第29話

《Side ミミ》


 今でもあれは夢だったんじゃないかって思う。だけど目に焼き付いたあの光景が未だに忘れる事なんかできなかった。

 リーダーが同業で仲間だと思っていた冒険者に撃ち抜かれて、ユウゴの大事な家族だったロウが、パーティメンバーだったワイズに殺されて。


 ─────そしてユウゴの左目の瞳孔が縦に伸びていて。


 ユウゴは、出会った時からよく分からなかった。それはきっと仮面をつけていたからというのもあっただろう。表情が読めなくて、今彼が喜んでいるのか、悲しんでいるのか、全く分からない。

 だけど、一緒に活動していく中で彼の中で心境が少しずつ変わっていったのか、よく声に出して笑うようになった。

 私がそれに気づいた時、何故か無性に嬉しくなった。それはきっと彼が心の底から私たちを仲間なんだって認めてくれた、そんな気がしたから。

 そして少しずつ彼と話していく中で彼の胸の奥底に暗い闇があることが分かった。だけどきっとそれは私に晴らすことができないものだって直感で感じた。


 詳細は話してくれなかったけど、それに関することを話そうとすると、彼は露骨に体をこわばらせるのだ。

 きっとトラウマなんだろう。彼は強いから弱点なんか無いだろうと思っていた私にはそれは大きな衝撃だった。

 実力で言ったら私たちの中でずば抜けたものがあり、一対一で模擬戦をしようものなら彼に勝てるメンバーなんていなかった。きっと彼のお陰で私たちはAランク直前にまで這い上がれたんだろう。

 だがそんな彼にあった弱点。それに気づいた時、私は彼が雲の上にいるような、そんな遠い存在だと思っていたのに一気に親近感が湧いたのだ。


 それから、何故か彼から目が離せなくなってきていた。ワイズが私の事を好いてくれていることは前から分かっていたし、パーティの雰囲気からして私とワイズをくっつけようとしていることも実は気付いていた。


 でも、私が好きなのは、他の誰でもない、ユウゴなんだ。


「……」


 でも、そのユウゴがまさか、邪竜の子だったなんて……。受け止めきれない。

 心の整理が未だについていない。彼に逃がしてもらってからもう一年は経つと言うのに。


『ミミ』

「……シルフ」


 森の奥から一匹のウルフ─────シルフが顔を出す。彼女は今の今まで魔物を狩ってくれていたのだ。今日の晩御飯の為に。

 実際、彼女の口には魔物の死体があった。


『今日はこれを焼いてタレをつけて食べましょう』

「そうだね」


 魔物を食べるなんて、と最初は思っていたがこれが意外と美味しいのだ。どうやらこことは遠く離れた地では魔物を食す文化があるらしいが、どこかなんて分かるわけもなく。


 私は受け取った魔物を細かく切り分けて、タレを付けて串を刺して焚火の周りに差していく。

 そうして焼きあがるのを待っていると、私の横にシルフが座った。


『また思い出していたの?』

「……うん。あの時のユウゴ、なんかいつもと違くて、それが怖かった」

『あれが、ユウゴの本性。その一つよ』

「……彼は、邪竜の子、なのよね?」

『何度聞かれたって答えは一つだけ─────そうよ』

「……」


 私はその可能性を否定したくて何度もシルフに聞いているけど、答えは変わることなく、彼女はずっと私に現実を突き付けてくる。

 だけど、もうそんなこと分かっているのだ。


『あなたが私になんでそれを何度も聞くのかある程度分かっているけど、そろそろ前を向いた方がいいんじゃないかしら?』

「そうだけど……」

『それに』


 そう言って彼女は立ち上がって私の腿に頭を乗せて、



『─────彼が邪竜の子だったら、何なの?』

「……え?」



 シルフの言葉に私はハッとする。

 邪竜の子は、教会が絶対悪だって言って……本当に?

 ユウゴは本当に絶対悪だった……?


『人の言葉じゃなくて、あなたの目と心で感じ取ったものを信じなさい』

「私の……」


 そう言われて改めて彼を思い出す。やっぱりどれをとっても、彼は優しかった。最後の時だって、彼は私たちを助けるために一人残ったじゃないか。

 ……だったらあの時私がすべきことは何だったんだろう。彼と一緒に抗う事だったんじゃないか?

 一人じゃないと、彼に伝えるべきだったんじゃないか?


「そっか」


 ようやく、自分が何をするべきか、見えた気がする。


「……私、彼に─────」


 そう私が決意を口にしようとした、その時だった。


「─────キャー!?」

「『っ!?』」


 突然森の奥から悲鳴が聞こえてきた。私たちは急いでその場所へと向かう。

 ……ここで小腹が減っていたことを思い出し、さっき食べておけばよかったと少しだけ後悔する。だけど、それよりも助けるのが先だ。


 私たちが悲鳴がした場所へと辿り着くと、そこには一台の馬車とそれを囲む盗賊共がいた。


「シルフ!」

『もちろん!』


 私はシルフが駆け出すと同時に強化魔術をかける。それにより彼女の速度はいつもの二倍以上にまで跳ね上がった。


「な、なんだ!?」

「がっ!?」


 首を噛まれて大量の血を流し、盗賊の一人が絶命する。私も私で短剣を駆使して何とか一人殺すことができた。

 まだ人数はまぁまぁいるけど、大丈夫なはずだ。

 そう思って私が短剣を構えなおした、その時だった。


「ぐはっ!?」


 馬車の後ろから野太い悲鳴が聞こえる。それが立て続けに響いて、私の真横を死体が


「え?」

「あ?なんだ同業かよ─────って」

「っ!?あ、あなたは……っ!」


 シルフが唸り声を上げ、警戒する。そう、ここに来たこの女は─────グラスワンダーを壊滅させたギルマスだったのだ。



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