私を救ってくれたのはあなたでした

私を救ってくれたのはあなたでした

作者 244

https://kakuyomu.jp/works/16817330665694330192


 三回目の結婚記念日に夫・勇人の不倫を目撃、彼の弟・悠人に復讐の協力を頼んだ優衣は、悠人と共に勇人に離婚を申し出、二年後二人は結婚する話。


 文章の書き方等気にしない。

 現代ドラマ。

 信頼と愛情が裏切られて傷心した人の気持ちがよくわかる。

 希望のある読後感が良かった。


 主人公は、優衣と悠人。それぞれの視点で一人称、「私」「僕」で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。また、第三者のナレーションが挿入されている。


 女性神話の中心軌道に沿って書かれている。

 母を愛していた父は、亡くなったのは悠人のせいだと考えた。物心付く前から虐待されてきた悠人。兄の勇人は助けてくれなかった。

 悠人が優衣と出会ったのは、小学四年のとき。いじめられてないてばかりの日々。公園で仲間外れにされ、暴力を受けていたとき、助けられた。

 母方の祖父母が悠人の身体にあざを見つけ、虐待をしていると疑問を抱き、祖父母の家で暮らすことを許可させた。

 五年半後。地域でトップクラスの偏差値の高校へと進学することができた悠人は、思い出の公園で兄と、兄の彼女になっていた久我優衣と再会。

 のちに勇人と結婚し三年後、夫の勇人との結婚生活に疑問を抱く。勇人が不倫していることを発見し、その証拠を録音。優衣はショックを受けて家を飛び出し、公園で泣いていると携帯が鳴り、勇人の弟、悠人からの電話だと気づく。

 優衣に対して親切な悠人に対し、優衣は勇人の不倫を話す。彼は驚くも、復讐のパートナーとして、優衣を全力で支えることを約束する。

 帰宅した優衣は平常心を保ちながら、結婚記念日の食事をし、体を求められるも理由をつけて断る。翌日、有給を取って、悠人から紹介された弁護士事務所を訪ねる。

 弁護士さん曰く、日々どんなことを受けていたのかが分かるもの(日記帳など。モラハラ、DVの証拠となる)、そして不倫しているなと第三者が見ても分かるもの(キス写真など)があると、証拠として使え、有利になると教えてもらう。悠人に会いに行き、離婚するときに立ち会うようお願いする。

 三日後。優衣は悠人と共に勇人に離婚を申し出、不倫の証拠を提示する。不倫相手は同じ職場の女性。二人でホテルに行っている写真を並べていく。録音していた音声も聞かせ、徹底的に争う姿勢をみせる。勇人は離婚と慰謝料の支払いに同意。

「財産分与で五十パーセントずつね。あと、三百万の慰謝料を払ってもらうわ。払わない意思を見せたら、あなたの会社にもしかしたら、この写真が送られて来るかもしらないけど〜」

 勇人はしぶしぶ離婚届を書き、その日の内に提出。受理された。

 優衣は悠人に、勇人の会社、親、友達、不倫相手、把握している交友関係全員に知らせると宣言する。その後二人は一緒に過ごし、二年後に結婚することとなる。

 

 三回目の結婚記念日を迎えるも、夫とギクシャクしている謎と、主人公たちに起こる様々な出来事の謎が、どのように関わり、どんな結末に至るのかが気になる。


 人物描写は少なく、五感の描写は視覚はもちろん、触覚的描写がよく描かれている。直訳的な表現が多く、感情的な描写が豊かに書かれている。とくに、優衣の内面的葛藤と感情の変化がよく描かれていて、彼女の心情に深く共感できる。

 登場人物の性格がうかがえる会話文が多用されており、キャラクター間の関係性や個々の性格がよくわかるところがよかった。


 結婚して三年目、ギクシャクしているところに現実味を感じる。主人公の優衣が、結婚記念日に浮かれている様子がイキイキと描かれていて人間味を感じ、そのあと夫と不倫相手が密会している現場に遭遇してしまう展開は、とても可愛そう。こうしたところに、共感してしまう。


 裏切りと復讐、新たな愛を見つける様子を描いていて、主人公の優衣は、夫の不倫を発見した際の衝撃と悲しみ、その後の復讐の決意と行動を通じて、彼女の強さと決断力の過程が描かれていく。

 正義頑張れ、悪倒せの構図から、読み手は感情移入しやすいだけでなく、主人公の目標があきらかにして性格や価値観、過去にどのような行動を取り、直面している問題や葛藤が描写されているので、主人公たちはどのような行動を取るのか、予測しやすい。


 弁護士に相談に行き、もらったアドバイスは現実的で、作品全体にリアリティを感じさせてくれているところが良かった。


 優衣の弱みは、夫への信頼と愛情が裏切られたことによる深い傷心。彼女の行動の原動力にもなっていて、ドラマをもり上げている。

 読者の中にも、恋愛に限らず程度の差こそはあれ、裏切られて傷ついたことがあるだろう。そういった読み手は共感し、より感情移入してくれる作品にちがいない。

 良い点は、主人公の成長と変化が描かれているところ。

 優衣は、夫の裏切りから立ち直り、自分自身を守るために行動を起こす強さを見せている。また、新たな愛を見つけることで、彼女の人生は再び希望に満ちたものとなる。そのことを暗示させるラストに救いを感じる。


 ただ、物語の展開が急で、それぞれの登場人物の掘り下げが足らないように感じる。

 勇人の不倫理由や、悠人が優衣に恋愛感情を抱くようになった経緯など。初恋相手が兄と付き合っていて、その後結婚しても悠人は好きであり続けたのは、悠人の人生には助けてくれる人が優衣以外いなかったのかもしれない。

 

「わかったって!離婚もするし、金も払う。だから、会社に言うのはやめてくれ!」と勇人はいっているにも関わらず、「良い訳ないじゃない! もちろん、彼の会社、親、友達、不倫相手。こちらが把握している、交友関係のある人全員に送るわ」「私は、他の誰かに渡さない、流さないなんて、明確にはっきりと言ってないわ。あっちが勝手に勘違いしただけよ」と、周囲の人達に不倫をしていたことを公表する展開には驚いたかもしれないが、予測しやすいため、大きな驚きと興奮を与えられていない気もする。

 とはいえ、全体的には感情的描写と登場人物の成長を通じて、読み手に共感を引き出すお話としてはできているだろう。

 タイトルを読んで、読後感が良くてよかったと思えた。

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