第3話 婚約者フェルナンド
彼の顔は月明かりに照らされていて、僕はベット横のランプをつけていたので今日はお互いに顔を認識する。
すると彼は
「部屋に入ってもいいだろうか?」
と控えめに聞いてくる。
僕自身なぜ昨日僕の部屋にやってきたのか気になり、話してみたいと思っていたので好都合だと思い頷いて許可する。
「記憶障害があると聞いたのだが本当だろうか」
僕からは少し距離があるところに椅子を持ってきて腰掛けながら問われる。
「そうです。あなたの事も出会った気はするのですがわからないです、、すみません」
僕の名前を知っているということは僕が公爵家の息子であることも知っているはずなので敬語では無いところを見ると身分が高い人なのかもしれない。
そう思い敬語で返す。
彼の目が少し見開かれた。
そりゃそうか急に忘れたなんて言われたらびっくりするか。知り合いっぽいし。
「その顔の布外してくれませんか?」
顔を見れば思い出せるかもしれないと考えて頼んでみる。拒否されるかと思っていたがすぐに外してくれた。
とても美形な顔が顕になる。
「私のことを本当に忘れたのか?」
顔を見ても昨日のように記憶が戻ることはなく、ごめんなさいと首を振る。
「・・・そうか、君は悪くないだろう謝らないでくれ。・・・そうだな自己紹介をしようか」
彼の名前はフェルナンドであること、この国の第1王子であること、そして僕の婚約者であることを告げられた。
婚約者であるということは一緒に過ごした時間も長いだろうに忘れてしまうなんて幻滅されるかな、、
すみませんともう一度謝る。
すると彼は首を振る。大丈夫だと、もう一度関係を作り直そうとまで言ってくれた。
とても良い人だな、この人とならやっていけそうだと思った時、ふと昨日の恐怖を思い出した。昔の僕はこの人を恐れていたみたいだった。たが今の彼は恐れられる様子もなくとても優しく丁寧だった。
何故だろう何があったのだろう。本人に昔の関係を聞ける訳もなく考え込んでしまうと
「ミシェル?どうかしたか?」
と聞かれてしまい。現実に引き戻される。
「い、いえ何もありません。昔のことを思い出せるようにまたお話などお聞かせください。」
僕なりに上手く誤魔化して聞いたつもりだ。
「そのような他人行儀はやめてくれないか、昔はもっと気軽に話していたんだ、、いや仕方ないよな、すまない。少しずつでもいいが昔のような関係に戻していこう。また屋敷へやってきてもいいか?」
「もちろんです。夜でも昼でもお越しいただいて大丈夫です、安静にしていないといけなくて暇をしているので。」
「そうかありがとう。昼は学園があるから今日のように夜でもいいかい?」
「はい。わかりました、またお越しください。」
彼は優しい笑顔を見せた。
「昨日はなんで訪れられたのでしょう?前もこのように夜に出会っていたのですか?」
ふと疑問が湧いたので聞いてみた。
「いや前は学園で会えたからこのようにはなかったよ。昨日見に来ていたのは君が目を覚まさないと報告を受けていて心配で見に来ていたんだ。」
「そうだったのですねご心配ありがとうございました。それなのに昨日は何も返事をできず、すみませんでした、、」
「君も目覚めたばかりで混乱していたのだろう?それに私のことも分からなかっただろうし、、目覚めてくれただけで本当に嬉しいよ!」
会話をしてみても僕が彼を恐れる理由がわからない。
これから少しずつ話してみて分かればいいな。
そう思い今日は深追いはしないでおこうと決めた。
「ではそろそろ私は帰るよ。君の家族や使用人には僕が来たことは秘密にしていてくれ。長居してしまい、申し訳ない。ゆっくり寝てくれ。また明日」
「わかりました。秘密にします!また明日です。」
関係性が分からなくて変な敬語を使ってしまった。
彼は気にする様子もなく笑顔で礼をして昨日のように帰って行った。
家族に僕と彼の関係性を聞いてみようか。でも来たことを言わないで欲しいと言われたし、、婚約者のことを忘れているのにどんな人かなんて聞いたら怪しまれそうだ。彼は物腰柔らかで優しかったからか、話していく中で気づけば良いかという結論に落ち着いた。
朝になる。
今日もすることはないので課題の本を消費していく。
あ!そういえば僕は日記を書いていたんだった!
そこにきっと彼のヒントがあるかもしれないと思いすぐにメイドを読んで取ってきてもらう。
3冊持ってきてくれる。
1冊目は6歳から書き始めたもので主に遊んだり、美味しいものを食べたなどが書いてあった。
フェルナンド様のことを調べるために読み始めたことも忘れて可愛い絵が添えられた日記を楽しく読み進める。
そういえば日記読み返すのなんて久しぶりだな、
楽しくなって読んでいると、7歳の頃に王妃様主催のパーティーに行って、1人の男の子とお友達になった、と書いてあった。そこには紫で目が塗られた男の子の可愛いイラストが添えられており文には"フェルノ"と書かれていたためフェルナンド様だとわかった。
『はじめは、ずっとだまっていてつまんなかったけど、めのいろをほめたらこっちをむいてくれて、おにわをさんぽしたんだ』
と書かれていた。これが彼との出会いのようだ。
その日から定期的にその男の子は日記に登場し、だんだんと仲良くなっていく様子が書かれていた。
お揃いのリボンをプレゼントしてくれたり、"シェル"とも呼んでくれるようになっていた。
そして2冊目まで読み進める。
8歳の時に第2の性の検査が行われ、僕はオメガだとわかったようだ。
この世界は貴族のみが主にオメガかアルファであり平民にベータが多くなっている。稀に平民にもオメガやアルファが生まれるそうだが、平民に政略結婚はないのであまり関係ないようだ。ただオメガのヒートの薬は平民にとっては高価で買えないこともよくある。そのためオメガの身分は低くなってしまっている。
貴族世界ではマシな方ではあるがアルファに比べると喜ばれはしない。僕は次男だから問題なかったが。
フェルナンド様はアルファで、僕がオメガだと伝えると喜んだと書かれていた。
もうこの頃にはとても仲良くなっていて家庭教師が休みの日などはほとんど一緒に過ごしていた。
10歳の時に『フェルノといいなずけになった』と書かれていた。僕は特に恋愛面ではフェルノを想ってなかったようだがフェルノに『これでずっと一緒だぞ!』と言われ、素直に喜んでいる。
まだ関係は順調そうだ。やっぱりあの時の恐怖は刺客だと思った僕の体の誤作動かもしれない。
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