ちいちゃんとお弁当物語

黒猫

ちいちゃんとイナゴ交換作戦

昭和時代のこと。4歳のちいちゃんは、毎日児童館に楽しく通っていました。ただ一つだけ、不満がありました。それはお弁当でした。


ちいちゃんの住む地域では、田んぼが広がり、イナゴがたくさん捕れました。帰宅すると、ビニール袋を片手にイナゴ捕りに出かけるのがちいちゃんの日課です。時々ショウリョウバッタを間違えて捕まえ、醤油色の液体をかけられたこともありました。ちいちゃんはそれを「醤油バッタ」と呼んでいましたが、これが正しい名前だと思っていたのです。


そんな日常の中で、捕まえたイナゴは、ちいちゃんのお母さんが大きな鍋で佃煮にしてくれました。そのイナゴ佃煮が毎日のお弁当に入っていました。


ある日、児童館でお弁当を温めてくれることになり、回収されました。同じキャラクターのアルミ弁当箱を持ってきていた気の弱い翔平くんもいました。先生は「中身でどちらがどちらのお弁当か分かる?」と尋ねました。


もちろん、ちいちゃんはすぐに分かりました。片方には、美味しそうなイチゴや卵焼き、ほうれん草、プチトマト、ウインナーが入っていました。一方、ちいちゃんの方と思われるお弁当には、ほうれん草、イナゴごはん、梅干し、ごま塩だけです。


ちいちゃんは迷わず、美味しそうなお弁当を指差しました。「ちいのはこっち」と。先生は「本当にそうかな、ちゃんと見てね、お互い大丈夫?」と確認しましたが、翔平くんは黙っていました。先生が「じゃあ、どうぞ」と言うと、ちいちゃんは心の中でガッツポーズをして、無我夢中でそのお弁当を食べ、幸せなひとときを過ごしました。


夕方、児童館から電話がかかってきました。母親は、「お弁当箱同じお友達いるみたいね、お名前書いて行こうね」とだけ言いました。母親がどこまで知っていたのかは定かではありませんが、ちいちゃんの出来心を誰も責めることはありませんでした。ただ、ちいちゃんはこれから先、あの美味しかったお弁当を食べられなくなるのかと思うと、少し残念な気持ちになりました。


そんなちいちゃんの小さな冒険は、幼い心に深く刻まれた思い出となりました。

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ちいちゃんとお弁当物語 黒猫 @tanokuro24

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