第48話 僕は“さくら”に騙されていた。

 話は35歳の時に遡る。35歳の春に五馬花子とのお見合いに失敗し、より危機感を持って婚活パーティーに参加するようにした。今までもずっと本気だったが、女性と会話するためにこちらからさらに積極的に話しかけ、風俗の回数を減らしたり時間をずらしたりしてパーディー参加回数を増やすようにした(36歳の時にAoiちゃんと遊ぶのと一時期並行しての話だ。)。


 僕は30歳を過ぎてから婚活パーティーに参加したりして出会いを求めているが、成果は全くない。一般のパーティーでも職業限定のパーティーでもカップル成立や連絡先交換に至る事は無く、数分のフリータイムでちゃんと会話をしてもらえるだけでも御の字という虚しい経験を積み重ねてきた。僕は二股三股をしたいとか、ヤリ捨てをしたいとか、同時に複数の女からモテる必要は無くて、たった一人相思相愛になれる女性ができれば良いのだが、それができない。もちろん僕だって女性なら誰でも良い訳ではなくて、若くて、可愛くて、優しい処女という条件はある。しかし僕は公務員でお金持ちなのだから、これでも決して贅沢な条件ではないだろう。条件に当てはまる女性は、優良物件である僕に勇気を出して交際を申し込むべきなのだ。流行りのメイクをしたり、短いスカートを履いたり、胸が大きく見えるブラを着けるような遠回しなアピールをしなくても、気軽に話しかけて遠慮せずに食事に誘ってくれて良い。僕は敷居が高いと誤解されて女性から特別扱いされているのかもしれないが、真面目で心優しい僕は快くお誘いにのってあげるだろう。


 婚活パーティーに何度も参加していると男女共に同じ人と出くわすことがある。公務員男性限定や高収入・高学歴男性限定といった同じカテゴリーのパーティーに参加するのだから男性で同じ顔を見るのは分かるが、女性でもチラホラ違うパーティーで会った人がいる。カップル成立しなかったり、カップルになったけど別れてしまったりも有るだろうから何度も参加する事自体は問題ないが、許せない女が一人いる。「カップルパーク」主催のパーティーで僕も4回くらいその女と同じパーティーに参加した事があるが、参加者の中で飛びぬけて美人で、聞き上手で男性参加者から人気だった。僕がこの女とパーティー中に話せるのはいつも回転寿司方式の自己紹介時だけだ。

 「初めまして男性⑧番です。35歳公務員で、今日は奈良から来ました。よろしくお願いします」

 「こんばんは、女性②番です。23歳カフェ店員です。お願いします。」

 「②番さんって、3ヶ月くらい前のパーティーでも会いませんでしたか?」

 「そうでしたっけ?」

 「②番さん綺麗だから印象に残ってて、よく覚えてるんですよ。」

 「えー、嬉しい。またフリータイムでお話ししましょうよ。」

 「ははは、でも競争率が高いからなー。」

 「本当ですかー?今日は綺麗なお姉さんがたくさんいるし、私なんか全然。」

 「じゃあ、後で好意メモを送りますね。」

 「お願いします。楽しみにしています。」

 女性②番さんは僕に愛想良く話を合わせてくれただけで、好意メモを出してもフリータイムで話をするチャンスは無かった。このパーティーでも女性②番は一番人気で、ほとんどの男性が僕と同じように好意メモを出し、フリータイムで話をするために席の取り合いをした。ちなみに僕は相変わらず誰からもメモを貰うことができず、徒手空拳で他の女性にフリータイムを臨むも惨敗。今回も連絡先をもらうことができなかった。


 僕は興味本位でこの女性②番を信也に「finder」と「bug」で素性を調べてもらったら、すごい事が分かった。

 この女の名前は五島カオル(ゴトウ カオル)23歳。神戸出身で大学進学を機に東京へ出たが、1年経たないうちに地元に戻って来たらしい。今は家族と実家暮らしで美容系の専門学校を卒業後、洋菓子店でバイトをしている。これだけなら「ふーん」で済むが、カオルさんが普通の女ではない点が3つある。1つ目はカオルさんが東京に出ている時、あの朽木エリカと同じ芸能事務所に所属していて、タウン誌等でメディア出演実績があるモデルだった事だ。しかもデビューはエリカよりも早かったようだ。ネットの古い芸能記事の中には「五島カオルが枕営業をしていた」という記事がチラホラ残っていたが真偽のほどは定かではない。いずれにせよ今は芸能活動を辞めて地元に戻って来ているが、カオルさんには恵まれた容姿を活かした華々しい過去があったのだ。

 2点目は、カオルさんが「カップルパーク」の“さくら”。つまり主催者に雇われたバイトだった事だ。カオルさんは、高い参加費を支払ってくれる男性を集め、集まった参加男性のカップル成立への期待を高めるための餌だった。カオルさんは“さくら”なので無料でパーティーに参加し、カップルになったり、ならなかったりする。カップルになった場合は、しばらくその男性と適当に付き合った後で振って、何食わぬ顔で「カップルパーク」の別パーティーにまた参加している。そして、パーティーに参加する度に1回あたり数万円の報酬を手にしているのだ。僕も被害者の一人だが“さくら”に惑わされた男性参加者としては気分が悪し、女性参加者もほとんどの男性参加者の関心がカオルさんに向かうからたまったものではない。仮に容姿が劣る女性参加者が「いいなぁ」と思う男性を見つけても、カオルさんのせいで自分の方には見向きもしてもらえず、数千円の参加費と数時間を無駄にすることになる。

 3つ目は、カオルさんが婚活パーティーの“さくら”だけではなく、風俗店でもバイトをしている事だ。キタにある「白肌姫」という高級オナクラでFuwariという名で働いているらしい。僕はあのカオルさんとエッチな事ができると知って俄然食いついた。信也からの報告メールに添付されていた「白肌姫」のリンクでホームページを見ると、Fuwariちゃんのプロフィールは23歳172cm、B88W58H89となっている。プロフィールでも写メ日記でも顔全体をモザイクで隠しており、画像だけでは実際にカオルさんかどうかは分からないのでお店に行って確かめることにした。


 僕はFuwariちゃんを指名し、2週間くらい期間が空いてやっと「白肌姫」へ行くことができた。このお店はハイクラスな女性と遊べることをウリにしていて、お店の質を保つためにしっかりと面接をしているのは良いが、在籍女性数は他店に比べ少ない。出勤女性が少ない日は開店時間になっても女の子が一人もいない時もある。僕がお店に行くまで2週間も時間が空いたのも、Fuwariちゃんの出勤日数が少ない上、人気でなかなか予約できなかったからだった。「精液が飛び散ると女の子の衣服や肌が汚れるから」と基本プレイでは紙コップに射精しなければならい上に遊ぶ時間当たり料金は高いし、オプションも自由度が小さく、お店は客の身分証明書の確認までするなど、女性キャストを大事にするお店のようだ。

 黒スーツと縁なしメガネがよく似合う知的な受付男性にFuwariちゃん指名で予約を取っている者だと伝えると、店の説明を簡単にしてもらった後、身分証明書として提示した健康保険証のコピーを取られた。ハイクラスな女性と遊べるがサービスは普通のオナクラと同じで、基本的には女性が着衣のまま手コキしてくれるだけだが、オプションを付ける事も可能だ。ただ、このお店の女性は全体的に男性から女性への接触系オプションはNGの子が多く、Fuwariちゃんも同じだ。とりあえず数少ないOKオプションの「上下下着姿」だけ付けて、指定されたラブホテルへチェックインし、受付店員の指示通り先にシャワーを浴びて女の子の到着を待った。

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