【短編】経験豊富なキミと、経験に乏しい俺が、お付き合いする話【倫理観注意】

八木耳木兎(やぎ みみずく)

【短編】経験豊富なキミと、経験に乏しい俺が、お付き合いする話。【倫理観注意】







「ごめんねー、ちょっと遅れちゃって」

「い、い、いいよっ! 全然……」







 平日の放課後、普段教師も生徒もよりつかない校庭。







「で、何ー? 話って」

「う、うん……」







 俺――高校二年生・神邑かみむらゆうと――はその場で、一世一代の正念場の渦中にいた。






 今俺の目の前に来たのは同じクラスのギャル系女子・深本ふかもとちひろさん。

 彼女がここにいるのは、下駄箱に入れておいたメモ書きで俺がこの場所に呼び寄せたからだ。

 俺のような人見知りの陰キャが、陽キャでカースト上位の彼女をこんなところに呼び寄せる用事なんか一つしかない。



(ち、近くで見ると普段よりずっとかわいい……!!!)



 好きだった。

 どうしようもなく、彼女のことが大好きだった。

 彼女とは去年も同じクラスだったが、その美貌、モデル顔負けのスタイル、そしてその美しさを最大限に光らせる根っからの明るさに、俺の心はすっかり魅了されてしまっていた。




 もちろん、俺一人で告白する勇気なんかない。

 彼女は誰とでも仲良くなれる陽キャ、対する俺は人見知りの陰キャ。

 オマケに彼女はという噂まであった。

 色々な意味で経験なんかゼロに等しい俺なんかが告白したところで、結果は見えていた。

 かなうはずもない恋だとあきらめ、彼女を遠くから眺めているだけで、高校生活を終えようと思っていたのだ。





 だが俺は今、この場で彼女の前に立っている。

 先週個人的なことで、親友の國岡くにおか深巳ふかみに借りが出来たことがきっかけだった。

 「好きな人に告白してこい」、それが二人からの借りを返す要求だったのだ。

 陰キャ仲間が告白して玉砕、失恋するまでを盛大に笑ってやろう、という魂胆なのだろう。

 二人ともこんな俺と仲良くしてくれるいい奴だったし、断るわけにもいかなかった。 





(よーし、告白する、告白するぞ……!!)

 こうなれば、駄目で元々だった。

 すっと告白して、すっとフラれて、すっと帰ろう。

 そう腹をくくって、告白のために、俺は息を吸い込んだ。

(やってやる……やってやるやってやるやってやる……!!!)









 そして。








 


「深本さ……」

「あっ、伏せて」



 思い人のその言葉に、ほぼ反射で伏せる俺。



 ピチュン。

 ピチュン。



 頭上で、何かが発射されるような音が響いた。





「いいよ、もう。立って」





 そう言われて立ち上がった俺の目の前にいたのは、さっきまでと何も変わらない深本さんの姿。

 伏せる前と唯一違う点は、彼女の片手に硝煙の噴き出たサプレッサー付きのワルサーPPKが握られていることだけだった。




 何事かと思って、振り向く俺。

 脳天と胸を撃ち抜かれて、ドタマと心臓から血を噴き出して絶命している黒服のヒットマンの姿がそこにあった。





 状況が状況だけに、俺は緊張で頭が回らなくなった。

 い、今何が起きてるんだ? 今どうすればいいんだ?




「いやー、殺し屋のバイトやってっと逆恨みが多くて困っちゃうねー…………で、話って?」



 …………あっ、そうだ!

 告白しようとしてたんだ、俺。

 彼女に問い掛けられた俺は、ふと我に返った。



「えっと、えっと!! 俺、俺……!!」



 告白するのが恥しすぎて、思わず俯いてしまう俺。

 情けないことに、この時俺は瞼も完全にふさいでしまっていた。

 普段女子と視線を合わせて話すことすらハードルが高いなのに、文字通りの高嶺の花である深本さんと面と向かって話すなんてなんて無理に決まってる。

 結果、俺の告白の言の葉は。









 「深本さんバキッ!!のことが……」ゴキャ!!


 深本さんが何かをしている音に。


 「好きです……ドゴォッッ!!!!」


 そっくりかき消されてしまった。







「………………あのさー、キミ」


 耳をトントン、としながら、呆れた顔を浮かべる深本さん。


「聞こえないよー。もうちょっとおっきい声で言ってよぉ」





 

 ふと我に返り、顔を上げる俺。

 いつの間にか、首や腕がありえない方向に曲がっている黒ジャージの男たちが、痙攣でぷるぷる震えながら深本さんの足もとで横たわっていた。

 旧ソ連軍の戦闘用格闘術・コマンドサンボによる必殺技を食らった人間特有の負傷だった。

 深本さんはと言うと、少しきつめの運動をしたのか肩をブンブンと回している。

 ギャルらしく着崩した夏服の制服や今流行りのカラーに染まったネイルには、濃いめの血が付着していた。





「ごっ、ごめんなさい! じゃあ改めて……」


 気を取り直して、告白の言葉を言い直す俺。


「俺、深本さんのことが……ガサガサ……




 

 ズド「すっ」オォン!!!



