(番外編)第2話 ラブレター

「斎藤先生?うん、いい先生だよ」「優しいしね」

「でもなんか最近元気ないよね」「どうしたんだろうね」

「二人とも斎藤先生のこと好きなんだね」

「うん、大好きだよ」

 ちょっと嫌な感じがする。それが顔に出ちゃったらしい。

「歩海のこと好きって言うのとは違うよ。先生として好きってことだから!」

 あわててフォローしてくれる。私ってほんと大人げない。思ったことがすぐ顔に出る。二人は英語だって喋れるのにって今は関係ないか。

「そう言えばさ、ね、ルアン」

「うん、今日は下駄箱にこれが入ってたんだ」

「手紙?」

「読んでいいよ」


「ラブレターじゃん!」

 封筒の裏側に差出人の名前がカタカナで書いてあった。『ナガセ ユズル』

 どっかで聞いたような気がする。

「同じクラスの子?」

「ううん」

「6年生?」

「さあ……知らない」

「どうするの?」

「もちろん断る。けど、どこの誰かも分からないし。とりあえず向こうからアプローチしてくるまでは放置かな」

 それにしても二人に同じラブレターを出すってどういうことなんだろう。姉妹なんだからすぐばれるに決まってる。変な子だ。

 

 思い出した!この前、鍼灸院に来ていた子だ。名前をカタカナで書いてあったから分からなかった。下駄箱に手紙ってことはルアン、レイナと同じ学校の生徒ってことだ。学年も同じ6年生。

 確か次の予約が入っていたはずだ。


 ユズル君のことは孫先生情報も含めてルアン、レイナに話した。本当かどうか分からないという前置き付きで。

「孫先生の言うことは本当だよ」

「間違いないね」

 二人はそう断言した。これまでにもそういう経験があるのだろうか。


 ユズル君は予約の時間の10分前にニイハオ鍼灸院にやって来た。几帳面な子だ。沓脱できちんと靴を揃えるあたりにも彼の几帳面な性格が現れている。スリッパ立てから子供用のスリッパを取って履き、こちらを向いたところで「あ!」と一言。そのまま固まった。

 待合のソファーにはルアンとレイナが座っていた。二人とユズル君の目が合った。


 もしかしたら逃げるかなと思ったが、

「ばれちゃったみたいだね」

 彼はちょっとばつが悪そうな顔で微笑んだ。なぜばれたのか理由は聞かなかった。

「ばれなかったらどうするつもりだったん?」

「私たちの返事は聞きたくなかったん?」

 ルアンとレイナが詰め寄る。でもユズル君、案外肝が据わってる。全然動じないで、

「返事は聞かなくても分かってるからね。ただ、自分の正直な気持ちを伝えたかったんだ」

「そんなの卑怯じゃん!私たちだって手紙もらってすごく悩んだんだよ!」

 悩んでた?放置してただけなんじゃ……

「ごめん……」

 ユズル君はうなだれてしまった。素直な子だ。

「私たち二人に同じラブレターを出すってどういうことか教えてくれる?」

「二人とも好きだから。どちらかなんて決められなくて……」

 本当に素直な子だ!でもどっかで聞いたようなセリフだな……私は密かに自分の小さな胸に手を当てた。

 

 ルアンとレイナは顔を見合わせて、しばらく考え込んでいる。

「ユズル君、本当に私たちのこと好きなの?」

 うなだれていたユズル君がはっと顔を上げる。

「もちろん!」

「分かった。お付き合いはできないけど、友達ならいいよ」

「本当!?」

「その替わりちゃんと学校に来るって約束する」

「……知ってるんだね」


 それからユズル君のことはよく二人から聞くようになった。ユズル君は約束どうり学校には来ているらしい。

「給食のあとユズル君のクラスに遊びに行ったら、ユズル君、いつも一人で席にいる。3人でおしゃべりする」

「ユズル君、友達うまく作れないみたい。一人ぼっち、寂しい」

「でもユズル君が一番寂しいと思っているのは、お父さんお母さんがお店やってて忙しくて全然構ってくれないことだって」

 孫先生の言っていた通りだ。

「歩海といっしょ。ほっとけない」


「次の日曜日、3人でデートする約束した」

「ええ!?」

「歩海も来る。いいよね」

「是非、おじゃまします!」


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