鯨の戯言【#毎日短編】

鯨伏 来夢/イサフシ ライム

鯨の戯言【#01】___目覚まし鳥__

「じりりりりりりりり!」

 朝っぱから元気に目覚まし鳥は歌う。下手っぴなその歌は、良い目覚ましなのだが…なにせうるさくて、朝から不快にさせる。

「起きたよぅ、もういらんって」

 目覚まし鳥のずんぐりむっくりのまん丸腹を鷲掴みにしてやると「り!」となって落ち着いた。小さくため息を吐いて、掛け布団を蹴飛ばすと、僕は重い体を起こした。僕の目覚ましは手の中でキョトンとなっていた。

 ベッドから飛び降りて、目覚ましを元の棚上に戻してやると、目覚ましのそばにおいていた筈のスマホを拾い上げて、僕は自室を出てキッチンに向かう。

 電子ポットに水を注ぎ入れて、カチッとスイッチを入れ、マグカップとインスタントのコーヒーを手に取った。僕のインスタントコーヒーはもちろん、クヌの実じるしのだ。

「…あれ、シロップどこやったっけ」

 マグカップに雑にコーヒーのモトを入れながら、ボソリとつぶやいていると、ふと寝室から「じりりりり!」と、またあの下手くそな歌が聞こえてきた。

「っるっせ!!わかったよ!すぐ飯を用意するから黙ってな!アンタのせいで最近、近所迷惑なんだよ!」

 軽めに叫んで置くと、あのいまいましい鳥は黙ってしまった。ふぅ、また歌い出す前に用意してやらないと。テーブルの上のマグカップたちを置いて、僕はキッチン棚から、あいつの飯が入った袋をひったくる。

 また、自分の寝室に重い足を引きずって向かう。扉を開けた途端、あの目覚ましはまってましたと言わんばかりに、ちっこいクチバシでフードボウルを咥えて待っていたのだ。思わず、ふっと笑ってしまうような愛嬌ある姿。

 …これだから、変に憎めない。

「ホラ、それ置きな。入れれねえよ」

 賢いのか、馬鹿なのか。そうやって声をかけても、目覚ましはボウルを置いてはくれない。僕がポケットからスマホを取り出して、写真でもとってやろうとした途端、唐突にその目覚ましは、ボウルを床においた。

「ほんまコイツ…」

 僕はジャラジャラと餌をそのボウルに注いでやった。餌にがっつくその鳥を今度こそ写真にお収めてしまうと、「留守中に騒ぐなよ」とだけ咎めて、寝室の戸を閉めておいた。

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