第30話

「なんで、あなたがここに……っ!」

「依頼の帰りだったからね。偶然さ」


 そう言って飄々と言ってのける彼女のその態度が気に喰わなかった。彼女は私たちを嵌めたうちの一人。彼女がいなければ今頃グラスワンダーは残っていたはずだ。

 シルフは歯茎が見えるほど威嚇を彼女にしている。


 しかし私は彼女の言葉の一つに疑問を感じた。


「……依頼?ギルマスであるあなたが何で依頼を受けているの?」

「あぁ、知らなくても当然か。私、ギルマスの座を降りたんだよ」

「は!?」


 思わず私はその事実かどうかわからない言葉に驚いてしまった。

 それが本当かどうか知らないが、でないと彼女がここにいる理由がつかない。つまり半分は本当なんだろう。

 冒険者ギルドのギルドマスターになるにはそれ相応の実力を現役の時に示し、人格がよければ本部から直々に使命が下るという。


 まぁこれは人伝で教えてもらったものなので実際どうなのか分からない。しかしギルマスの座は冒険者が目指すものの一つなのだ。


 それをあっさりと……どうして。


「ま、私の事なんかどうでもいいじゃないか。それよりも」

「……」


 そう言って彼女は馬車の方に目を向ける。見ると中から一人の女性が下りてくるところだった。

 物凄く、綺麗な人だった。着ている服も凄い煌びやかで彼女の魅力を引き立たせている。


 そこで私は辺りを見回してとある疑問が浮かび上がった。だがそれを今聞く必要は無いだろう。


「今回は助けていただきありがとうございました。私はカーラと申します」

「私は冒険者のレイナ。要請に応じここに来ました」

「私はミミ、です。それとこの子はシルフっていいます」

『……』


 その時シルフは貴族のカーラ様を見て何故か戸惑いを見せた。その証拠にさっきまでしていた威嚇が収まっている。

 彼女の放つ雰囲気が、誰かに似ているような……。


 そうしている内に二人の間で会話が進んでいく。


「一先ず近くの街まで護衛いたします。それであの……」

「ああ、護衛の騎士がいない、という事ですか?最初からつけていませんでした。私と御者の彼と、メイドでまだ馬車の中にいる彼女の三人で移動していました」

「はあ……失礼を承知で申し上げますが、それでよくここまで来れましたね」

「護衛など足手まといでしかないですから。でもメイドの彼女が護衛を付けろと煩かったので仕方なく冒険者ギルドの方に護衛の要請だけしたんです。あまりにも遅かったので冒険者が来る前に街を出たのですが。ギルドマスター直々に来てくださって何だか申し訳ないですね」

「それでですか……はぁ。次からちゃんと待っててくださいね。焦りました」


 成程、彼女のあれは嘘か。まだ彼女はギルマスのままだった。

 貴族である彼女を死なせてはギルマスの責任になる。だから自らここまで来たんだろう。


 と、ある種傍観者として少し離れたところから事の顛末を待っていると、ふとカーラ様が私たちを見て、少しだけ眉をピクリと動かし、特にシルフを観察しているかのように見ていた。しかしその時間は一瞬だったので、気付いたのは離れてみていた私とシルフぐらいだろう。


「取り敢えずギルドマスター、話はこれまでにしましょう」

「そうですね」


 そうギルマスと話を付けた彼女がこっちまでやってきて、シルフの前でしゃがんだ。


「あなた、“ラ”持ちよね?」

『……だったら?』

「懐かしい気配を感じるわ。もしかして─────」


 そう言ってシルフの耳元に近づいて何か話し始める。するとシルフの目がどんどん見開かれた。


『……どうしてそれを』

「ふふっ、知りたい?」

『……もし、私がそれを知りたいと言えば』

「もちろん、あなたが望んでいるものが叶うわ。絶対に」

『……』


 何の話をしているのだろう。シルフにあって私に無いもの……。種族とか?

 でもきっとそんな単純な物じゃない気がする。カーラ様、謎が多い人だ。


「言ったでしょ?懐かしい気配だって。私にはわかるのよ」

『……まさかあなたは』

「それは口にしちゃ駄目。きっとこの子も知っているのでしょう?」

『ええ。だからここで話しては色々問題になる』

「やっぱり“ラ”持ちの魔物は賢くて好きだわ。ねぇ、この後私祖国に戻るんだけど一緒に来る?」

『それに何のメリットが?私はミミと一緒に行動する。決して離れることは無い』

「もちろんミミちゃんもいいに決まってるじゃない。私思うの。あなたたち、このまま行ってもきっと意味無いわよ」

『それは実力的に?だったらそうかもしれないわね』

「それもあるけど、ある程度知っておく必要があるでしょう?真実ってものを。私の祖国って結構歴史があってね、それこそ教会よりも昔からあるの。だから教会が秘匿してるものとか数多く残ってる。私ならあなたたちにそれを見せることができるわ。どう?」

『……』


 さっきから二人の間で何を話しているのか全く分からない。だけど、今私たちの行動の決定権がシルフにあることは分かった。

 それはきっとカーラ様が私には興味無くて、シルフにだけしか興味を持っていないからだと思う。……少しだけ思うところがあるが、グッと我慢だ。

 だけどこのまま寄り道して本当にいいのだろうか。私たちはこれからユウゴを探しに行くのに。


 シルフが長考して数分が経ったとき、彼女は何か決意を固めたらしくカーラ様の顔を見る。彼女の横顔を見た私は彼女がどういった判断をしたのか、分かってしまった。


『分かった。その提案に乗るわ』

「そう、ありがとう。それじゃあ馬車に乗って」

「では私がそこまで護衛を─────」


 そうギルマスが口を挟むと、さっきまで笑顔だったカーラ様の顔がほんの一瞬だけ不機嫌なものに変わった。本当に一瞬だったのでその変わり様に私は驚いてしまう。

 しかしギルマスは気づいていなかった。


 そうしてカーラ様がさっきと同じ、だけどどこか作られている風な笑顔を張り付けて、


「何言ってるの、ギルドマスターはここでサヨナラに決まってるじゃない。来てくれてありがとう。正直いらなかったけど」

「なっ!?」


 その冷たく引き離した言葉にギルマスが絶句する。それに彼女がここまで来たことまで否定されたため、言葉を出せないでいた。

 その間にシルフがカーラ様について行ったのを見て、私も慌てて後を追う。


 そして未だ唖然としているギルマスを置いて私たちを乗せた馬車はゆっくりと動き始めた。



─────────────────────────────────────


 これにてミヤビ組編は完結です。

 続きに関しては今書いている途中なので、もうしばらく待ってもらえるとありがたいです……!


 また“面白い!”“続きが読みたい!”と思ったら、是非ともこの作品をフォローして、♡、☆を付けてもらえると嬉しいです。

 よろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

毎日 17:00 予定は変更される可能性があります

村を追われ、仲間に裏切られた異端児は世界に名が轟く化け物に成る 外狹内広 @Homare0000

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