風の日
ネプ ヒステリカ
風の日
風が吹いていた。
ピュー ビュー
強い風が吹いていた。
大きな石の上、
男の子が立っていた。
帽子のひさしに手をかざし、
灰色の空を見上げていた。
こんなに風が強い日に、
帽子は、とばされないのかしら。
かざした手の先は、灰色の雲だけ。
なにも見えないのに。
声が聞こえた。
「アライ、アライをよろしくお願いします」
選挙かーの上で男が、
マイクを持って名前を連呼している。
車の上のスピーカーから、
大音量で名前をぶつけてくる。
でも、声は、途切れ途切れ。
途切れて、風に飛ばされて、銀色の空に消えていった。
選挙なんてないのに。
なにをよろしくするの?
アライ?
洗い?
アライはだれ?
ピュー ビュー
アライと、彼の選挙カーは、
風に吹かれて飛んでいった。
ビューッと吹かれて、
あっという間に見えなくなった。
アライの飛んで行った青い空を見上げた。
こんなにお天気が良くて、
風があるから洗濯物がよく乾きそう。
屋根の上に女の子がいた。
風が強くて、木もザワザワゆれているのに、
危なあ。
あんなところにいて、
怖くないのかなあ。
のっぽのオバさんが来た。
「危ないわ、降りてきなさい」
と、女の子にいった。
「風に乗りたいの。風に乗って飛んで行きたいの」
と、オバさんに向かってさけんだ。
「空は危ないわよ」
そういって、どこかに行った。
女の子を見上げた。
空を見つめ、
「飛びたいの。飛んで行くわ」
女の子は大声でいった。
大声で叫んだ。
風は、怖くないの?
どこに飛んで行きたいの?
聞こうとしたら、
ヒョイ
女の娘は、飛んだ。
屋根から落ちずに、
風に乗って、
スカートをひらひらさせて飛んだ。
気持ちよさそう。
チョウチョのように、女の子は、
ゆらゆらと、
どこかに飛んで行った。
あっと、いう間に女の子は見えなくなった。
オレンジ色の空を見上げた。
探したけど、
女の子は、見えなくなってしまった。
わたしは、風に乗りたいと思わない。
どこに行くのかわからないから、
風に乗りたいと思わない。
空を飛びたいと思わない。
風の日 ネプ ヒステリカ @hysterica
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