羽化する

羽化する

作者 夜如ふる

https://kakuyomu.jp/works/16818093081703342845/episodes/16818093081703570852


 セミの羽化をみながら自身の成長に思いを重ねる話。


 現代ドラマ。

 セミの羽化と、大人になっていく過程にある自身を重ね、思いに至るところが素敵。


 主人公は、高校生。一人称、私で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。現在、過去、未来の順に書かれている。


 女性神話の中心軌道に沿って書かれている。

 主人公が小さい頃、夏休みの自由研究のために父と雑木林へ行き、セミの羽化を観察。羽化の美しさに魅せられた。お大きくなり、造kばやしなど入りたくも亡くなったが、セミの羽化する光景だけはいまもしっかり覚えている。

 もうすぐ十八になる主人公は、受験のために塾に通い、大人がいう青春のただ中にいる。大学生になれば大人なのか、成人になるっとはなにかを考えていると、雑木林でセミの羽化を目撃する。羽化したセミは、一晩同じところに留まって硬化し、色が変化して、翌朝になると飛び立っていく。自分も今は羽化の時期。明るくなったら飛んでいくセミのように。ゆっくり大人になるんだと思うのだった。


 小さい頃、セミが羽化するのを観察するのが好きだった謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どんな結末に至るのか気になる。


 書き出しが印象的。

 遠景で、セミの羽化の観察が好きな小さい頃を描き、近景で、いつのことか、誰とどこへ、なにをしにいったのかを描き、心情で主人公の思いを深く描いて共感を誘う。

 セミの羽化の観察が好きな子供は、なかなか稀れだと思う。

 虫好きもいるけれど、女の子は虫が嫌いだし、とくに蛹から成虫へと姿を変えるのをみるのを、好きな人と嫌いな人はわかれる。

 しかも、蛹から抜け出て、羽を広げて、乾いていくまで、すごく時間がかかる。じっと見てられるかというと、飽きっぽい子供は、途中でぐずりだしてしまう。

 主人公は、それを全部見たのだ。

 とても貴重な体験をしており、羨ましがられる対象となる。うるさいし茶色くて可愛くも綺麗でもないし乗り気でなかったけど、目を輝かせて言う父に、仕方ないからついていくというところに、人間味を感じる。子供ながらに、親の顔を立てている。

 また、受験勉強で疲れて、足取りが重く、しかも蒸し蒸しして頭がぼんやりしているといった可哀想な状況からも、共感してしまう。

 こういう様子を見せてくれているところが実にいい。





 文体は詩的で、感情的な描写が豊かにかかれている。

 主人公の内面的な葛藤を描くことに重点が置かれ、主人公視点から語られ、彼女の感情と経験を深く掘り下げているのが特徴。

 長い文にならないよう、適度に改行し、父の自然な会話を挟み、ときに口語的に書かれている。短文と長文をうまく使いながら、リズムとテンポを作り、感情を揺さぶっている。

 五感を駆使した描写が豊かで、読者に臨場感を与えてくる。

 セミの羽化の様子、暗くなった雑木林の中で透き通ったセミを見つめる様子など、視覚的な描写を際立たせながら主人公の内面的な感情と葛藤を重ねて描いているところがいい。

 こんな体験したら、「セミが羽化するあの光景だけはしっかりと脳に焼き付」くだろうし、「セミが羽化するのを観察するのが好き」になるのも頷ける。

 また、セミの鳴き声や、踏み入れて木の枝がポキポキと鳴る音など、聴覚的な描写も物語に深みを与えているところもいい。


 主人公の弱みは、自分が大人になることへの不確実さと恐怖。

 彼女は大学進学を控え、自分が大人になることについて深く考えている。自分がまだ子供だと感じている一方、社会からは大人として扱われることに戸惑いを感じているのだろう。

 こうした弱みがあるから、どうするのかを描くことで面白いドラマとなっていく。

 セミの羽化と、主人公の成長という二つのテーマを絡めて描いている点がすばらしい。 


 後半にも、セミの羽化が描かれている。

 前半のときとは違い、客観的に羽化していく様子が描写されている。自身の感情とともに描かれていた小さい時とは、印象がかなり違う。

 おそらく、それだけ成長した、大人になったということを表しているのだと考える。

 前半と後半で同じものを描きながら、違う書き方をすることで変化を見せる書き方は上手く、本作の良さを引き立たせている。


 前半の蝉の話が良かったため後半、受験生の主人公の今の様子、物語の進行が遅く感じるかもしれない。

 でも、静かな語り口の本作と物語のテーマはよく合っている。

 実に感動的で美しい。


 読後、すべての高校生は羽化のただ中にあるのだと、読み手は時間するだろうと思った。読者層の十代の若者は、自身とセミの羽化を重ねて想像するに違いない。

 固まる前に触ったり、傷ついたりすると、飛べなくなったりその後生きづらくなったりしてしまう。

 十代の、高校生の今は、まさにそういう時期。

 やり直しが効かない。

 周りの者達は、無事に羽ばたいていけるようになるのを、黙って見守るばかりである。

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