10.後顧
翌日、出勤した僕と木下さんは安倍兄弟から三嶋篤子の結末を聞いた。恋人と浮気相手への怨みから陰法師となってしまった彼女の魂が少しでも救われ、浮かばれることを祈るばかりだ。
「やっぱり、班長の言う通りでしたね。肝心な時にお役に立てなくて申し訳ありません」
「別に。俺達だけで充分手は足りたし。木下さんならともかく、ジミコシバクンは陰法師を相手にできないだろ」
霞の物言いはぶっきらぼうで、だからこそ深く突き刺さる。
「僕は……本当に特怪の一員として相応しいんでしょうか? 皆さんと違って、陰法師に対処する
「御子柴さん……」
特怪に戻ってきてから、自分の無力さを痛感するばかりだ。何の力も持たない僕が何故、彼らと肩を並べることになったのか。三年前だって僕が役に立った試しがあっただろうか。本当に僕は必要とされているのか? つい、そんなことばかり考えてしまう。
「それなら御子柴さんにも式鬼、貸そうか? 護身用としても使えるよ」
「えっ」
雫からの思わぬ提案に、僕は項垂れていた顔を上げる。式鬼といえば陰陽師の手足も同然という認識がある。簡単に貸し借りできるものなのだろうか。
「例えば、
「いや、それって僕に報告書を押しつけるつもりじゃ?」
「あ、バレた」
雫は悪戯っぽく笑って舌を出した。こうやって人をおちょくるところは霞の弟だと実感させられる。
「いいんだよ、ジミコシバクンはそのままで。俺達は長く人の悪意に触れすぎて、普通の感覚が麻痺しちまってる。ジミコシバクンみたいな馬鹿正直な奴がいた方が物事の本質が見れる。そういう意味では重宝してんだぜ。別に全員で陰法師に対処する必要もないだろ」
霞の物言いはつっけんどんだが、馬鹿にするような響きは感じられない。霞なりに僕を認めてくれている……のだろうか。
「御門くん、やっぱり素直じゃないですね」
木下さんが小声で囁いてきた。彼女も霞が奥底に隠した気遣いには気づいたようだ。苦笑して頷く僕に、彼女は声を潜めて続ける。
「わたし、思ったんですけど……御門くんが危険に巻き込みたくないのは御子柴さんもじゃないですか?」
「そう、かな」
虚を突かれた僕は目を瞬かせた。あの霞が僕の身を心配するだろうか? 考えて――僕は頷いた。
「いや……そうだといいな」
今の彼は、他者を嘲笑っていた昔の彼とは違う。人並みの情を持っていて、素直に感情表現ができずに不器用なだけの、血の通った人間だ。
「そもそも、陰法師を祓う術を持っていないのは俺も同じだしな」
「え?」
ぼそりと吐き出された呟きが耳に届いた。聞き返したが、霞はそれきり口を閉ざしてしまい、その真意を知ることはできなかった。
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トッカイ -特殊怪奇捜査班の事件ファイル- 佐倉みづき @skr_mzk
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