(番外編)第4話 運動会
10月のとある日曜日。ルアン、レイナの小学校の運動会が開催された。
もちろん私も父兄として小学校を訪れた。
午前中の競技がすすみ、お昼ご飯の直前、前半の部の最後を飾るのは赤組、白組の応援合戦。
白組の応援団長はルアン、副団長としてレイナとユズル君がその後ろに控える。
ルアンとレイナが応援団長と副団長に選ばれたことは聞いていた。二人がその役目を引き受ける条件が、ユズル君も応援団に入れることだったらしい。最初は嫌々だったユズル君であるが、3人で練習しているうちに楽しくなってきたらしい。今日はどんなパフォーマンスを見せてくれるか楽しみだ。
3人はお揃いの膝くらいまである長い白のハッピを纏い、手には白い手袋を付けている。頭には長くて白い鉢巻きを巻いて背中に垂らしている。
今日の二人のヘアスタイルは、頭の上の左右でお団子を作ってそこから髪を左右の肩まで垂らしている。二人と初めて出会ったときの髪型だ。
今朝、私も手伝ってセットした。すごく似合ってる。かわいい……
ユズル君のたたく太鼓のリズムに合わせて、ルアンとレイナが左右に並んで応援パフォーマンスを披露する。
空手の演武のような動き。あの子たち、そういえば前に椅子を壊したおっさんに『旋空足払い』(私命名)をかけたっけ。何か格闘技やってたのかな。
「ルアンちゃーん」
「レイナー」
白組の子たちから黄色い声援が飛ぶ。紅組の生徒までも白組の応援を見ようとやって来てる。
二人ともきりっとした真剣な表情を崩さない。こんな表情普段は見られない。かわかっこいい……
ルアンが叫ぶ。
「白組の勝利を祈ってーーー フレー、フレー、し・ろ・ぐ・み」
それにあわせて白組全員で声を合わせ、手拍子しながら大声で叫ぶ。
「フレッフレッ白組、フレッフレッ白組組」
続いてレイナ。
「ガンバレー!ガンバレー! し・ろ・ぐ・み!」
「ガンバレ、ガンバレ白組、ガンバレ、ガンバレ白組組!」
ドドン!というユズル君の太鼓を合図に白組の応援は終了した。
お昼休憩。たいていの子たちは観戦に来た家族といっしょにお昼ご飯を食べるが、そうでない子たちは担任の先生といっしょに食べることになっている。
ユズル君は担任の先生と2人でシートに座って、出来合いのサンドイッチを膝の前に置いているが、手を付ける様子はない。
「おじゃましてもいいですか?」
私はユズル君と担任の先生に声をかけた。もちろんルアン、レイナもいっしょ。
「いっしょに食べよー」
ルアン、レイナがユズル君に手をひらひらと振っている。
「歩海さん!ルアン、レイナ!」
ユズル君の顔にぱっと笑顔が広がる。素直な子だ。
「5組の孫ルアン、レイナの父兄の山下歩海です。ユズル君とは仲良しなんです」
先生はどうぞ、どうぞと場所を開けてくれた。
「じゃーん!」
私は自分で効果音を出して、夕べから仕込んでおいた自信作の3段重の包みを解き広げた。
一段目は白むすび、お稲荷さんを半々くらいづつ詰めてある。
二段目は鶏もも肉のから揚げ、ハンバーグ、アスパラのベーコン巻き、ミニトマト、卵焼き、たこウインナー、ブロッコリーなど子供の喜びそうな焼き物、揚げ物のオンパレード。
そして三段目は二人の好物のかつ皿。かつ丼の上にのせるトンカツの卵とじだ。朝上に乗っけた三つ葉は、ちょっとへなってなってるけど。
「わー、おいしそうですねー」
「先生もよかったらどうぞ。ユズル君、はい、お箸と取り皿」
「あ……ありがとうございます」
「おいしー」
「うん、おいしーね」
まずはかつ皿に手を伸ばす二人。好きなものから食べるタイプなのだ。
「ユズル君?」
ユズル君は取り皿にお稲荷さんを乗せたまま、うつむいてしまった。
正座した彼の膝に涙がポタポタと零れる。担任の先生が察してユズル君の背中をさすっている。
これは、やっぱり、どうにかしないといけないな……
私たち3人は視線を交わしてうなずき合った。
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