第32話 逆手に取ったもの勝ちかなー

「メンヘラの心理を利用して誘き出す?」

「うん、イケると思うよ。絶対」

前もって内容を聞いたらしき美晴さんは現在、美愛さんにあの女が現れたって報告および協力を仰ぐため席を外している。

「ただし、これには十数人の協力が必要なのが前提だよ」

「ええ、だから組員と警察の数人をよこすよう美晴に伝えてあるわ」

「……?」

「今から順を追って説明するね」

はてなマークを浮かばせる俺のために、レナ先輩が順を追って説明に当たってくれる。

「まず三日後に遭わせるって言ったけど、あれはいい塩梅の日付を適当に言っただけ」

「時間が開くとなにかあるって疑心暗鬼になる。これには心当たりあるよね?」

「ああ。ありすぎて困るくらいだ」

妄想癖激しいせいか、あるいはメンヘラの習性か。

五分くらいレインを読まないだけで気がつくとウェブ小説短編完成さながらな辺審が来た回数は数えきれないくらいだ。

3日以上なんて哲学の域に届くまである。

「で、ここからが本題だけど……その妄想癖を逆手に取るの」

「できるのか? てっきり妄想癖発動前に会うの前提でなんとかするのかと思った」

「違うよ。疑心暗鬼になる前提で作戦を組むつもり」

「三日後には出てこないだろうけど、その前には必ず出てくる。その上にさとし君が自分を探してくれると信じ切るはずだよ」

「刺した相手に望み多すぎじゃなーい? 身勝手すぎるよ?」

「そもそも自分が刺した=さとし君への求愛行動って認識みたい。人間じゃないよ」

思考が読めないって言葉そのまんまだ、本当に。

「そもそも絶対出てくるって根拠が足りないんじゃないか?」

「さっきわたしたちが電話に出たよね? それが伏線になるよ」

「知らない女に勝手に呼び出される→絶対何かあるに違いない→私のさと君が!!を狙ったのねー?」

「おまけに当日のリサーチかな。罠だった場合や当日出てないってバレたらあのメンヘラ女的には悔しくてたまらないだろうからね」

「で、あぶり出す方法は分かったけどその後どうするつもり? 人がないところ指定しても似顔が多すぎてわからないよー?」

「そこでボディーガードとさとし君だよ」

「?」

「美晴さんには前もって説明したけどね? ボディーガードさんたちに協力してもらってギャラリーになってもらうの」

「夕方くらい目処にして……そうだね、私服とスーツ姿半々でわからないかな」

「一人くらい演技上手い人が欲しいけど、その人には地雷服を着て貰って……」

「それは無理ね」

「なんで?」

「さと君の今の状態見てそれ言えるのかしら」

「無神経だった、ごめん」

「いや、地雷っぽく見える普通の組み合わせだったらいけるかもしれない」

「さと君?」

「あの女ほっといたら今よりこじれて厄介だぞ? できるだけの策は試してみようぜ」

頼む。と言い放つ俺から必死さを感じ取ったのだろう。

ため息つき、「ただし」と口にする。

「私と美晴もその場にいさせてもらうわ」

「もちろん。おいしいところ取ったりしないよ」

「そもそもわたし達三人がいないと実行できないよ」

「?」

「今言った“地雷っぽい服を着た”ボディーガードさんに別れを告げられて未練ダラダラなメンヘラ役をさとし君とデート真っ只中のわたし達の前で演じてもらうの」

考えておいたのか、台本はとっくに出来上がっていた。

「要するに元カノ役のボディーガードの言い分に私たちは関係をほのめかすだけして黙ってる役で」

「俺は終わった関係と結愛たちが大事だと釘をさす」

「元カノ役のボディーガードさんには大声でヘラって復縁まがいの発言を大声であげてもらって、さとし君をわたし達から奪っていくふりをしてもらうの」

「触発されて出てくるということか?」

「その場にいるなら絶対くるよ」

ふぅっと一息ついて、レナ先輩は説明を続ける。

「彼女の中ではまだ別れてないことになっている。そこで自分に近い服装の子が大声で“私の彼氏をたぶらかそうとするな”的な発言をしたら癇癪起こして断罪という言い分で絶対つっかかってくるよ」

断罪か。

凶器使う前提で話しているが、多分持ち歩いてるはず。

「不都合が生じてもこちら側の人しかないから後はまさに煮るなり焼くなりってところねー」

「理屈はわかったけどさ、演技までする意味あるか? 前日から待ち伏せした方が効率いいだろ?」

「似顔が多すぎて逮捕できなかったって言ったよね?」

「あっ」

そうか。

特定するための一芝居打つのか。

「考えが及ばなかったー」

説明が一通り終わったタイミングで美晴さんが寝室に戻り、とんとん拍子で会議が進んでいく。

報告したところ、美愛さん直属の部下、美羽さんが元カノ役に名乗り出てくれたらしい。

何故か渋い顔のまま話したけど、何故かいまいちよくわかってない。

レナ先輩がリサーチして、五駅先のデカい公園があるけど、何故か人があまり通らないという口コミがあったので誘き出す場所はここに指定。

遅すぎる時間帯は疑われる可能性があったため、あえて早い時間帯に伝えておく。

「にしてもお嬢様、トドメ刺さなくてよかったのでしょうか」

美晴さんが発した不穏なワードに階層から意識が強制的に引き戻される。

こいつは有言実行タイプだ。

実際、その気になれば手にかけるのもそう難しいことではない。

散々“殺す”とか言ってた。

しかし数発殴って骨数本折るくらいで済ませている。

てっきり殺ってくると思ったけど、あの女は後ろ手に手錠嵌めさせられたままパトカーに乗ってる。

おじさん、健次郎さんのところの警察が混じっていたのか。

だからギャラリーの中に男子がいたのか。

「さと君に……」

「ん?」

「さと君に、嫌われるのは死んでもや」

「殺せるけど、殺したいけど、それで嫌われるのも、余計な心配かける方がもっと嫌、かも」

「お嬢様……」

「結愛……」

「結愛ちゃん……」

頭を撫でてた手を止め、結愛を思いっきり抱きしめようとして。

コケた。

「ちょ、大丈夫ですか。智様!」

「情けないよさとし君。肩贔屓しようとした罰だよ?」

「健気なこと言ってるんだぞ? あのクレイジーガール結愛のたぎる発言、たぎるモノがあるんだぞ!?」

「もう……褒めても金と私の愛情とエッチな行為しか出ないよ?」

「ご愁傷様です、智様。どうか今晩、生き残ることを祈っています」

褒めたらアタリしか出ないガチャ宣言してない?

美羽さんは何故か合掌してる。意味わかんねー。

「あのお嬢様が……清楚発言!?」

九重家を刺激した俺、宇別智殺人未遂事件は、こうして幕を閉じた。

ハーレム計画の実質的成功と共に。

最後の最後まで頭のネジが疑われる怒涛の展開。

締めのセリフまで終わってる。

いかにも俺たちらしい締め方だなって思えて内心ほっとした。

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ハーレム計画~振り返るとこの人しかなかったになるヤンヤン理論~ みねし @shimine0603

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