 カチ「……」ャッ    カランコロン……




 ズド「きっ」オォン!!!




「………………カチャッ……………………………………ですカランコロン……






 精一杯大きな声で言ったつもりではあった。

 だが俺の告白は、ショットガン特有の爆発するような銃声と、排出された薬莢が勢いよく落下する音に虚しくかき消された。

 アクセだらけのスクバから取り出したレミントンM870によって、深本さんが校舎の屋上・二方向から彼女を狙っていたスナイパー二人の頭を弾き飛ばしたのだ。



 散弾銃片手に俺に向き直った深本さんは、微妙に眉をひそめていた。





「……です? ことが、デス? は? キミもしかしてディスってんの?」

「えっと、あの、ですじゃなくて、あの、デス、じゃなくって」

「あっ、ちょっと待って」





 コロコロコロ……

 勘違いされていることにおろおろしている俺に、静止の一言を発する深本さん。

 そんな俺達二人の足もとに転がって来る、二つの円柱状の何かがあった。






 一つは煙幕手榴弾、M18スモークグレネード。

 一つは閃光手榴弾・M7290フラッシュバングレネードだった。





「あちゃー、こりゃあマズいな」

 今まで余裕の表情をしていた深本さんも、流石に危ないかも、という顔になった。

 


「確かいざって時の奴が一個あったな……ごめん、これ被りながら言って?」

 すぐさま彼女に渡されたそれを、俺はわけもわからないままに被った。




 プシュウウウウウウウウウ!!!




 煙幕が噴き出し、俺たちの視界を遮った。

 このままでは、俺たちはお互いを視認できなくなってしまう。

 今のうちに、伝えたいことだけでも伝えないと。








「深本さん、お、」







 

 「俺、」 ギ ャ ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ッ ッ ッ ! ! ! !








――――――――「……さんの……が……きです」――――――――――――――――――――ン……








 爆発するような光の衝撃と爆音が俺の視界と鼓膜を覆った。

 彼女に手渡されたゴーグル付きガスマスクを通してなお、その閃光と轟音は凄まじかった。

 辛うじて発した告白の言葉が、おそらく深本さんには届いていない。自分自身すら眩暈状態になって聞き取れなかったのだから。

 スモークグレネードによる煙幕とフラッシュバングレネードによる閃光の中、経験に乏しい俺は視覚や聴覚はもちろん、平衡感覚の維持もままない状態に陥った。





 朦朧とする意識の中、視界に映ったのは白い煙だけ。

 すぐ目の前にいるにいるはずの深本さんすら、はっきりと視認できない状況にあった。



 すぐ気を抜いてしまえば、気絶すらしかねない曖昧な意識の中。





        ズドォン!!


      ピチュン。

            ピチュンピチュン。


        デュビビビビビ!!!!





