上京失恋物語
悪本不真面目(アクモトフマジメ)
第1話
彼女は言った。
「上京してもすぐに友達が出来ないから、さみしくなったらいつでも連絡してもいいよ」
さすが僕が好きになった女性だ。なんて優しく慈愛に満ちているのだろうか。
想いは告げず僕は東京へ着いた。初めての一人暮らし、一人だ。テンションが高くなっていた。なんでもできる気がしていた。ここから僕の物語が始まるんだと信じていた。「ここから伝説が始まった」という立木文彦ボイスのナレーションが聞こえてくるようだ。
そう、なんでも出来る。そう告白だってそうだ。僕はディズニーとか観て育ったせいかどこかロマンチストなところがあるので、それなりにムードを作ってから直接愛のメッセージ、この想いを伝えたいところだがさすがに東京から大阪へ今から行くのは無理だ。間に合わない。気持ちが待ってくれない。
LINEでは個人で彼女とやり取りをよくしていた。その内容はバカップルかと言われてもニヤニヤしながら否定できない程のイチャイチャたっぷりな内容だった。
そして彼女とクリスマスシーズンにイルミネーションを見た。手をつなぎ、フランクフルトをあーんしてもらったこともある。あれは温かった。ぽかぽかしていて、まさに陽だまり、太陽、ソーラーパワーだ。僕の心のソーラーパネルの燃料は満タンだ。
彼氏はいないと聞いていた。遠距離恋愛になるかもしれないが、僕はもう抑えられず、LINEでこう書いた
「実は僕、君のことが好きなんだ、よかったら恋人になってくれませんか?」
ドキドキしていた。今日はこのドキドキに揺られながら過ごすんだなと覚悟をしていたら、意外にもあっさり返信が返って来た。
「ゴメン、私今彼氏いるから、だからもうあんまり連絡してこないで」
なんともそっけなく驚きの内容だった。彼氏おるのかい!てか、連絡してこないでってそっちから寂しかったら連絡してもいいよと言ったじゃないか!なんだよ社交辞令かよ!
僕の気持ちは一気に冷めた。だから失恋とは違う。そもそも本当に彼女のことが好きだったのか?僕は誰でも好きになりたかっただけではないだろうか?そうだ。別に彼女の様に少し優しくして可愛くて太陽みたいなビタミンCを感じる女性なら僕は誰でもいいんだから、そんな女性星の数ほどいる。ここは東京、もっと素敵な太陽と出会えるさ、そして彼女をあっと言わせよう。なにせ、僕は何だってできるんだから!
その晩、何故か僕は眠れなかった。全く理由は分からないが、何故か寝付きが悪く、すぐに目を覚ましてしまう。慣れない環境で落ち着かないのだろうか、なんだかもやもやする。心が苦しいような、でも身に覚えがない。とにかく目がさえたので、適当にTVを点けた。
カウントダウンTVをやっていた。カウントダウンTVはランキング形式にお送りする音楽番組だ。余談だが、僕はこの眼鏡のキャラに似ているとSNSで言われたことがある。もし実写版カウントダウンTVをするなら是非僕を使ってほしいところだ。
ボーっとカウントダウンTVを観ていた。何故かラブソングが流れると僕は舌打ちをした。なんでだろうか、分からない。
カウントダウンTVが終わる。最後に占いが流れる。僕はふたご座だ。
「ふたご座のアナタは好きな異性にはもう恋人がいるかも」
「・・・・・・」
「分かってるわ!!!」
「言うの遅いねん!!!」
「あ~あ好きだったな!こんちくしょう!」
この時僕は失恋と認めざるを得なかった。しかし、こんな漫画みたいなオチが起きるとは自分はとことん道化しているんだろうな。
頭の中ではっきり聞こえた
「チャン、チャンおわり」
上京失恋物語 悪本不真面目(アクモトフマジメ) @saikindou0615
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます