと願うと、祝福しているように輝いて見えた。
「また、この気持ち。後悔するような、古傷が疼くような、そんなことこれっぽっちも考えたくないときに来る、不思議な気持ち」といった謎と主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どのような結末をみせてくれるのか、気になった。
一話の冒頭に「注記! 二部作連続でようやく読める文章となっています。どちらも読んでください!」とあり、読んでみると、連続で読むことで、世界観がつかめる作品でした。
前半の主人公の美紗には友達の心端がいて、お母さんと喧嘩して家に帰りづらかったけど、謝ろうと思える子でもあった。そんな彼女は事故に遭遇し、歩けなくなってしまうという不運に遭う。心端は面会に来てくれていたけど、転校してから連絡が取れなくなって寂しい状況で、可哀想に思えるところに共感してしまう。
後半の主人公の心端は、勉強に厳しい親に育てられ、美紗のことがトラウマにならないよう引き離すためにも引っ越し、引き離されてしまう可哀想な一面がある。親の期待に答えるだけの学力がある子で、六年も離れ離れになっていた美紗のことを忘れず、また会いたい思いから中央高の受験をして合格する。学校の下見といって、美紗に会いに行く前、友達ができていたり合格していなかったり、拒絶されたりしたらどうしようと思い悩むなど、人間味のあるところに共感する。
美紗と心端、それぞれを通じて物語が語られる一人称視点を用いて描いていることで、読者は二人の感情や思考に没入でき、直接的な対話と内的独白が組み合わされており、登場人物の心情や人間関係をより理解できる。
読点の入っていない長い一文もみられるけれども、全体的には、長文にならないよう、句読点を用い、ときに口語的に読みやすくしているところはいい。
会話からも性格が伺えるし、主人公の内面的葛藤と成長が、現実的に書かれているところが、良いところだと思う。
また、心端との関係性は主人公の過去と現在、これからはじまる高校生活に対する感情を明らかにしてくれるので、美紗の気持ちがわかっていく展開はよかった。
五感の描写は視覚だけでなく、聴覚や触感の刺激を用いて読者を物語の世界へ引き込んでくれている。
とくに主人公の感情や状況を読者に伝えるために。美紗や心端が公園や夕日をみたときの情景描写を用いて、キャラクターの心情である、孤独感や懐かしさ、希望といった感情を強調しているところは実に効果的な書き方をしていた。
美紗の弱みとして、足を動かせないという事実が物語全体に影響を与えている。彼女の日常生活を制限し、自分自身のあり方や人間関係に影響を与えている。
心端の弱みは、六年という期間、離れていたこと。だから、一緒の高校に行きたいと思い、中央高の受験をしたのだ。
二人にくらべたら、自分はまだましだと読者に思わせられたら、感情移入もできる。しかも、互いの弱みや欠点があるから支え、活かし合って、面白いドラマになっていく。
とくに、二人が相手のことを忘れず、思い合っていたことが物語を動かす原動力になっていただろう。
本作は努力の過程を描いているので、もう歩けないと思う弱い心に負けないでほしいと思い、親が決めた道ではなく自分が選んだ高校で友達といっしょに励んでほしいと読者は願う。
彼女たちが直面している問題や葛藤が描写されているから、どんな行動を取るのか予測しやすく、感情移入して読み進めていける。
事故で歩けなくなってから、久しぶりに友達に会い、同じ学校へいけるとわかっても、なかなか顔をあげて頑張って歩けるようになって、一緒に高校生活を過ごしたいとはならない。ここは現実味がある。
そんな美紗の手を包んで、昔のように励まし、もう一度希望を取り戻す展開は、読者としてはちょっと予想外で驚きを感じられる。
心端視点では、それでも美紗自身からの反応がない。ここもまた現実味があって、良いところ。しかも読者は美紗視点を読んでいるので、すでにストーリーの展開を知っている。
そこに、反応がなかった美紗から「……楽しみにしてる」とつぶやいたのが聞こえる。おまけに、扉が閉まってオートロックで、確認できない展開。
読者としては、えーっ、と興奮と驚きを感じる。
美紗視点のときも「ガシャン」と音を立てて扉が閉まるのだけれども、扉が閉まる音ではなかったので変だなと思っていた。
病室にオートロックがあるか知らないけれども、納得行く説明で、予想外の展開を描いているところは上手いと思った。
ただ、全体的にいえるのは、物語の時間軸や状況がやや曖昧で、わかりにくいところがある。
美紗が過去を振り返る場面と現在の場面が混ざり合っているところは読み取りにくい。そもそも美紗がどこにいるのか。しばらく読んでいくと部屋とあり、自分の部屋なのかと思えば、あとで病室なのがわかる。第一話には美紗の名前も出てこないし、会話文もどちらのセリフなのか、わかりにくい。心端視点から語られる部分で、第一話の状況が見えてくるけれども、心端側でももう少しくわしく描写すれば、彼女の感情や動機がよりはっきりして、より深みを増すだろうと考える。
それでも、描こうとしたことや見せ方は良かった。どうして二人の主人公視点で描かれなくてはいけなかったのか、読み終えたときに二人の縁がまたはじまることを強く感じられて、素敵なお話でよかった。
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