 微かに、ではあるが、俺の耳は銃声を拾っていた。

 恐らくは彼女の操る武器が、様々な銃声のハーモニーを奏でていたのだ。

 レミントンM870とワルサーPPK、そして銃声から言っておそらくは新しくスクバから取り出したサブマシンガンのステアーTMP。




 フラッシュバングレネードとスモークグレネードの合わせ技という、視覚、聴覚、平衡感覚、嗅覚の全てが狂ってしまう衝撃。

 訓練を受けていない一般人なら、後遺症すら残りかねないだろう。

 そんな状況にもかかわらず、ゴーグル越しにうっすら映る彼女は動揺一つ起こさずに、見えていないはずの刺客たちに対して銃弾を浴びせていた。

 俺と違って、素顔のまま。

 しかも煙幕の催涙効果を防ぐために目だけをつむった状態で。

 しかもおそらく俺に銃弾が当たらないように、だ。








 深本さんは、俺が想像していたよりずっと経験豊富な女の子だった。








 彼女が積んできた膨大な経験の結果、彼女は五感のほぼすべてを奪われてなお。

 ほぼ反射だけで相手の位置・所持武器・戦闘パターンを先読みして返り討ちにする、という行動を実行に移していたのだ。

 膨大な棋戦を繰り返して来た天才棋士が、直観だけで反射的に相手の戦法を読むように。





 ガスマスク越しにうっすらと彼女の雄姿を見た俺は、ただただ圧倒されていた。

 彼女は普段、このレベルの頻度で殺し屋たちから襲撃されていて。

 その結果、このレベルの殺人スキルを持つ女子高生になっていたのだ。




 まして俺が呼び寄せた校庭は死角も多く、彼らからも狙われやすかったはずだ。

 だがそれを承知のうえで、彼女は俺の言葉を受け止めに来てくれたんだ。




 彼女の強さと優しさに、俺の胸はますますときめいた。

 告白の最中にますます相手のことが好きになるなんて、後から思えば贅沢な経験だった。

 こんな状況になった以上、責任を取って、今俺の口から、告白の言葉を言わないと。

 


 そう思っていた俺たちの足もとに、転がってくるものがあった。

 地面に転がっていたから煙幕の中でも分かったが、M26破片手榴弾だった。




          「こりゃ厄介だなー……えいっ」




 深本さんのそんな声が聞こえたかと思うと、視界に手榴弾を蹴り上げる彼女のスラッと美しい足が映った。

 その直後、サッカーのロングパスのように大きな、手榴弾が転がって来た方へとハイキックされる音が聞こえた。




 その反射的な行動のあまりの美しさに。

 俺も反射的に目的を実行に移していた。












 ボ ガ ア ア ア ア ア ア「深本さん……好きです」 ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ン!!!!!!!










 手榴弾の爆風が収まり、煙幕もすっかり晴れた頃には、爆発の範囲内である校舎の昇降口は半壊状態になっていた。

 傷一つ無い深本さんは、瞼をそっと開けて、歴戦を終えた勇者のようにほっと一息をついた。

 俺からの言葉が聞こえた様子はなく、俺の告白は、五たび失敗に終わった。





「ねー…………キミいい加減、何が言いたいのか、はっきり喋ってくれる? はっ・きり・と!」

「…………………………………………………………………………えっと」





 またしても、全く聞いてもらえなかった。

 俺の言いたいことが一つも伝わっていないのか、深本さんもいい加減イライラしだしている。

 はぁ……何て言えばいいんだろう。

 ていうか、何て言おうとしてたんだろう。





 もう緊張しすぎたし、さっきの衝撃で眩暈も抜けないし、何を言おうとしていたのかも忘れてしまった。

 もう今日は諦めて、何でもないですって言って帰るかな。

 あー、でも、それじゃ深本さんに悪いし……




(何より単純に、もうちょっと目の前の深本さんと一緒にいたいな…………)



 

 ガスマスクを外した俺の前には、呆れた表情を浮かべてくる深本さんの眉目秀麗な姿があった。

 引っ提げていたショットガンやマシンガン、拳銃は、彼女が持つ強さと美しさの両方を際立たせていた。

 やっぱりバイトの職種が職種なだけに、深本さんは強くてカッコイイしカワイイなー。しかも怒っててもカッコヨサもカワイサも一切損なわれてない……




 いやそれにしても、深本さんが強くてカワイイのは当然として。

 さっきから、彼女を襲ってる刺客たち、みんな大の大人なのに深本さんに負けっぱなしじゃないかなー……

 深本さんに隙があると思ってるんだろうけど、結局隙だらけなのは自分たちじゃないか……





 …………ん? 隙?

 隙……すき……

 あぁ、そうだった!!






「深本さんのことが! 好き……です!!!」





 い、言えた!!

 勢いで、だけど言えた!!

