青い太陽

松松

青い太陽

明日太陽がなくなる。僕たちの空に当然にたたずんでいた白い大きな光の塊。どうなるんだろう。人気の芸能人の不倫が発覚した時みたいに。面白いって読んでた漫画が突然打ち切りになった時みたいに。病気のウイルスが世界中に広まってみんなを苦しめた時みたいに。大好きだったおばあちゃんが死んじゃった時みたいに。時間が経ったら何事もなかったってなんも思わんくなるんかなあ。



20××年。ある一つの記事が世間を震撼させた。「太陽消滅」。お弁当に入ってる唐揚げとかの下に、心ばかりに敷いてあるパスタくらいニュースに興味ない僕でも、それに関する情報は痛いくらい耳に入った。太陽の機能が停止しちゃうとかなんとかで3年後には光も届かない真っ暗なマイナス200度、絶望の極寒。さむいさむーい世界のできあがり。そんな感じの話らしい。当然世間は騒然とした。終わりだ終わりだってどこに行っても聞こえてくるし、テレビもネットも同じ。もちろん僕だってそう思ってた。余命3年か。長いのか短いのかわからんな。なんしよう。一瞬ならいいな。とか。そんな中、政府が一縷の望みとも言える情報を世界に発信した。「人工太陽の創造。戦争、紛争一時休戦。全世界で共同開発」。地球温暖化対策に有効と有望視されていた核融合エネルギー、それとこれまで軍事目的で開発されてきた各国所有の核兵器。それらを造り変え、人工の太陽を作り出そうというプロジェクトだ。ほう。これが意外と希望があるらしく世界が1、2年も本気を出して作れば、開発することができる可能性はかなり高いらしい。まあ、だから3年もあれば、完全に安全。とはいかないものの、ある程度大丈夫だろうとのことで世間は一旦落ち着いた。世界が終わりかけだってのに戦争も紛争も無くなって平和。っていうんだから結構皮肉な話なんだなと僕は思った。




2年後、「人類救出プロジェクト」とたいそうな名前に姿を変えた「人工太陽創造計画」は「太陽」を、うまく作り出すことに成功したらしくプロジェクトに貢献した各国の科学者たちが、世界。いや地球を上げて称賛された。それはお祭り騒ぎで、僕の地元の「祇園祭」の2000倍は盛り上がっていたかのように思う。とはいえ問題はまだまだ山積みで、実際太陽がなくなってからその「太陽」がうまく機能するのか、これから何回も実験を重ねて確認していかなければならないし、作り出された「太陽」は本物のエネルギーの1000分の1程度しかないらしく、今まで削減するべきものだった温室効果ガスを一転して増やす方向にシフトさせないといけないらしい。人も物も傷つける核兵器が形を変えて世界を丸ごと救うことになるし、今まで何十年も培ってきた努力を全部無駄にすることが必要とか言ってるし。つくづく皮肉で残酷だなーと思った。




人類滅亡まで残り8ヶ月。僕はもう中学3年生で俗に言う受験生だ。みんな受験期モードに入って勉強のことばっかり話している。同じクラスの吉田はこの前受けた模試の結果が絶望的だったとか言って嘆いていた。もっと嘆く未来があるだろ。数学の森本先生も最近は授業で、太陽がなくなる前にお前らの未来がなくなるから勉強はしっかりしとけよって冗談半分で言ってくる。笑えねえよ。親友のケンちゃんも僕たちが好きなアニメが映画化されるから絶対行こうなって誘ってくる。家に帰るとお母さんが明日の献立で迷ってる。好きなゆーちゅーばーは人工太陽は陰謀だとかって叫んでた。なんか僕がおかしいのかどうかわかんないけど全部、そんなことって思う。




地球の終了まであと3ヶ月。「救出プロジェクト」の実験は順調らしく、来たる日も失敗することは無かろうとの見立てだ。なんなら開発に至ったプロセスを活用、応用して、違う分野の問題解決に役立てようと各国々が動き始めているらしい。悠長なことだ。これらを伝えるニュースや記事も、芸人のスキャンダル、プロ野球選手の最近の活躍、明日のお天気予報。その次くらいに報道されている。明らかに順序がおかしい。




