イヌカミさまは遣唐使!
イヌカミさまは遣唐使!
作者 咲翔
https://kakuyomu.jp/works/16817330667551664746
最後の遣隋使にして最初の遣唐使に命じられた犬上御田鍬は、自分に務まるか不安を抱いていると、タイムスリップして受験生の犬上由香里と出会い、長く続く使節の最初の一人になることを誇りに思ったほうがいいと励まされる。元の時代に戻り、第一次遣隋使として船出していく話。
現代ファンタジー。エンタメ。
こういう作品で、歴史上の人物を学べたら楽しいだろう。
三人称、犬上御田鍬視点と髪視点で書かれた文体。
現在、過去、未来の順に書かれている。
女性神話の中心軌道に沿って書かれている。
飛鳥時代。中級官吏の犬上御田鍬は、遣隋使として随に渡った男である。十五年後の西暦六二九年。大王住まう都、小墾田宮にて、舒明天皇に仕える犬上御田鍬は、同じ青冠の同僚、佐伯鳴瀬から、十一年前に随は滅び現在は唐に変わっていると知らされ驚く。また、推古天皇亡き後、舒明天皇を立てて権力を握っている蘇我蝦夷大臣と大王からお呼びがかかっていると知らされ、急ぎ参上。遣唐使として唐にわたり、国家発展のために進んだ文化を学び持ち帰るよう命じられる。
自分に務まるのか不安になりながら帰宅すると、彼は突然、令和の時代にタイムスリップし、現代の女子高生、由香里と出会う。
彼がタイムスリップしてやってきたことに気付いた由香里は、スマートフォンを使って犬上が日本で最初の遣唐使であることを発見、彼にその事実を伝える。遣唐使の派遣が二百五十年も続くことを教え、「あなたはその先駆け。遣唐使という長い歴史を持つことになる使節の、最初の一人になる。誇りに思ったほうがいいわ」励まされる。航海は危険が伴うし帰ってこれるか不安になる犬上。由香里は「イヌは日本に帰ってくる。もちろん仕事を全うして」と笑う。
犬上は、自分がこれからの日本を作るために遣唐使として唐に渡ることの重要性を理解し、元気を取り戻して再び自分の時代に戻っていった。西暦六三〇年、八月。遣唐使としての任務を果たすことを決意した犬上御田鍬は、難波津の港から出向した遣唐使船に乗って唐へと向かった。
二百五十年の間に十九回、遣唐使が任命され、うち十五回が実査に派遣された。その中には、唐の玄宗皇帝に気に入られ向こうの役人となった阿倍仲麻呂、二回も唐に渡った優秀な政治家・吉備真備。留学僧として学び帰国後、平安仏教を開いた最澄と空海など、日本史に名を残す人物たちがたくさんいる。
その先駆けとなる遣唐使がはじまったのだが、その未来を犬上御田鍬は知らない。
「犬上御田鍬――現代日本において、彼の名を記憶している者は少ないだろう」という書き出しの謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どんな関わりをして、どんな結末を見せてくれるのかが楽しみである。
日本史を学ばない限りは、なかなかお目にかからない人物。最後の遣隋使であり最初の遣唐使として名前があるだけで、それ以上くわしいことはわからない、テストには出るかもしれないけれども、歴史上の人物として有名かと言われるとマイナーな部類に入ると思われる。
歴史もので、人気があるのは戦国時代や江戸時代。あるいは平安時代。他の時代は人気がないと聞くし、本作は飛鳥時代で、おまけに主人公はよく知られていない。そんな人物が登場する書き出しだからこそ、読者になんだろうと思わせてくれる。
人物の選択、書き出しとしては成功していると思う。
主人公に付けられている性格が、鳥頭のごとくよく忘れるという残念な、ある意味可哀想な人物として描かれている。佐伯鳴瀬という仲の良い同僚がいて、気にかけてくれたり、自分に遣唐使が務まるのか不安になたりするところからは、人間味を感じられる。
それでいて、冠位十二階の上から二番目の、青冠。高い地位にある。最後の遣隋使であり、最初の遣唐使でもあるほど、この時代としては立派な人物である。
こうしたところに、読者は共感を持てるだろう。
佐伯鳴瀬とのやり取りが面白い。また、タイムスリップした後の由香里との会話も、非常に楽しい。会話には登場人物の性格を感じられるし、文章は長くなりすぎず、ときの口語的で、読みやすい。
歴史ものは、説明部分が多くなりやすいので、硬い文章になりやすく、話す相手も大王や大臣など位が高いので、固くなりやすく、読みづらさがでてきてしまう。
その点を、うまくかわして、読み物として面白く楽しんで読めるようになっているところに、工夫と良さを感じる。
文体は、古代日本の雰囲気を反映しつつも、現代の言葉遣いを織り交ぜているので、読みやすい。
現代の由香里との会話も、現実的に考えたら話し方も知識もちがうので、こんなにあっさりとは意思疎通できないだろうけれども、そこは、読者が楽しんて読めるための書き方をしているのだ。
犬上の弱みとしては、不安と困惑。この欠点のお陰で、どう解消し、どう乗り越えていくのか、面白く読める。
歴史ものなので、遣唐使に命じられたら唐に行くことが、読者は予想できる。そのタイミングで、過去と未来が交差するタイムスリップが起きるという独特の設定が興味を引く。
犬上が由香里に感謝を示すシーンは、彼の人間性をよく描く機会だったけれども、その部分が短く感じた。でも、タイムスリップした原因も戻り方もよくわからない状況での二人のやり取りだったので、唐突に別れが来るのは仕方ない。
おそらく、彼の不安がタイムトリップさせ、不安が解消したから戻れたのだろう。
全体的に、過去と現代が交錯する独特の設定と、主人公の感情の変化がよく描かれていて、引きつけられた。面白かった。
物語の終わり方も開かれていて、犬上が遣唐使としてどのように活躍するのか、読者の想像に任せる形になっている点も良かった。
歴史上の人物が不安に思っていて、受験勉強で大変な主人公と出会い、励まして帰っていき、受験生も学びとやる気を得て勉強に向かっていく。
この手のアイデアで、いろいろな作品が作れる気がする。
こういう作品を読んで、歴史の勉強ができたら、素敵だと感じた。
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