 彼女に返り討ちにされた殺し屋たちのおかげで、俺はなんとか自分が言おうとしていたことを思い出すことが出来た。

 渡りに船、災い転じて福となすとは、正にこのことだ。

 殺し屋たちが彼女を襲って(そして返り討ちにされて)いなければ、俺一人で告白することは困難だったかもしれない。





 現に、彼女も。




「すきぃ? …………あー!」




 合点がいったといったような表情を、深本さんは俺に向けてくれた。




「キミが私と付き合いたいってことぉ?」

「は、はい! おっ、お付き合いしたいです。 よろしくお願いします!!!」

「そっか……そっかぁー……んー……」




 ようやく言えた一言。幾多の困難を乗り越えて言えた一言。

 なのにそれを受けた深本さんは複雑そうな表情をしていて、はいともいいえとも言えないような表情をしていた。

 かと思うと、彼女は何気なしに、あたりを確認しだした。




「……歩きながら話そっか」

「……う、うん」





 歩きだした彼女の視線の先を追うと、こうなったら数で勝負とばかりに、ぞろぞろと殺し屋たちが大人数で襲いかかっているのがわかった。

 たしかにこう人が多いと、告白のムードも何もあったもんじゃない。

 俺達は二人で並んで歩き、今いる校庭の中央から後者の方へ移動しつつ話をすることにした。




「殺し屋ってさ、結構恨まれるピチュンバイトなんだよね。今までのピチュンぴっぴにも、巻き添えピチュンになって殺されたザクッ子が何人かいるんだザクザクッ




 殺し屋たちをワルサーPPKで射殺したり、カーボンスティールの軍用ナイフでメッタ刺しにしたりしながらそう語る深本さんの瞳は、深い哀愁を帯びていた。

 自分と付き合っても、いいことなんてない。

 遠回しに俺に、そう言っているようにも見えた。




 そんな彼女を前に、俺は。





わかってバキッます。殺人経ゴキャ験豊富な深本さんと、虫も    ズドォン!!!!殺せない俺が、釣り合うわコロコロコロ……けないって。でコテンッ!も、でも俺……!!ボガアァン!!




 守ってあげたい。

 支えてあげたい。

 コマンドサンボの応用技で殺し屋たちの首や腕の骨を折ったり、ショットガンをぶっ放したり、手榴弾を蹴り返して刺客を爆殺したりしながら、今哀愁の目で俺を見ている深本さんに、俺はただ自分が一緒になりたいという以上の感情を抱き始めていた。

 恋愛感情は算数じゃない。

 引き離そうとする深本さんの言葉に、俺の彼女への思いは益々強まるばかりだったのだ。




 そんな思いが形になったのか、俺の発言はショットガンの射撃音や手榴弾の爆発音にも負けない声量で響き、深本さんの耳に届いたようだった。

 しかしその言葉を聞いても、彼女の渋い表情は晴れなかった。





「んー……キミ悪い人じゃないんだろうけど……こりゃ参ったなー……」





 いつの間にか死体の山と化していた校庭の真ん中で、困惑した表情を浮かべる深本さん。

 俺の告白が真面目過ぎて、受け止めかねているのかもしれない。

 やはり、陰キャ男子の俺には、彼女は釣り合わないのか。



 気が付いたら彼女を襲っていた殺し屋たちが返り討たれ尽くしたのか、校庭は静寂に包まれていた。まるで俺の告白のバッドエンドを嘲笑っているかのような、そんな静寂だった。




      カッチッ      カッチッ




 そんな静寂の中だからこそ、俺の耳はを拾っていた。




(―――この音は……!!)