世界の終わりまであと一週間。ちょっとだけ気になっていた女の子から告白された。学校を卒業するまではあと1ヶ月くらいはあるから色々と今?って思う。僕的にはそれどころではなかったので、一週間後お互い生きていたらね。って今後一生使うことがないであろう言葉をその子に送った。正直嬉しかったのでデートのプランとか考えてみる。映画とかいいなあ。まあ一生はあと7日で終わるかもだけど。




宇宙の危機まであと三日。今更になって世間が少し騒ぎ始めた。なんで今更って思ったけど、人工太陽は陰謀だとかって訴えていた一派がカルト的な人気を得ていたらしく、その不安の波が渦を巻いて波及したらしい。影響を受けた人々が敬虔な教徒のごとく神に祈っている。ケンちゃんも必死にナンマイダぶー、ナンマイダぶーって空に向かって唱えてた。なんか天に送るお言葉が少し違うっぽいけど、神様も時代の流れは受け入れてくれるのだろうか。




そして明日。明日には太陽がなくなる。地球がキャンパスだとしたら太陽は大きな絵の具。世界をその光で色付けしたとも言えるから画家とかでもいいな。人類に熱と光をもたらしてくれていたのだから神様だということもできる。神様を人の手で作り出したっていうんだからやっぱり甚だ傲慢だと思う。人って。



子供の頃、夏休みに朝から友達とみんなでラジオ体操に行って、暑いね暑いねって言い合っていた時、そこには太陽があった。家族と親戚とみんなでピクニック行こうってなって、突然雨が降り出したから中止になって悲しかった時、太陽が出てくるのを必死に願ってた。冬になると暗くなるのが早いせいで門限が早くなるのが嫌で、なんですぐに沈んじゃうんだろうって思ってたし、あの時だって。どの時だって僕の真上にいて、空にあって当然な物だった。もしかしたら明日きみがなくなったとしても僕らは生きていられるんかもしれんけど。というかそうなんだろうけど。悲しいよ。なくなっちゃうなんて。これから生まれてくる子供は本物の君を知らずに生まれて知らずに育つ。「おとうさん実際の太陽はどんなだったの」って聞かれて、「おんなじみたいの」って答える。でも実際そうだったとしても、新しく生まれ変わった、君ではない君が、今と同じような環境にすることができていたとしても。「知らない」「わからない」ってあまりにも寂しくないか。だから明日僕が無事生きていたとしたら。何事もなかったかのように「太陽」を見ることができたら。君と過ごしてきた日々を決して忘れないように生きていくことを誓おう。生きている間の最後の約束だよ。じゃあそんな君に冥土の土産としてこの讃美歌を贈ろう。「オーソレミオ」。中学校の音楽の授業で習ったんだけどこれは君に向けての歌らしい。意味はよくわかってないんだけど。「おーそーれみーお、ふふふんふふーん。、、、」朧げな歌詞で、音程とかもぶきっちょうだったけど。僕の歌をきくと、ありがとうって少し微笑んだかのように君は、オレンジ色をいつもより少し濃くして、僕らの街を綺麗な夕焼けで照らした。




夜になって陽が沈んだ後、普段いるはずのない時間に君はいた。真っ赤だと思っていた光は真っ青な色を放って輝いていた。その後光は、ぷつん。と消えて世界が暗くなった。3分もすれば暗くて見えなくなっていた月も再び光を灯して黒色の空にまたいつものように立ち尽くしていた。ただ、月に映るその光はあいもかわらず白色だけど。だけど、僕らの街を色付けるその光は。何百何千と見てきた人生の中でとびきり小さかった。


目が覚めて、真っ白いあさが来た。


そして太陽は死んだ。

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青い太陽 松松 @ammm_1001

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