元カノとのケジメをつける為に、俺はダイブする。

左京秋晃

第1話 『あの日の君に会いにいく』

 2025年7月7日、ついにこの日がやってきた。

 世界初フルダイブ型VR恋愛シュミレシーションゲーム『あの日の君に会いにいく』の発売日である。


 このゲームの特徴は、VRゴーグルがプレイヤーの恋愛体験の記憶を吸い上げる?

いや読み取ると表現すべきだろうか。


 その読み取った記憶を元に自動でストーリーが生成され、各エピソードが誕生するのだ。


 恋愛体験が一人だけなら1エピソードしか生まれないし、10人いれば、

10エピソードが作られる。


 もちろんこれは付き合ったことがある恋愛だけが対象ではなく、なんのアプローチも出来なかった片思いで終わった思い出や、デートや告白までして成就しなかった思い出も含め、自分の過去の印象に残っている恋愛体験全てが、リアルなエピソードとして作られていくというものである。


 そして、プレイヤーは現在の記憶を持ったまま、選んだエピソードの仮想世界へダイブする。

 ダイブ中のプレイヤーは当時の自分の容姿になり、時代背景、人間関係など全て当時のままになるよう作られているため、当然ながら、男性ならイケメンにしたり、女性なら美人にしたりなどゲーム開始時に容姿変更は行えないのである。


 しかし、プレイ中にダイエットに挑戦したら体重変動はするし、整形手術をしたら、顔を変えることは可能である。


 でも学生時代のエピソードを選べば当然お金は持っていないため、整形なんてできないし、社会人のエピソードを選んだとしても、貯金額などもしっかりその当時の金額を反映したものとなるそうだ。

 

 そんなリアルなところまでどういう記憶の読み取り方をしたら、そういう風になっているのかは、定かではない・・・。


 ただし、その選択がゲームの進行にも当然関わって来るので、それがTRUE ENDになるとは限らない。


 要するに、人間のちょっとした憧れでもある、あの時の彼氏や彼女ともう一度恋愛が出来る、なんなら、過去の自分の人生をやり直せちゃうっていう、

リアルをとことん追求した次世代型恋愛シュミレーションゲームである。


 『・・・っていう感じで、ざっくりとゲーム内容を紹介するとこんなところだ』

と俺に向けて、熱弁を振るってきたのは、小学校からの友人である上蔵龍介だ。


 『過去の恋愛体験ね・・・』

 俺、一ノ瀬仁は先月で、ちょうど40歳を迎えたが、過去に苦い恋愛体験を多くしている、とりわけその全ては20代までに。20代後半から全く恋愛というものをしなくなり、かれこれ10年以上が経つ。


 『仁にピッタリのゲームだと思うんだよな、これをやって一度過去を清算してみたら?』

 人の心にズカズカと土足で入って来るように、龍介は俺に『あの君』を勧めてくる。

 だいたい、清算て・・・。俺がまるで、散々女遊びをしてきたみたいに・・・。まぁ半分はお察しの通りですが。

 

『ていうか、これってお前の会社で作ったゲームだから勧めてくるんだろ?

 それにもう俺は過去のことは忘れたから、エピソードなんて作られへんと思うで』

    

 実際、過去の恋愛は、今も頭の片隅の奥にしまい込んではいるものの、いつでもその引き出しから取り出せる自信はあるんだがな・・・。


『いやいや、このVRゴーグルは今までのものとは違って、このゲームをプレイする為にだけ作られた我が社、自慢の特性ゴーグルやから。しっかりとお客様の記憶データを取り出させてもらいますよ』

 龍介は大学卒業後、ゲーム会社に就職した。彼は技術者でないが、シナリオ制作などを担当しているという。


もう勝手に客にさせられてるし・・・。


『いやまじで、逆にすげぇ怖いんやけど・・・』


かつて、恋愛をすることは好きだった。なんなら、特に付き合うまでの過程は特に好きで、付き合えなかった恋愛の方が、記憶にもよく残っている。

青春ならではの、甘酸っぱい思い出というやつだ。


 この年になって、人間関係、そして人生について思うことがある。

人生と人間関係には、事実と真実があるということだ。


例えるなら、告白という行動をしたとしたら、

『事実=結果』 結果はフラれる

『真実=理由』 真実はあなたのことは好き、でも彼氏がいることを隠していたの。

すなわち、告白してフラれる=嫌いではないのだ。


 人間関係に必要不可欠なコミュニケーションにおいて、

告白した時、事実だけを返答される場合が多い、

『ごめんなさい』という一言で事象が終息してしまうことがある。

それは相手のことを気遣ってという場合もあれば、只々、全てを説明するのがめんどくさいなど、理由も多岐に渡る。


 俺が言いたいのは、人生において、真実を全く知らずに終わる事象が数限りなくあるということだ。

 そんなことを考えながら、龍介が勧めるこのVRゲームをプレイするか思案中なわけである。


 ただ、このゲームで新たな仮想事実を作り出せば、仮想真実を知ることも出来るのでは・・・。


 俺の中で、ワクワクの高鳴りと、心を締め付けるギュッとした感覚が今、俺の中で交錯している。






 

 


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