半勇半魔~勇者と魔王の力を持つ一般市民くん~

しらたきこんにゃく

第1話 勇者定住

 一面真白な空間の中に、一人でポツンと突っ立っている感覚。

 上下左右前後まるで分からない。身体を動かすことも、口を開くことどころか瞼を開くことすらろくに出来ない。

 近頃この夢をよく見るようになった。たまに空間がひび割れ焼け野原や風穴ばかりの城、そして黒髪黒目と金髪碧眼の男たちが戦いあっている光景……景色こそ変われど、この場所が何処か理解できずにいた。

 今回もただ疲れるだけの夢か、と高をくくっていた自分の耳から次の瞬間、聞こえたものがある。


「おや、こんなところに客人とは珍しいね」


 若い、弱冠二十歳くらいの青年の声だ。優しい声色をしている。


「初対面なのに無視とは……多少礼儀がなってないんじゃないか?」


 違う。話したくとも何もできないだけだ。

 そう相手――いるのかもわからない声へ伝えようにも、金縛りにあっている状態では何もできないことが関の山だった。

 すると相手は、奇跡的に伝わったのか知らないが、何やら息をのんだ。


「その調子だと何もできないだろう。少し待っているといい」


 数歩分の足音が聞こえ、ごそごそと音がする。金属同士がぶつかる音、布が擦る音なんかが聞こえてくる。

 

「あったあった。今から鳴らす音をよく聞くんだ」


 そう言った後、ゴォォンと鐘の鳴る音が繰り返し聞こえてくる。重厚感のある、寺院などにありそうな鐘の音だ。

 しばらく聞いていると、ふと瞼や口、身体の節々が軽くなっていく感覚に襲われる。今まで身体の上に乗せられていた重りがなくなり、羽が生えたような感覚だ。


「おはよう。金縛りから解放された気分はどう?」


 瞼を開くと、目の前にはいつか見た映像にいた金髪碧眼の男――イケメンがいた。





「これは《呪鎖破りの聖鐘》といってね。聞いた人物の状態異常を破る聖遺物さ」


 聖遺物とは、遙か昔に製造され、神の祝福を受けた遺物だったはずだ。

 魔道具と呼ばれる人類が扱うには強すぎる魔法や魔術、魔力を封じ込めたものの最上位互換と魔道具屋を営んでいる友人から聞いた。


「そんな貴重なものを……すいません」

「気にすることはないさ、僕が持っていても仕方がないものだから。そういえば、自己紹介がまだだったね。僕の名前はルイス・セインテスト。よろしく、ジニア」

「よろしくお願いします……僕の名前知ってるんですね」

「あぁ……昔死闘を繰り広げた男と同名だったから自然と。ところで、僕の名前に聞き覚えはない?」

「いえ、まったく」

「そんな食い気味に……多少ネームバリューついてるかと思ったのにな、残念。僕勇者なのに……」


 そう言い、ガックシと動きで表現するが如くわかりやすく肩を落としたイケメン――ルイス。表情がよく変化する、親しみやすい性格をしている。

 いや、勇者って……御伽噺じゃあるまいし。

 しかし、勇者という言葉を聞いた途端、僕の中の何かがうずき始めた、ような気がした。なにかはわからないが。


「――少し失礼」

「え? ちょ……!」


 先ほどまで肩を落としていたルイスが急に眼を鋭くし僕の胸あたりを見たかと思えば、身体が多少の光とともに七つの光玉になり、そのまま胸の中に入ってきた。

 ……なぜか筋肉質な体になった気がする!


『ごめんね。僕君に興味がわいちゃった。僕の力あげるから住まわせてもらうよ』

「ちょっと何言ってるかわからない」


 まったく、急に何を――ん? なんだか、眠く……。





 瞼の隙間から明るい光が差し込んでくる。瞼を持ち上げれば、いつも見慣れた自分の部屋だった。

 特に身体の変化もない。雑誌の読みすぎだろう。そう思い、自分の部屋に立てかけた鏡で自分の顔を見ると――


「なんじゃこりゃ」


 夢で見た金髪碧眼イケメンになっていた。

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