第7話 遠距離恋愛
ついに孫パパとママが二人を迎えに来た。
「夏休みが終わるまでいてくれたらいいのに」
「この子たちはまだ未成年。私はこの子たちの保護者。この子たちには自分の家がある。そのことはきちんとしないといけない。歩海さんには大きなご恩を受けた。でもそれとこれとは別のこと」
「ご恩のことはもういいですよ。この5日間でルアンとレイナが身体で払ってくれましたから」
もちろん働いて払ってくれたって意味だ。念のため。
「二人から孫パパとママにお話があるんです」
ルアンとレイナはパパのお金を盗んだことを打ち明けた。そして、
「ごめんなさい!」三人で頭を下げた。
孫パパは「はあー」と深い溜息をついて、
「おかしいとは思ったよ。どうしてお金の場所が分かったのか、どうやって侵入したのか。鍵はちゃんと懸けてたから」
「今回は歩海さんに免じて許すヨ。帰りたいっていう二人の気持ちを無視した私も悪かったネ。でも二回目はないよ、いいね」
「はい」神妙にうなづく三人。
そして孫さん一家はキッチンカーで神戸へ帰って行った。私はまた一人になった。でも以前とは違う。ルアンとレイナと私は、もうただの知合いではない。心を確かめ合った恋人同士という仲だ。
会えないことは寂しい。でも何も言えずに悶々としていた頃と比べれば、ずっと気持ちは安らかだ。
会いたい……
私の店の定休日は水曜日。その日ルアンとレイナは普通に学校に行っている。二人が休みの週末は、私の店は営業している。
毎日メールをやりとりするけれど、それだけじゃ足りない。二人の顔が見たい。声が聴きたい。
それならライブ通話って手もある。分かっている。それでも不満だ。結局私は二人に触れたいのだ。抱きしめたい。二人の匂いを感じたい。
長距離恋愛がこんなに苦しいとは思ってもみなかった。冬や春の長期の休みは会いに来てくれるけど、それだけじゃ嫌だ。もっと頻繁に会いたいよ。毎日一緒にいられたらいいのに。
夏休みが来て、孫さん一家が今年もキッチンカーでやって来た。家族旅行に出発する前に立ち寄ってくれたのだ。でもすぐに行ってしまう。そして夏休み中は帰ってこない。
そんなことを考えて、私は二人に対してどうしても拗ねた態度をとってしまう。
私に向けてくれるいつも通りの笑顔を見ないふりしたり、三人で眠るとき寝たふりをして話しかけてくれる言葉を無視したり。
それでも懲りずに笑いかけてくれる二人。
情けない。どっちが大人か分からない。ほんの少しの間しか一緒にいられないのに、その時間さえも無駄にしている。分かってる。分かっているのに素直になれない。まるで子供だ……
「歩海、ごめんね。私たち行くよ。毎日手紙書くし、メールもする」
私はただ黙って、出発しようとするキッチンカーの横に立っていた。
「パパはママとキッチンカーで世界中を旅して生きていこうって約束してたの。でも日本に来て、私たちの学校のこともあって、神戸で店を開いた。そのとき一年に一回は家族でキッチンカーで旅行すること約束した」
「ママがいなくなって一度は諦めたけど、パパ、キッチンカーで世界中を旅する夢、諦められないんだと思う」
「せめて夏休みだけは付き合ってあげたい」
私は自分の器の小ささに、小さな胸が締め付けられた。
奥さんがいなくなった孫パパにとって、夏休みのキッチンカーでの家族旅行は、奥さんと共有した夢の欠片(かけら)なのだろう。
それを私は自分の狭量な我儘で壊そうとしたのか。最低だ!こんなんじゃルアンやレイナに嫌われてしまっても仕方ない。
「ルアン!レイナ!」
私は走り去ろうとする車に向かって叫んだ。
「大好きだよ。手紙待ってる。メールも。愛してる!こんな私でゴメンね!」
二人は車の窓から手を振ってくれた。その笑顔が私のこと嫌っていないよって言ってると信じたい。
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