「私を好きなことはカッチッ嬉しいよ。でカッチッも、それでキミ自身が傷ついちゃうんじゃないかと思うと――――――――――――」

「深本さん!! 危ない、逃げて!!」



 告白の瞬間にこんなことしてる場合じゃないと思いつつも、音のする方へと俺は全速力で駆け出して行った。




 校庭の隅、校舎に繋がる道付近に設置された、初代校長の胸像。

 その裏にタイマー式C-4プラスチック爆弾が取り付けられているとわかってからはもう、必死だった。

 ポケットから出した処理キットを使用して、俺は時限爆弾の解体処理を始めた。




 タイミングが悪すぎる、なんでよりによって告白してる時に、とは思った。

 だが爆発すれば、俺はともかく、愛する深本さんまで命を落としかねない。

 たったそれだけのことを防ぎたいという思いから、俺の脳・神経・両手は、フルスピードの処理能力で爆弾の解体の手順を精密に実行に移していた。



 近年この手の爆弾処理はロボットで行なったり、そもそも解体せずに液体窒素で無効化させる場合が多い。

 だがあえて昭和の職人のようなことを言うなら、今回のようにあまりにも急に爆弾が発見された際、結局モノを言うのは人間の腕なのだ。








◆   90秒後   ◆








「はー……ギリギリセーフだった」



 秒ごとに数字を減らしていたタイマーが0:01の表示のまま停止したことを確認して、俺はほっと胸を撫で下ろした。




「……助かった。ありがと」

 そんな俺を、背後から労ってくれる女の子がいた。

「……逃げてって言ったじゃないか」

「いいじゃんいいじゃん」

「…………無事でよかった」

 逃げて、と俺が言ったはずの、深本さんだった。




「……キミ、爆弾処理得意なの?」

「得意っていうほどでも……中学の頃に、ちょっとかじった程度だよ」

「処理してたの?」

「あ、造ってたんだ。趣味で」

「…………………………………………………………………………」




 …………あ、なるほどー、造ってれば逆に解体もできるってことか!と俺の言葉に手を叩いて納得したかと思うと、深本さんは俺に予想外の表情を向けてきた。

 微笑みだった。

 最早カワイイとかそういう次元ではなく、眩しすぎて心臓が止まるかと思った。




「……ごめん、同じクラスなのに、キミの名前覚えてないや」

 彼女は無言のまましばし微笑んだ後、眉をハの字にして両手を合わせてそう言った。




「……ハハハ、クラスじゃ空気モブだから仕方ないよ……神邑ゆうとです。むらは木へんの村じゃなくって……」

「じゃあ、ユート君だ。……なんかユートって、今まで私に告ってきた男子とタイプ違うかも。面白いねっ」



 その面白いね、という六文字と共に、彼女が向けて来た笑顔。

 ―――かわいい。

 そんなかわいい微笑みを向けて来た彼女に、俺がこの場でやるべきことなんか一つしかなかった。




「あの、深本さん!」

「……なぁに?」

「俺は殺しの経験なんか全然ないし、ただの根暗な爆弾オタクだし、深本さんには合わないかもしれない。でも、深本さんを消そうとする爆弾は全部解体処理できるし、深本さんを消そうとする連中を前もって消す爆弾だって造れるつもりだ」




 勢い任せでそんな言葉を吐いた後、さっき切断したC-4の赤い導線を見せた。 




「さっきの解体で決め手になったの、赤いコードだったんだ」



 不思議だった。

 今まで直視できなかった深本さんの顔を、今では真正面から見ていられる。 

 言葉が途中でどもったり、途切れたりもしなかった。








「俺と赤いコードを、結んでくださいっ」








 決意の言葉。一男子としての覚悟の一言。

 数秒の沈黙の後。

 深本さんは、言葉を発した。

 






 


「…………ちひろっ」

 たった一言、こう言ったのだ。







「え?」

「ちひろって呼んで。彼女のことは名前で呼ばなきゃ、でしょ?」









 最高にキュートな笑顔で、目の前にいる天使はそう言ってくれた。







「…………うんっ……ありがとう、深……ううん、ちひろちゃん!!」

「うん、よろしくねっ、ユート!」




 これからの関係のしるしとばかりに、彼女は俺の手を握ってくれた。

 死後天国へ行ったとしても、こんなに心地よい暖かさは決してない。

 そう思えるような暖かさだった。








 ◆   ◆   ◆









 カップルとして二人の青春を歩みだした、神邑ゆうとと、深本ちひろ。

 二人の後ろ姿を、草陰で感慨深く見つめている二人がいた。



「ぐすっ、アレ見たか深巳ぃ……よかったなぁ……ゆうと……」

「まさか僕らと同じ陰キャ男子の神邑くんがねぇ……こりゃ大金星だ」



 神邑の陰キャグループの友人の、國岡と深巳だった。

 元々神邑の深本への告白は、彼ら二人の要求だった。

 二人は彼の告白がうまくいくかどうかを見守るために、校舎の隅で隠れていたのだ。




「陰キャとか陽キャとか気にしないで、ありのままの自分をアピールしたことが、決め手になったんだろうね。結果的に教師に言わなくて正解だったな、先週の旧校舎爆発の原因が彼の燃料気化爆弾付きドローンだったこと」

「あぁ……俺たちもあいつみたいに、将来の運命の人に相応しい人間になれるよう、自分に合ったスキルを磨いておかないとな……よーし、決めた!」




 何かを決断したかのように、國岡は立ち上がった。




「諦めかけてたけど、やっぱり俺、臓器売買専門の闇医者目指すわ!!」

「國岡くんがそう言うなら、僕も真剣にコカインの密売人を目指してみようかな!」

「じゃあ私は、AK-47の密輸業者になるわ!!↓どこからか出てきたクラスメイト女子の阪元さん

「俺、サイバー↓モブ男子テロリスト!」

売春斡旋人↓モブ女子!」








 その学園で一組のカップルが生まれたその日。

 二人に触発された友人たちも、明るい未来に向けてそれぞれの一歩を駆け出していったのだった。









  お ー 〇 ら ♪ お ー 〇 ら ♪



 \本気になったら/  お ー 〇 ら ♪







大〇殺人請負専門学校

大〇爆弾製造・処理専門学校

大〇臓器売買福祉専門学校

大〇麻薬密売業簿記専門学校

大〇銃器密輸業簿記専門学校

大〇電子計算機等妨害専門学校

大〇売春斡旋業簿記専門学校




札幌校 011-×××-××××

東京水道橋校 03-××××-××××

甲府校  055-×××-××××

富山校 076-×××-××××

静岡校 054-×××-××××

新大阪校 06-××××-××××

岡山校 086-×××-××××

福岡校 092-×××-××××

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